<第三話>
「あー?東方か。久し振りだな。」
通信機を片手に廊下に出た黒羽は、上機嫌に通信機に語りかけた。
「ん?今、学校。……おう。あいつらもいるぜ?電話、代わるか?」
黒羽は部室の戸を振り返る。誰一人黒羽の行動を不審がる様子もなく、開け放たれたままの扉の向こうでは、仲間たちが楽しそうに作戦会議を続行中で。
だが、東方は別に他の邪戦士に用があったわけではないらしい。すぐに本題を切り出した。
「ああ、聞いてる。橘のヤツ、とんでもねぇボケ方だよな。さすがはダイブツダーブラック、半端じゃねぇ。」
ツッコミ仲間と語り合うと、こんなにも心が弾むのはなぜだろう。ツッコミはボケのそばにいなくてはならない、との言葉に嘘はない。
しかし。
「なるほどな。」
窓の外は清々しい青空。見事なツッコミ日和だ。
「分かった。ああ。任せとけ。」
黒羽は通信機を切ると、部室に戻る。
「おい。別働隊のコトだけど。」
黒羽の声に、全員が振り返った。
「俺が行くんで良いか?」がたん……がたん……。
電車が千葉の町を走り抜けてゆく。
「バネさん。あのね。」
昼下がりの上り電車は、邪虎丸をかついで乗り込んでも迷惑にならないくらいすいていて。
「ん?どうした?」
中吊り広告のグラビア写真に見入っていた黒羽は、天根の声に視線を隣に向けた。
「さっきの通信、ハリセンジャーの人……?」
「……なんで分かった?」
隠す気はなかった。だがそうやすやすとばれているとも思わなかった。
黒羽は少し驚いて、天根の顔をのぞきこむ。
「何となく……バネさん、嬉しそうだったし。」
本人は拗ねているつもりはないのだろう。だが、天根は明らかにつまらなそうにそれだけ言うと黙った。
窓の外を町並みが流れてゆく。
車内の空気をかきまぜる扇風機が、ふわりと天根の長い髪を揺らした。
「……東京でハリセンジャーの人たちと会うの……?」
「……おぅ。」
「……そっか。」
ハリセンジャーはそもそも各組織からツッコミ系のキャラを脱退させ、組織をボケによって崩壊させようというゴクラクダーのたくらみによって作られた戦隊である。天根が快く思っていないのも当たり前だろう。黒羽はふぅっと大きく息を吐いた。
「別に……邪を裏切る気はねぇぞ?俺は。」
「分かってるよ。でも……。」
「何だ?」
「でも……ハリセンジャーはツッコミ戦隊だから……橘さんから離れたところで陽動作戦をやるのは……向かないと思う。」
黒羽は真顔で天根を見つめた。
すごい勢いで見つめた。
今、ここで穴が空かないなら、穴が空くほど見つめるコトなんて一生できないだろうと思うくらい、むちゃくちゃ見つめた。
「ダビデ……お前、ダビデのくせに頭良いな。」
まっすぐな黒羽の褒め言葉に、天根は幸せそうにへへっと笑った。
「陽動作戦で、よう!どうさ?苦戦?……ぷぷ!」
「お前、それ言いたかっただけかあっ!」
電車の中だったので控えめながら、それなりの衝撃音とともに黒羽の足が天根の背中に炸裂した。
「さて。そろそろ良いかな。」
佐伯が時計を見上げる。
「そうね。もうすぐ都内に入るはずなのね。」
六角の部室では、残った邪戦士たちがアサリの酒蒸しをもぐもぐ食べながら、桔平への連絡のタイミングを待っていた。二正面作戦を効果的にやるためには、敵が二手に分かれているコトをあらかじめ伝えておいた方が良い。
時計を睨みながら、一同は頷きあった。
そこへ。
「あれ?もうダビデ出ちゃった?」
邪虎丸3号を担いだ首藤が部室に顔を見せて。
「ずいぶん前に出撃したよ!遅いよ!聡さん!」
「何だよ。せっかく完成したのに、間に合わなかったのか。」
首藤は大げさにため息をつくと、部室の隅に干してあったぞうきんをせっせとたたみ始めた。
今日も千葉は平和に邪であった。
「……佐伯から?」
桔平は携帯の着信音に軽く眉を上げる。
「佐伯さん……?」
横から桔平の手元を覗き込む杏。
