これは。
ほくろ戦隊ダイブツダー!」と「ほほえみ戦隊ゴクラクダー!」の
続編に当たるSSです。
おそらくこの二つをお読みになってからの方が、
意味が分かりやすいかと思います。
単独でも読める、かなぁ。はい。


ほくろ戦隊ダイブツダー!
〜六人目のダイブツダー登場?!





「ねぇ、英二。東京ネズミーランド(仮)は好き?」
「え?好き!!すごい好き!!でも、何で?何で?」

 それは突然のことだった。
 教室でぼんやりと頬杖を突いていた菊丸は、不二の声にがばっと顔を上げる。
「じゃあ、大石はどうかな?大石も好きかな。」
「うん!きっと好きだよ!」
「そうか。僕も好きなんだ。」
 不二はにこっと微笑んだ。その笑みの裏に潜む意味を、菊丸たちが悟るのは翌朝のことである。

「ねぇ、東方。東京ネズミーランドって楽しいよね!」
「え?ああ、そうだな。俺も好きだぞ。あれは。」

 山吹でも、そのころ、同じような会話が行われていた。
「南も好きかな。好きそうだよな。」
「ああ。春休みにも友達と行ったらしいし。」
「そっかぁ。俺も好きなんだよね〜。」
 千石はにたにたと微笑んだ。その笑みの裏に潜む意味を、東方たちが悟るのは翌朝のことである。

「ねぇ、橘くん、東京ネズミーランドはお好きですか?」
「……うわっ。なぜ、不動峰の便所に潜んでいるんだ。観月!」

 それは、突然すぎた。
 放課後、部活前にトイレに寄った橘の前に、なぜか観月が姿を見せたのである。
「んふ。東・京・ネズミー・ラ・ン・ド!お好きですか?」
「……行ったことがないが、行ってみたい場所ではあるな。杏は好きらしい。」
「石田くんと桜井くんはどうでしょうね。」
「好きそうだな。良くは知らないが。」
「んふ。そうですか。僕も好きですよ。」
 観月は、んふ、と微笑んだ。その笑みの裏に潜む意味を、橘たちが悟るのは翌朝のことである。

「ねぇ、跡部、東京ネズミーランド、好き〜?」
「は?ネズミーランドと言ったら、ロサンゼルスじゃないのか?」

 跡部に同じ質問をぶちかましたジローは勇敢であった。しかし、少し無謀すぎた。
 観月のシナリオでは対応できない相手が居る。そう悟って、ジローは潔くあっさりと寝ることにした。
「おやすみ〜。」
「おい!部活、始めるぞ!起きろ!ジロー!!」
 ジローは幸せそうに微笑みながら、深い眠りの海へと沈み込んでいった。その笑みの裏には、たぶん、意味など潜んではいなかった。



 土曜の早朝から、ダイブツダー本部にはほくろ戦士たちが集結していた。
 橘の携帯をぽくぽく鳴らせた携帯メールは。
「ヨコシマ日本一を目論む千葉県代表の六角が、東京に侵略を開始したよ(*^_^*)。今日は僕たち、忙しいから、ダイブツダーのみなさん、対応よろしくね(^^)V不二周助σ(^^)」
 と。
 微笑み全開で。

「杏。このかっこ内の符号は何だ?暗号か?」
「……お兄ちゃん。これは顔文字って言うんだよ。」

 悪さ日本一を目指す神奈川の立海大附属に触発されて、六角が「ヨコシマの千葉」実現に向け始動したことは、橘も聞き及んでいた。しかし、まさか、いきなり侵略してくるとは……。
 少し俯き加減に、橘は思いを巡らす。

 本部に下がる風鈴が穏やかに鳴る初夏の明け方。
「跡部のほくろってさぁ。ほくろ戦士の証じゃないの?」
「ばぁか。俺がほくろ戦士だったら、樺地はどうするんだよ。」
 今日の対応やこれからの方針を考えている橘の横で、菊丸と跡部がのどかに茶を飲みながら、笑顔で語らっていた。

「いいじゃん。一緒に戦えば。」
「樺地は俺が後方支援してやらなきゃ、戦えねぇんだよ。」
「そっか!」
「俺が世話してやらなきゃ、樺地はダメなんだよ。なぁ、樺地?」
「う、うす。」
「跡部は面倒見が良くて偉いなぁ。」
「はん。まぁな。ついでに言うと菊丸。自分の手を汚さずに正義を守るってのは、後方支援の醍醐味だろ?」
「そっかぁ。跡部はいろいろ考えていてすごいなぁ。」

