これは「ほくろ戦隊ダイブツダー!」の続編です。
単品でもたぶん読めますが、両方読んでくださるなら、
ダイブツダーを先にお読み下さることをお勧めしますvv
ほほえみ戦隊ゴクラクダー!
それは、生暖かい風の吹く日だった。
不動峰テニス部の部室、正式にはほくろ戦隊ダイブツダーの秘密基地「西方浄土」には、ほくろ戦士五名と、後方支援のパートナー五名が集まって、のんびりしていた。
「やっぱ、あれ、良いね!桜井くん。」
「杏ちゃんもそう思うだろ?あった方が良いよな。絶対!」
ドアを入った正面に、模造紙に大書した「西方浄土」の文字。
これは、先日、東京征服を目論んでいた悪の神奈川の秘密兵器「ワルサー1号」に、堂々と「悪の秘密結社」と書いてあったのを見て、その公明正大な態度に心動かされた桜井が、自腹を切って20円の模造紙を買い、張り出したモノである。
「桜井くんは、俺たちの中で一番気が利く、気配りの人だね。」
「大石さんにそう言っていただけると、本当に嬉しいです!」
なんて言いながら。
部室のカレンダーはまだ先月のままだったりする。
まぁ、別にそれは桜井一人の責任ではないのだが。
そのとき、窓の外を、強い風が砂塵を巻き上げ、吹き抜けていった。
そして、部室の扉が、静かに開き。
「ふぅん。良いんじゃない?ねぇ?観月くん。(にたにた)」
「んふ。確かに良い部屋ですね。」
「青学不二くんの言うとおりだったね。くすくす。」
「嫌な予感」が服を着たような連中が、堂々と部室を覗きこんできた。
一同が一瞬、反応に窮して凍り付く中、一人、気を吐いた橘は、椅子を蹴って立ち上がり。
「いきなり、何の用だ?青学不二、山吹の千石、ルドルフの観月に木更津、それから……氷帝の芥川まで!」
「紹介してくれて、どうもありがとう。橘。実はね、僕たち、この秘密基地をいただきに来たんだよ。(にこ)」
唐突な不二の言葉に、一同は唖然とする。
「秘密基地……だと??それをどこで聞いた??」
「僕、英二と同じクラスなんだよね。しかも席が隣の大親友なんだ。英二がお友達に、隠し事、できると思う??(にこ)」
急に空が曇り、部室に薄闇が垂れ込めてくる。
戸口に集中していた眼差しが、一斉に菊丸を直視した。
「え、英二!基地のことは秘密だって言っただろ?」
「だってぇ。大石ぃ。不二が、不二がね!!『正義の味方なのに、英二はお友達に隠し事するの?正義の味方はそんな悪いこと、しないよね?(にこ)』って言うんだもん!!」
「……確かに正義の味方がお友達に隠し事をするのは、感心しないな。樺地。」
「うす。」
「だろ?跡部も樺地もそう思うだろ??」
とりあえず、情報漏洩のルートは判明した。
同時に、跡部経由で、氷帝中に漏れている可能性も出てきた。
だが、今は、それはおくとして。どうして彼らが、この秘密基地を欲しがるのだろうか。それが分からない。
闖入者の顔を、一人ずつ、見回して、橘は首を傾げた。
どうしても接点が見いだせないのである。
「橘、僕たちの目的が分からなくて困っているみたいだね。(にこ)」
「あ、ああ。なぜなんだ?なぜ、この秘密基地が必要なんだ?」
「教えてあげるよ。大切なことをね。この東京を守る正義の味方は、君たちだけではないってことを!(にこ)」
ふふふふ〜〜ん♪(←BGMは千石の鼻歌。)
「俺たちは阿弥陀さんの使者!(にたにた)」(←千石。)
「この世の悪を救うのです。んふ。」(←観月。)
「みんな、成仏させてあ・げ・る。くすくす。」(←木更津。)
「……眠ぃ。」(←ジロー。)
