これは。
ほくろ戦隊ダイブツダー!」シリーズの続編に当たるSSです。
おそらく第一話だけでも先にお読みになってからの方が、
意味が分かりやすいかと思います。
単独でも読める、かなぁ。はい。

ほくろ戦隊ダイブツダー!
〜最終兵器部長!!







 いつもより、真田の顔が怖い。と、切原は思った。
 怖さがどれだけ増えているかは、たぶん、柳先輩に聞けば分かるけど。
 別に怖さ176%増しだろうが、248%増量中だろうが、実際のところ、怖いことには変わりないので。
 切原はただ、今日の部活では大人しくしていよう、と決めた。
 そんな矢先。

「赤也。こっちへ来い。」
 静かに真田の声が響く。
「な、なんすか。」
 部活中の真田の命令は絶対である。ただでさえ、威厳に満ちている上に、全てを部長に委ねられているのだから。

 厳かに真田が口を開く。
「昨日……幸村から電話があった。」
「……幸村部長から……!」
 一瞬で、辺りの空気が変わる。張りつめた緊張感。しばらくの沈黙を越えて、真田が言葉を続ける。
「幸村に……立海の悪の魂がたるんどる、と言われた。」
「……は?たるんどるって言われたんすか?」
「正確に言えばだな、『世界に冠たる王者立海の悪の魂が目も当てられない堕落への道をたどりつつある今日この頃ですが、いかがお過ごしかな?ぶっちゃけ、やる気あるわけ、真田?』と言われた。」
「……は、はぁ。」
 そりゃあ、真田副部長だって怖い顔になるだろう。
 こんなに毎日悪の道に励んでいるつもりでも、幸村部長からはまだ認めてもらえない。
 悪の道は厳しく険しい。

「なので。今日は俺たちの本気を見せてやろうと思う。」
 言葉を継いだのは柳で。
「赤也。今日のワルサーはひと味違うぞ。見ろ。朝休みと昼休みを費やして作った自信作!ワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型だ!」
 そう言って、柳が物陰から引っ張り出してきたのは。どう見ても幸村の姿をしていて。しかも等身大で。
「ほ、ホンモノそっくりっすね!!」
「ふむ。全て、幸村のデータ通りに作ってある。」
 にっこりと儚げに微笑むワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型は、立ったままふわりとバランスを崩しかける。
「……!大丈夫っすか?!危ないっすよ!よろよろしてますよ!これ!」
「言っただろう。ホンモノと同じデータが入っているからな。よろよろもする。」
「そんなトコまでホンモノそっくりにしなくても良いじゃないっすか!」
 切原は、こんなではダイブツダーに戦いを挑めない、と危機感を抱く。
 仮にもダイブツダーは力強い漢たちの組織。橘や石田、樺地など、パワー系のメンバーと戦うにはワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型はあまりにも非力だ。
 その切原の危惧を察して、真田が低く笑う。
「考えても見ろ。正義のダイブツダーが、こんな儚げな少年に本気を出せると思うか?」
「……な、なるほど!」
 さすがは副部長……!!
 部長ほどじゃないにしても、すごい悪さだ!なんて卑怯なんだ!
 切原は意を強くする。

 彼らの会話を、微笑みながら聞いているワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型。
 真田が再び口を開く。

「このワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型で、東京にひどい目を見せてやれ。赤也。そして幸村を安心させてやってくれ。」
「……じゃあ、俺はこのワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型に乗って東京に出撃するんですか?」
「乗っても良いが、ワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型はそのまま倒れて、動かないと思うぞ。立ってるだけでやっとだからな。」
「……使えねぇ……!!」

 困惑する切原に、柳がすっと小さな箱を渡す。
 箱の側面には「一日一悪☆神奈川県」「悪の秘密結社☆立海大附属」といつものフレーズが踊っている。
「これがワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型のコントローラーだ。お前の仕事はこれでワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型を操ること。良いな。このボタンが主電源。あとはオートで動くようになっている。」
「……俺、仕事ないっすよ。それじゃ。」

 ワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型は儚げににこにこしている。

「あれ?このボタンはなんすか?」
 コントローラー上に、小さなスイッチを二つ発見した切原。
 いつもより冷徹な雰囲気だった柳が、少しだけ優しく微笑んで。
「よく気付いたな。赤也。これは特殊機能のボタンだ。」
「特殊機能ボタン?!一体、どんな機能が?!」
 なんとなく格好いい響きに、切原が目を輝かす。柳は深く頷いて。
「ああ。よく覚えておけ。赤いボタンは秘密のジャッカル☆ボタン。ジャッカルのお気に入りのストップウォッチと連動していて、時間が計れるシステムだ。」
「はぁ。」
 そういえば、昼休みに、ジャッカル先輩、大事なストップウォッチが見つからないってしょんぼりしていたけど、そういうことだったのか、と、切原は少しだけ、ジャッカルに同情した。
「もう一つ、ピンクのボタンは、超!秘密のジャッカル☆ボタン。それを押すと……。」
「……ごくり。」
「ワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型が、『ファイヤー!』と叫ぶ。」
「……使えねぇ……!!」

 ファイヤーと叫ぶ幸村部長は見たくない。絶対に。
 切原の思いに柳と真田は優しく頷いて。

「くれぐれもよく覚えておくんだぞ。赤也。間違っても超!秘密のジャッカル☆ボタンは押してはならない。」
「うぃっす!!」

 今、悪の心は一つにまとまった。
 そう、絶対に、超!秘密のジャッカル☆ボタンは押してはならない。
 それを押さずにすむように、東京侵略を頑張らなくては……!
 切原の目に、悪の光が灯る。

「というわけで。行ってこい!赤也!」
「ワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型の悪さを良く見て、勉強してくるんだぞ!」
「うぃっす!」



 ところ変わって、こちらは不動峰のテニス部部室。
 橘の携帯をぽくぽく(←木魚の着メロ)鳴らすのは、柳で。
「もしもし。」
『橘か?今、今世紀最悪の悪の化身と、神奈川一の悪の化身とが東京を狙っている。……くく。せいぜい、頑張ってあがいてみることだな。』
「な、なんだと?!」
 笑みを含んだ声で、東京の危機を告げる柳。まるで獲物をなぶる肉食獣のように、余裕さえ感じさせながら。しかしあくまでも紳士的に穏やかに、柳は言葉を紡ぐ。
『健闘を祈っているよ。』

 そんなわけで、東京の危機を知り、ダイブツダーは不動峰の部室に集結した。
 相手が切原一人ではないらしいことに、菊丸が目を見開いて、橘に詰め寄る。
「いったい、どういうコト?今世紀最悪の悪の化身は切原だけど、もう一人は誰?」
「分からん。だが、菊丸。俺たちは、どうしても戦わなくてはならない。東京のためにな!」
「むぅ……だいたい、今世紀最悪と神奈川一と、どっちが悪いんだよ?」
「……分からない。しかし、手強いコトだけは確かだ。」

 橘の言葉に、一同は深く頷いて。
「だが、俺たちには正義を愛する心がある!」(←大石)
「そうだ。相手が誰であろうと、負けるモノか!」(←南)
「東京の平和を守るために、俺たちが居るんです!」(←石田)
「うす!」(←樺地)
「そうだ!行くぞ。みんな!」(←橘)

 ちゃらら〜♪(←BGM担当・本部の桜井。)

 信頼する後方支援の相棒に不動峰の部室を託し、ほくろ戦士達は戦場へと向かう。
 それは東京と神奈川の境界、多摩川沿いの駅前の公園で。

「柳の話によれば、やつらは電車で来るらしい。」(←橘)
「……電車で……?」(←南)

 初夏の風が吹いている。彼らの戦闘服であるレギュラージャージを揺らしながら。

「待たせたな!ダイブツダー!!」
 板に付いてきた悪人スマイルを浮かべ、切原が現れる。その横には、儚げに微笑むワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型の姿。

「……幸村?」
 驚愕を隠すことなく、大石が声を上げれば、ワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型は静かに口を開く。
「久し振りだね。大石。」

 大石は言葉に詰まる。幸村は入院していると聞いていた。それがここに居るとは……もう体は良いのか?それとも……幸村は……命を賭けてでも東京を侵略するつもりなのか……?
 動揺する大石の横で、切原も愕然としていた。
 ……しゃべった……!
 正直、びっくりである。
 しゃべれると知っていたら、電車の中で、あんなに退屈しなくてもすんだのに……!!