 桜井は。
 侵入者をレーダーで探知しながら。
 誰か、どこかで突っ込んでやれ!と。
 心の底から祈っていたが。
 その祈りは報われなかったのであった。

「で。どうするんだよ?あ〜ん?」
「そうそう!橘!どうするの、結局?」

 桜井は。
 あんな会話の後で、普通に橘さんに話しかける菊丸&跡部コンビは無敵だ、と。
 心密かに尊敬した。

 意を決したように、顔を上げた橘。
 その瞳には、正義を愛し、平和を願う強い意志の光を宿している。
「とにかく、まずは六角を迎撃する!ダイブツダー出撃だ!」
「おう!」(←三年生軍団)
「はい!」(←二年生軍団・樺地除く。)
「うす!」(←樺地)

 橘の号令一下、ダイブツダーたちは一斉に走り出した。
 そう。輝く雲に乗って。
 ほくろ戦士たちは戦場へと赴くのである。



「今ごろ、ダイブツダーは焦ってるころですかね?んふ。」
「ダイブツダーと六角で潰し合ってもらって。漁夫の利を頂くのは俺らゴクラクダー♪(にたにた)」
「世の中、効率だよね。頭を使わなきゃ。くすくす。」
「ふふ。上手くいくと良いけどね。(にこ)」
「zzzz……。」



 ところ変わって、時間も遡って。
 こちら、六角中。しかも昨夜のことである。

「……どういうつもりだ!木更津!!」
「やだな。サエ。そんな怖い声。柄じゃないよ。くすくす。」

 テニスコートに唐突に現れた昔の仲間を、六角のテニス部員たちが懐かしむ暇のあればこそ。
 雨上がりの初夏の夕風に、真紅のはちまきをなびかせて。
 木更津は、いつもの笑顔を絶やさぬままに、はっきりと宣言したのであった。

「東京ネズミーランド、今日から東京都のモノにしたから。くす。」

 その瞬間、六角の空気が一変したのは、おそらく誰の目から見ても明らかであっただろう。
 普段は冷静な面々も、一斉に色を失って。
「……木更津……!!」
 唸るように、黒羽が噛みついた。
「お前!千葉を愛し、ネズミーランドを愛する心を……忘れたのか?!」
「ばかだな。バネ。俺は今でもネズミーランドを愛しているよ。……だから、自分の住んでいる場所に持って帰りたいんじゃないか。くすくす。」

 沈黙が六角を支配した。
 誰もが木更津の言葉に唇を噛みしめて。
「逆らってもムダだよ?俺に逆らうなら、成仏させてあ・げ・る。くす。」
 去ってゆくその背を睨み付けるしか、できなかったのである。

 真っ先に言葉を放ったのは、寡黙な天根。
 無造作に、しかしきつく髪を結い上げながら、低い声で呟いた。
「……東京から……俺たちの夢の国を、奪い返す!」

「そうだ!天根!俺たちにはそうする使命がある!」
「葵がそう言うんなら。行くしかないな。どうだ?バネ。」
「当たり前だろう。サエ。ってわけで。」

「「「行ってこい。ダビデ。」」」
「うい。」

 天根は出撃した。
 東京を目指して。
 愛するネズミーランドを千葉県民の手に取り戻すために。

 今日のお昼休みに葵が拾ってきたポンコツバイクに、佐伯がちょこちょこと手を加えて作った邪の飛行物体邪虎丸1号は。
 黄色と黒の横縞模様も鮮やかで。

「……全身全霊賭けても、阪神ファン……。ぷっ。」
『阪神は関係ねぇっての!!!』(←六角の黒羽。)

 まるで、熱狂的阪神ファンなのかと勘違いしそうな配色であった。ちなみに塗ったのは樹である。
 外見がバイクのようだとはいえ、もちろん、邪の飛行物体なので、邪虎丸1号は空を飛ぶ。
 車体には大きく「邪心坦懐・千葉県」「ネズミー命・六角」と大書して。