「悉有仏性☆悪人正機……ほほえみ戦隊ゴクラクダー、だよ?(にこ)」(←不二。)
一瞬、底知れぬ静寂が「西方浄土」を支配する。
戦隊モノなのに、あの独特の凛とした気配はなく、ただ、必要以上に和やかに恐ろしげで。
どこからどう反応していいものか、あの恐れを知らない跡部すら、口をつぐんでいる。
だが、ここにも勇者が居た。おそるおそる、といった様子で、南が挙手し。
「……内容は後にして、一つ、突っ込ませてもらうよ。……氷帝の芥川、お前、微笑んでないだろ!」
ダイブツダーの愉快な仲間たちは、南の「基本を押さえた突っ込み」に心の中で喝采を惜しまなかった。
「彼はね、実は一人だけ、まどろみ戦隊なんだ。でも、寝ちゃうと天使の寝顔で微笑んで居るんだよ?」
「ちなみに南!ゴクラクダーの総司令官は伴爺なんだぞ!すごいだろ!」
「……せ、千石。伴田先生のアレは、微笑みだったのか……?!」
漫才が一段落したところを見計らって、今度はおっとりと、橘が挙手した。
「そろそろ、内容にも突っ込みを入れて、良いか?」
彼らの話を総合すると、こういうことであった。
ほほえみ戦隊ゴクラクダーは、東京を脅かす悪の手から、人々を救い出すだけでなく、悪に染まった魂をも救いたいと願って、結成された組織であり、これまでも闇から闇へ、悪の組織を「成仏」させてきた、とのこと。
そして、阿弥陀さんの使者である自分たちこそが、秘密基地「西方浄土」に相応しい存在であること。
「東京に正義の味方は二組いらないからね。君たちは引退してくれて構わないよ?(にこ)」
「し、しかし……。」
確かに、問答無用で悪を討つダイブツダーの戦い方では、憎しみの連鎖を断ち切ることができない。自分たちは今までの戦いで、気付かぬうちに、更なる心の闇をこの世に生じさせていたのかも知れない……。
そんな動揺が、橘に言葉を迷わせた。
一番最初にじれたのは、石田だった。
「……そんな要求、飲めませんよ!」
「ずいぶん、短気な正義の味方だね。石田くん、だったかな?(にこ)」
「……そうです。不二さん、大人しく帰ってもらえませんか。」
「嫌だね。西方浄土は阿弥陀さんの浄土。阿弥陀さんの使者である僕らには、この秘密基地をもらう正当な権利がある。(にこ)」
不二の不敵な挑発に。
「……すみません!橘さん!アレ、使います!」
弾けるように立ち上がった石田を、橘と桜井が二人がかりで押さえ込む。
「やめろ!いくら相手が不二とはいえ、仮にも人間だ……(ちらりと不二を見る)……た、たぶん、人間だ……。それに部室の壁が壊れる!波動球は屋内で使うな!」
戸口付近に立ったままのゴクラクダーは、微笑みを浮かべたまま、中のごたごたを見守っていたが。壁に寄り掛かってうたた寝していたジローは、ずりずりとそのまま、座り込んで熟睡モードに入った。天使の笑顔で眠り込んでいる。
「そうだね。止めるのが正解だよ、橘。もし、彼が波動球を放っていたら、僕のトリプルカウンター最後の技を披露していたとこだったからね。もし、白鯨を使っていたら……。(にこ)」
「使って……いたら?」
「その後輩……消えるよ?(開眼)」
「「消すなよ!!」」
南&東方の基本を押さえた突っ込みが、絶妙のタイミングで炸裂した。
そのとき。
ずっと部室の隅で、ひっそり座っていた樺地が、のそりと立ち上がり。
一同は、何事かと、会話を中断して、その静かな動きを目で追った。
樺地は。
先月のままになっていたカレンダーを一枚、ペリッとめくる。
「あ……ごめん、樺地。気付かなかったよ。」