ダイブツダー解散を宣言したあと、橘兄妹は家に帰っていた。
「もしもし?」
通話ボタンを押した桔平の表情がにわかに曇る。
「どういうコトだ?」
低く吠える桔平。
「……俺が一人だからと言って舐めるんじゃない。後悔させてやる。」
桔平の声を聞きながら、杏は確信した。さっそく恐れていた事態が発生したのだ。ダイブツダーの解散を知れば、きっと他の組織が動き出す。その予感に間違いはなかった。
「杏。ちょっと行ってくるぞ。」
「どこに?!」
「……心配するな。」
「待ってよ!ダイブツダーが解散したって、私は今でもお兄ちゃんの後方支援だよ!」
リビングの扉に手を掛けたまま、桔平は少し驚いた表情で振り返る。
そして。
「××公園だ。すぐ帰る。もうお前は戦場の心配なんかしなくて良い。漫画でも読んでろ。」
小さく笑ってばたりと扉を閉じた。
「お兄ちゃんのばーか!」
見えなくなった兄の背に思いっきり舌を出すと、杏は大急ぎで自分の携帯を拾い上げる。
「石田さん?!お兄ちゃんが……!」
天根は困惑していた。
計画通り、天根が邪虎丸で××公園に乗り付けたときには、すでに桔平が待ち受けていて、正面から強い視線で射抜かれた。
だけど、それは計画通りだから困惑する必要などない。
ないのだが。
桔平の背後に居並ぶ4人のよく分からない人たちの存在に、天根は困惑していた。
なんとなくダイブツダーっぽい雰囲気。
っていうか、右から順に、樺地、大石さん、南さん、石田、みたいな雰囲気。
っていうか、むしろ本人。
変な仮面付けているけど、間違いなく本人。
だって構えとかもいつものダイブツダー登場の決めポーズと同じだし。
「……解散したんじゃなかったの……?」
おそるおそる尋ねてみる天根。
桔平はまっすぐな視線で応じた。
「ダイブツダーは解散した。見ての通りだ。」
いや、全然、見ての通りじゃないし……!5人ともいるし……!
天根は一生懸命その気持ちを伝えようと思って、もごもごと口を動かしていたが、上手く言葉が見つからず。
「……ちょっと待っててね。」
困りはて、やむを得ず邪虎丸の通信機を手に取った。
「あのね。サエさん。」
『どうした?』(千葉の佐伯)
「5人いたの。」
『5人?もしかしてダイブツダーが?』(千葉の佐伯)
「そう。全員。」
『……どういうコトだ?』(千葉の佐伯)
天根と佐伯の対話に、桔平が眉をひそめる。そして自分の背後を振り返った。
「……?」
そこでようやく背後の4人に気づいたらしい桔平は、仮面を付けた怪しげな者たちを見回す。
「橘さん……その人たち、誰?」
とりあえず、一応聞いておいてやるのが正義の味方への礼儀だろう、と天根が訊ねる。
「……。」
桔平が口を開き、何かを言いかけた。そのとき、それを遮るように怪しげな仮面の男たちが優雅に名乗りを上げる。「爽やかに寄り添い尽くそう!寄り添い仮面☆ブルー!」
「地味に寄り添いまくるぜ!寄り添い仮面☆グリーン!」
「橘さん!俺、寄り添います!寄り添い仮面☆ホワイト!」」
『日々培った寄り添いパワーを見せてやれ!寄り添い仮面☆シルバー!』(物陰の跡部)
「うす!」天根はぽかん、と口を開けて寄り添い仮面たちの名乗りを聞いた。
桔平も驚いた様子で彼らを見つめていた。
そして、ふと我に返ったよう天根を振り返り。
「寄り添い仮面だそうだ。」
と、そのまま天根に紹介した。
「うわ……橘、ツッコミてぇ!!寄り添い仮面もむちゃくちゃツッコミてぇ!!突っ込めねぇで困ってるダビデにもついでにツッコミてぇ!!」
公園の片隅で戦場を見守っていた黒羽が焦れた。
「こらえろ。まだ早い!」
東方が軽く片手で制す。
「東方と桜井は今日一日ずっと耐えてるんだ。あの程度のボケで動揺するな!」
ジャッカルがいさめるように口を挟むと、黒羽は「ああ」と低く頷いた。
「分かってるって。一撃で仕留められるくらい完璧なタイミングで突っ込まないと、意味ねぇコトくらい。」