 一同の思惑を知ってか知らずか、ワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型は穏やかにベンチを指さし。
「ごめん。座らせてもらって良いかな?」
 儚げに微笑んだ。

 ダイブツダーはベンチに腰を下ろしたワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型を取り巻くように立って、どうして良いモノか、戸惑っていた。こんな、どう見ても弱々しい儚げな人を悪だからといって討って良いのか?それこそ弱いモノいじめではないか?それこそ悪ではないか?東京のエゴではないのか?彼らは途方に暮れて、お互いに視線を交わす。
 ワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型の背後には切原が、余裕さえ感じさせる悪人スマイルで立ち、ほくろ戦士たちを睨み付けている。
 初夏の優しい明るさが、世界に満ちて。ワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型はおっとりと、額に懸かる髪を掻き上げる。

「お茶を持ってきたんだ。一緒に飲まないか?」

 ささやくように言いながら、横のベンチを指さす。逆らいかねて、ほくろ戦士達は、近くにあったベンチに座ることにした。
「赤也は子供だから、牛乳ね。」
「な、何すか?それは!」
 相手がワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型だと分かっていても、つい敬語で話してしまう。そんな威厳がワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型には漂っていた。

「ほら。みなさんに配って?」
 背負っていた鞄から取り出した魔法瓶と紙コップ。
 静かに穏やかに、人数分のお茶を注いで。

「あ、ああ。ありがとう。」
 切原から手渡される紙コップを、みな、抵抗もなく受け取ってしまう。
「美味しい紅茶なんだよ。気に入ってもらえると嬉しいな。」
 儚げに微笑むワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型に、橘は目を上げ。
「悪いな。」
 と、気遣いに感謝した。

「……何やってるんだよ?ダイブツダー……?」(←本部の東方)
「完全に気圧されている。さすがは悪の王者立海の部長だ……。」(←本部の跡部)
「ってか、流されやすすぎだよ。あいつら。」(←本部の東方)
「何?!樺地を悪く言うな!!」(←本部の跡部)

 一口、茶に口をつけて。
「……渋い……!」
 橘は眉を寄せる。その視線の先には、平然と紅茶を飲むワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型と、その背後で牛乳を飲む切原。
 ようやく橘は理解した。これは悪の罠だということを。渋いお茶をムリヤリ飲ませて、ダイブツダーを苦しめようという作戦だ。しかもこんな夕方に渋いお茶を飲んでは、夜眠れなくなってしまう!なんという悪!なんという……!
 同じ結論に到ったのだろう。大石と南が横で唇を噛み、橘の様子をうかがっている。石田と樺地もいつでも橘の指示を受けられる姿勢で、コップをそっとベンチに置いた。

 その姿を見て。
「……口に合わなかったかな。……ごめんね。」
 ワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型はうつむき、切なげに細かな瞬きを繰り返す。
「ごめん。本当にごめん。」
 今にも泣き出しそうに、か細い声で謝るワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型。
 ほくろ戦士は息を呑んだ。

「……幸村。」
 小さく名前を呼んで。
 橘は、手元のコップに入っていた濃すぎる紅茶を一気に飲み干した。
「ありがとう。美味しかったぞ。」
 コップをベンチに置いて、橘は力強く言い切った。
 その声に、大石と南も頷いて、同じようにコップを空にする。
「うん。少し濃いけど、こういうのも良いな。」(←大石)
「目が覚めて良かったよ。宿題やる前に寝そうだったから、助かった。」(←南)

 石田と樺地も、しばらくためらった後、ぐっとコップを傾けた。

「……か、香りも強いし、お、美味しいっすね。」(←石田)
「う、うす。」(←樺地)

 ワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型は少し驚いたように一同の顔を見回したが。
「ありがとう。みんな、優しいね。」
 儚く穏やかに微笑んだ。
 背後に立つ切原は少しだけ憮然とした表情で、こくりと一口牛乳を飲み込む。見ているだけでも苦くて渋そうなお茶なのに。ほくろ戦士のやつら……!