「ありがとう!樺地!気が利くな!」
「……う、うす。」
秘密基地をめぐる鬼気迫る攻防とは、完璧に場違いな行動と会話。
お礼の言葉に、樺地は狼狽えたように頭をかいた。跡部は、樺地が気が利くと褒められて、我がことのように自慢げに鼻を鳴らす。
だが、樺地の目的は、カレンダーを今月に変えることではなかった。
彼は。
物音一つ立てずに、桜井が貼った「西方浄土」の模造紙をきれいに剥がし。
くるくるっと丁寧に巻くと、輪ゴムで止めて。
少し申し訳なさそうに桜井に手渡した。
そして、部室のペン立てから黒い油性ペンを取りだす。
きゅっきゅっ。
部室にペンを走らせる音が、微かに響いている。
樺地は、相変わらず、無表情のまま。
「ほくろ戦隊ダイブツダーの秘密基地。」
と、剥がしたカレンダーの裏に端正な文字で書き上げると。
壁に、ぺたり、と貼って。
また、無言のまま、元いた席に戻った。
「しまった!!ここ、『西方浄土』じゃなくなっちゃった!!どうしよ〜!」
「こ、これでは僕らのシナリオが……!」
「仕方ない、一度、出直しだね。くすくす。」
「ZZZ〜〜。(天使の笑顔)」
どうやら、樺地の機転は会心の一撃であったらしかった。
負けを悟ったほほえみ戦士たちは(ジロー除く)、一斉に不二を見やる。
不二は笑顔を絶やさぬまま、小首を傾げて。
「わくわくするね……。こんなわくわくする戦いは久し振りだよ。(開眼)」
ダイブツダーの秘密基地は、爽やかに清々しく凍り付いた。
他の戦士たちは負けを認めたのに、まだ、不二は諦めていないのか……?!
しかし、不二はあっさりと、踵を返す。他のメンバーも彼に従った。
一度、扉に手をかけて立ち止まった不二は、静かに室内を振り返り。
目を細めて微笑んだ。
「仕方ないね。今日のところは、引き分けってことにしてあげるよ。(にこ)」
並んで立ち止まった木更津も、楽しくてたまらない様子で宣言する。
「でも、今度会ったときには……全員、成仏させてあ・げ・る。くすくす。」
そうして、ゴクラクダーたちは、和やかに微笑みながら、引き上げていった。
窓の外はまだ、強い風が吹き続けている。
バタンと音を立ててドアが閉められ、十秒ぐらい経ったころ。
ようやく、一同は深い息をついた。
樺地の活躍で、秘密基地は守られた!
しかし、基地の名前はなくなってしまった!!
どうする?!どうなる?!ほくろ戦隊ダイブツダー!!
<次会予告。>
「さすがは樺地だな。」
「なんかすごいな。樺地。俺、見直したよ。」
「そうだろう。そうだろう。もっと褒めろ。東方。」
「ああ、樺地って、やっぱ、タダモノじゃないんだな。」
「……言っておくが、樺地はやらんぞ?」
「……いらないから、安心しろ……。」
「ゴクラクダーの連中は、また来るのかな?」
「ふん。来たら返り討ちにするまでだ。青学不二、恐れるにたらん。」
「返り討ちって言っても、俺ら、後方支援だぜ?」
「あ〜ん?」
「残る問題はさ。あれなんだけど。」
「なんだ?」
「戸口で爆睡している芥川。持ち帰ってもらえる?」
「……仕方ねぇな。おい、樺地!ジローを拾って帰るぞ。」
「……うす。」
次回、跡部のほくろはほくろ戦士の証?六人目のダイブツダー登場?!
お楽しみに!!
つ、続いちゃいました……!!「六人目のダイブツダー?!」はこちら。
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ホント、こんなくだらないモノ、最後までお付き合い下さって、感謝です。