広い公園には点々と木陰が広がっている。
片隅のジャングルジムの影に潜むように、ハリセンジャーは戦場の様子をうかがっていた。
確かに天根の指摘通り、ハリセンジャーが陽動作戦をとれるはずがない。なにしろハリセンジャーはボケのいるところでこそ、本領を発揮するのだから。ボケのいない場所を襲うコトなど考えられない。
だから黒羽は作戦を変更した。ハリセンジャーが一緒に戦ってくれるなら、陽動作戦にこだわる必要はないのだ。邪の千葉のために、そして桜井と東方のために、橘に正義の心を思い出させる。それさえできれば良いのだ。
狙いはダイブツダーブラックただ一人。彼の背後を直接衝く。
なんか、他のヤツらもいるけど、構うものか。
とにかく最高のタイミングに、最高のツッコミを入れてやる。
虎視眈々と桔平の背を睨む黒羽に、桜井は尊敬の眼差しを向ける。
手の中でハリセンを弄ぶ黒羽の横顔に隙はない。
俺も必ず突っ込むんだ。
桜井も戦場へと視線を戻す。
「見てみぃ。あの寄り添い仮面の方は、橘のボケやないで?あれは跡部のボケ方や。間違いない。」
メガネをずいっと押し上げながら忍足が説明する。
真夏の公園は、まだ日が高い。
鮮やかな光がメガネに煌めく。
「ああ、寄り添い仮面ってネタは跡部のボケか。さすがに大したもんだな。氷帝の部長の名は伊達じゃない。」
ジャッカルが感心した様子で呟いた。
「でも、南さんもよく跡部さんのボケに付き合ってますね。」
東方の横顔を見上げながら、桜井が尋ねると。
「橘のボケに対抗するには、並たいていのツッコミじゃムリだからな。俺たちのように機の熟すのを待つか……同じくらい強力なボケにノるか。どっちかだろう。」
東方は穏やかにそう応じた。
真剣な顔してろくな話してねぇよな。俺たち。
一瞬、ジャッカルは素に戻りかけたが、慌てて自らを戒める。
真夏の風がジャッカルの頬を撫でて、すっと公園を横切っていった。<第四話>
<他力本願選択肢>
ご協力ありがとうございました!
<1> ダイブツダー復活篇。 6票
「……。」
ここは戦場である。
戦場でありながら、桔平は目を伏せた。
背後に4人もの戦士が立っていたにもかかわらず、それに気付かないとは、自分もそうとう焼きが回ったものだ。
覚えず、口元に笑みが浮かぶ。
そうだ。
いつもあいつらは俺と共にいた。4人がいるのが当たり前になりすぎた。
俺は独りで戦える、だと?笑わせるな。橘桔平。
思い上がるのもいい加減にしろ。
風が桔平の額を撫でる。
アンパンマンよ。お前もこんな気持ちだったのか?
いつの間にか、多くの仲間たちと共に戦うようになったお前も。
大石よ。南よ。樺地よ。そして石田よ。
あれだけひどい言葉で追い返しておきながら、お前たちはまだ俺と戦ってくれるのか。
そして。
桔平は目を上げた。
「天根。すまないが、ダイブツダーはまだ解散していなかったようだ。」
<2> ブラック覚醒篇。 34票
→<第四話>
<3> 遅れてきた勇者篇。 21票そのとき、軽やかな声が響き渡った。
「橘!喰らえ!菊丸ビーム!!」
どーん!!大地が揺れる。もうもうと上がる砂煙。
「何?!」
その攻撃から辛うじて身をかわした桔平は、煙の向こうに信じられないモノを見る。
いや。
桔平だけではない。寄り添い仮面も、ハリセンジャーも、天根も、驚愕に目を見開いた。
普段は後方支援で本部に待機している跡部、菊丸、杏の3人が、テニスの試合用の服装で、すなわち戦闘態勢を整えて身構えていたのである。
「みんな、おまたへ!予期せぬ伏兵、ただいま見参だよん!!」「これ以上……ボケるヤツ増やしてどうするんだ……!」
ジャッカルが呻く。
「つうか、待ってねぇ!誰も待ってねぇ!もうツッコミきれねぇ!」
黒羽が額を抑える。「さぁ、橘。俺様の美技に酔いな……!」
跡部の声に桔平が低く吠えて身構えた。