「橘……一つ、良いかな。」
「なんだ?」
「……そのほくろを……押してみたかったんだ……生きているうちに……。」
 ささやくように弱々しく言われてしまうと、そんな変な願いであるにもかかわらず、むげに断ることもできなくて。橘はゆっくりと頷いた。
「……構わんが。」

 切原の眉がくっと上がる。そうか。ワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型はここで、ほくろ戦士達の力の源であるらしいあのほくろに、直接攻撃を仕掛けるつもりなんだ……!さすがはワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型!!半端じゃない悪さだぜ!
 ゆらりと立ち上がったワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型は、途中で一度、くらっと姿勢を崩しかけながらも、橘の前に立ち、そっと額のほくろを押した。
「ぴっ。」
 儚げな声で、擬音まで付けながら。

「……何も起きないね。」
「すまん。」

 寂しそうに首をかしげるワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型に、橘は困惑気味に謝って。それから、なぜ自分が謝っているのか、ちょっとだけ真剣に悩んでみたのだが。
 くるりとワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型は切原を振り向いた。

「赤也。帰ろう。」
「う、うぃっす!」

「久し振りにみなさんの顔を見られて、良かったよ。」
 柔らかい笑みを浮かべて、ワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型は東京を後にした。切原はにやりと、悪人スマイルを浮かべてワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型に続く。

「あの。部長……じゃないけど、幸村部長。」
「ん?何?赤也。」
「さっき、橘さんのほくろに触ってましたよね。あれ、何をしたんすか?」
 どんなひどいコトをしたのだろう?毒でも仕込んだのだろうか。期待に目を輝かせて、切原が問えば。
「ん?……押したんだ。」
「へ?押しただけ?」
「うん。押してみたかった。」
 小さな声で、少しはにかんだように微笑むワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型。

「せっかくのチャンスだったじゃないですか!ほくろ剥がすとか、何とか、悪いことできたはずじゃないすか!」
「……うん。だけど。もう、渋いお茶を飲ませるという悪を達成していたからね。これ以上悪さをしては、一日一悪という誓いを自ら破ることになってしまうだろう?」
「……はぁ。」
「ところで赤也?」
「はい?」
「ねぇ、まだ、俺のこと、ワルサー4号ハッピー☆ヴィレッジ型だと思ってる?」
「……はい?」
「ふふ。俺、直接病院に戻るから。真田たちによろしくね。」
「…………はい?!」

 公園に残されたほくろ戦士達は。
 近所のコンビニで2リットル入りのお茶のペットボトルを買って、夕焼け空の下、静かに口直しの時を過ごしていた。
「幸村は渋いのが好きなんだな……。」(←大石)
「ってか、結局、何しに来たんだ?あいつら。」(←南)
 時は初夏。穏やかに暮れてゆく東の空を見上げて、ほくろ戦士達は東京の平和を守りきった喜びを、じっくり噛みしめていた。

 ダイブツダーの捨て身の攻撃によって。
 いや、その献身的な犠牲によって。
 東京の平和は守られた……!! ありがとう!!ありがとう、ダイブツダー!
 しかし、悪の神奈川は、まだ未知なる力を秘めている!
 負けるな!戦え!ダイブツダー!!




<次回予告>

「恐いね。立海!!」
「全く、恐ろしい悪の秘密結社だな!あーん?」
「あーん?じゃないよ!私は杏だよ!!跡部さん!」
「あーん?」

「ずっと疑問なんだけど、この次回予告って意味あるの?」
「知るか。」
「で、次回はゴクラクダーだって話なんだけど。ホントかな。」
「知るか!」

次回!狙いは世界極楽化計画?!ゴクラクダーの罠!!
お楽しみに!!

ちゃらっら〜♪(←BGM担当・本部の桜井)







いい加減、謝られるのも飽きたと思いますが。
一応、謝っておきます。すみません……!
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