 東京目指し、一直線に飛んで行くのである。

 そして、到着したのは翌朝のこと。
「……サエさん、これ、スピード遅すぎ……。」
 ちなみに速度計の横には「スローフード、スローライフ」という謎のステッカーが貼ってあった。

「来たな。邪の六角め!」(←橘)
「東京侵略なんてさせないぞ!」(←南)
「東京の平和は俺たちが守る!」(←大石)
「覚悟しろ!六角!」(←石田)
『15分で畳んでやる。なぁ、樺地?』(←本部の跡部)
「うす!」(←樺地)

 朝日の眩しい葛飾区の公園で。
 ほくろ戦隊ダイブツダーの面々と、邪虎丸1号に乗った天根が対峙する。
 ただ、痺れるような静けさだけがそこに横たわって。
 しばらく、言葉に迷った天根が、口を開く。

「……俺たちの……ネズミーランドを……返せ!!」

「え?」
 静寂を破る天根の声に。
 ほくろ戦士たちは、顔を見合わせた。

「返せって……。ネズミーランドはもともと、千葉県のモノだろ?」(←大石)
「そうだよ。東京ネズミーランドだけど、東京なのは名前だけだし。」(←南)

 予想外のリアクションに、一瞬、天根は声を失い。
「どういうことだ?説明してくれ。」
 橘の諭すような穏やかな言葉を聞くや、うなだれるように、昨夜のできごとをぽつりぽつりと語り出す。

「……ゴクラクダーの仕業か……!!」(←南)



 そのころの立海。
「六角は、正義のための戦いをしているようだな。」
「ああ。弦一郎。東京いじめなら喜んで助太刀するが、正義のための戦いには決して加担するまい。」
「当然だ。蓮二。なにしろ俺たちは悪の神奈川だからな。」
「……出撃しないで良いのは嬉しいっすけど……先輩たちの台詞を聞いていると、なんだか無性に哀しくなるのはなぜでしょうね……。」
 そんなわけで、立海は今回お休み。



 天根の訥々と語る言葉は、真実を伝えているように思われた。
 というか、むしろ。
 ゴクラクダーは存在自体が怪しすぎる。
 昨日の放課後、いきなり不動峰のトイレの奥から登場した観月を思い出して、確信を深めた橘は、秘密のほくろポケットから携帯電話を取り出す。

 ぴっ。
 小さく機械音が響き。
「……不二か?」
『もしもし?橘くん?(にこ)』
 涼やかな声が携帯越しに聞こえてきた。

『あ、メール、読んでくれた?(にこ)』
「ああ、読んだ。……メールに顔文字を入れるのは、中三男子としてどうかと思うぞ。」
『え?可愛くて良いでしょ?(にこ)』
「……いや、それはよくてな。」
『うん?(にこ)』
「お前たちゴクラクダーは、千葉の宝、ネズミーランドを奪ったのか?」
『……ふふ。奪ったんじゃないよ。橘。もともとあれは東京が支配すべき領土だったんだ。だって名前に東京って付いているじゃないか。(開眼)』
「……!」
『東京都庁が千葉にあったらオカシイ。それと同じ理屈だよ。(開眼)』
「……!!!」

 ダイブツダーの面々も、天根も。
 息を呑んで橘と不二のやりとりを聞いている。

『観月から聞いたよ。橘だってネズミーランドに行ってみたいんだって?どうせ遊びに行くのなら、邪の千葉の支配下にあるより、我ら東京のものにした方が絶対、楽しいじゃない?(開眼)』

 桜井は。
 何県にあったって、ネズミーランドはネズミーランドで、楽しいだろ!!
 と、心密かに思ったが。
 本部からわざわざ、通信機を使ってまで突っ込みを入れる度胸はなかった。
 しかし。
 勇敢な者はどこにでもいるのである。

『橘!不二には俺が話をつける!』
 そう叫んだのは本部の菊丸で。
 予期せぬ人の参戦に、戦場のほくろ戦士たちは少し驚いた顔をする。

「不二?俺だけど。」
『あ、英二?(にこ)』
 通信機と携帯を経由する会話には、自ずと雑音が混じるが。
 二人はいつもの和やかな友情を拠り所に、手探りの会話を試みる。
 そう。今日の二人は仇同士で。

「話があるんだ。ネズミーランドのコト。」
『ふふ。あれね。東京のモノにしてあげたよ。(にこ)』
「そう。その話だよ。」
『喜んでくれた?英二。(にこ)』
「……不二は……不二は何にも分かってないっ!!」
『え?英二?(少し開眼)』
「千葉にあるから東京ネズミーランドなんだろっ!!」
『え?(もう少し開眼)』
「東京にあったら……東京にあったら、千葉ネズミーランドになっちゃうじゃないかっ!!不二のばか!ばかばかばかっ!!」
『……そうなの?!(開眼)』

 桜井は。
 そんなわけあるかっ!!と、突っ込みたかったが。
 それで話がまとまるなら、まぁいいか、と妥協した。
 彼は現実をしっかりと認められる強い心の持ち主であった。

『……分かったよ。英二。今日のところは、ネズミーランド、千葉に返還してあげる。(開眼)』
「ありがとう!不二!分かってくれて!!さすがは俺の親友!!」

 誰もが呆然とする中。
 ネズミーランドは千葉県に返還された。
 葛飾区の朝風は、次第に夏の蒸し暑さをはらみつつある。

「天根。そういうわけだ。今回の件は、どうか許して欲しい。」(←橘)
「……分かった……。俺、先輩に聞いてみる。」(←天根)

 邪虎丸に設置された通信機材を調節し、やはりどこか呆然として、六角と通信しようとする天根。
『ダビデ?どうした?』
「ん。あのね、バネさん。……かくかくしかじかで。」
『ああ。そうか……。それならまぁ、今回の件は一件落着で良いんじゃないか?』
「うい。」
『じゃあ、そろそろ帰ってこい。』
「でも……。」

 天根が言葉を一度、区切って。
 ほくろ戦士たちを見回した。
 そして再び、ゆっくりと口を開く。

「俺、ここに残りたい……。」
『は?!』
「俺、ここに残って、六人目のダイブツダーになる。」
『な、何言ってるんだ!』
「バネさんも来て。一緒にダイブツダーやろう?」
『なぜだ?!なぜなんだ?!ダビデ!!』

 長く伸びた樹影が、静かに風に揺れる。

「だって……漫才集団ダイブツダーには……駄洒落と突っ込みが足りないんだよ。」
「『漫才集団じゃない!!!」』(←地味’sハモリ突っ込み。)

 本部と戦場とで。
 完璧なタイミング、完璧な間合いで、基本を押さえたハモリ突っ込みが炸裂した。

「……違ったのか……!!」
「『マジボケかよ!!!」』(←地味’sハモリ突っ込み。)

 邪虎丸1号に乗って千葉県へと帰ってゆく天根の背には、勝利の余韻などなく、ただそこはかとない哀愁が漂っていたという。
「バネさん……。俺、今日も漫才失敗。」
『漫才しに行ったんじゃねぇっての!!』

 かくして。
 東京都の平和は守られた……ような気がする……。
 ありがとう!ありがとう!!我らがダイブツダー!!

「結局、俺ら、何しに戦場に来たんだろうな?」(←石田)
「……??」(←樺地)




<次回予告。>
「でもさぁ。桜井。」
「はい?」
「ゴクラクダーが宣言したってさ。」
「はい。」
「ネズミーランド、東京都のモノにはなるはずないよなぁ。」
「……そこ、気付いてたなら、突っ込んでくださいよ!!東方さん!」
「いや、南がスルーしたから、このネタはスルーの方向なのかなと。」
「……良いじゃないですか。南さんがスルーしても、東方さん突っ込めば!」
「……だって、一人じゃ寂しいんだもん。」
「そんなんだから……『地味’sの南じゃない方』とか呼ばれるんすよ。」
「……『波動球の相方』桜井に言われると、痛いな……。」

「ゴクラクダーに千葉に神奈川。大変ですね。これから。」
「中でもやはり一番怖いのは……戦力の全貌が見えない神奈川……!」
「……手強いですね。」
「そうだな。手強い。」

次回、神奈川の新戦力?!最終兵器部長!!
お楽しみに!!


そして続いてしまったりします。
いや、実は当初の予告と違うんですけどね。
予告をいじってしまいました。
(当初の予告だと次はゴクラクダー編だったんですが☆)

ほくろ戦隊ダイブツダー!〜最終兵器部長!!

ホント。
いつもいつも、申し訳有りません。
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