これは、「ほくろ戦隊ダイブツダー!」シリーズの続編に当たるSSです。
しかも「ハリセンジャー再び?!(前)」という前後編の後編です。
できれば順にお読みくださいませ。
むしろ、これだけ読むと意味が分からない自信があります。はい。
全部読んだけど、よく分からんという方は(ごもっとも!)、
資料室(同窓別窓)をご参照ください。

ダイブツダー番外篇!
〜ハリセンジャー再び?!(後)

<冒頭文企画連動SS>


 かすかな湿り気を帯びた曇り空に風なし、今日は種をまくのには最高の日だ。
「よかよ。本気のボケ見せたるばい。怪我せんごつ!」(桔平)
 種はやがて芽吹き花開き、世界を救う。世界の真実を、夢を、正義を。
 そしていつかこの地上を愛で満たす。
「おい、地の文!なんか変じゃねぇか?」(黒羽)

 ――これが本当の橘か……猛獣のようなボケのオーラに……呑み込まれそうだ――
「今のモノローグ、誰のモノローグだ?!どう考えても変だろ!!猛獣のようなボケのオーラってっ!!」(ジャッカル)

 雲の切れ間から、満月が優しく語りかけてくる。
 美しきこの世界を愛の花で満たそう。さぁ、種をまこう。
 そんな甘く危険な誘惑のひととき。夢幻の闇がゆっくりと世界を包み込む。
「ちょっと待てぃ!」(忍足)
「何ね?」(桔平)
 種は夜更け過ぎに雪へと変わるだろう。
 きっと君は来ない。一人きりの種まき。
 そして、大仏の慈愛の眼差しが、この世界を温かく抱く。
「種が雪に変わってたまるかっ!」(黒羽)
「さっきから……地の文までボケやがって……!」(ジャッカル)
「……集中しとらんと怪我すって言うたたい。」(桔平)
「や、怪我はしねぇから!ってかなんで地の文までおかしくなるんだ!!」(黒羽)

 空と君との間には。
 愛しさと切なさとたけのこの里。
「待てっ!ち、ちくしょうっ!何から突っ込めばいいのか……!」(ジャッカル)
「……橘の本気は……地の文までもボケに変えるということか!これでは橘に突っ込みを入れる余裕がない!!」(忍足)
「……しょうがねぇな。俺たちも……本気を出すか。」(黒羽)

 ざぁぁぁっ!と、木々を揺れる。
 一度やんでいた風が、また吹き始めたらしい。
 ますます種まきにもってこいの良い天気だ。

「世界のボケ倒しをツッコミ倒すために!」(ハリセンジャー☆ブラウン☆ジャッカル)
「闇に乗じてボケを討つ!」(ハリセンジャー☆眼鏡☆忍足)
「明るい未来を信じるゆえに!」(ハリセンジャー☆ピンク☆桜井)
「勇気を胸に戦い続ける!」(ハリセンジャー☆オレンジ☆東方)
「我ら、愛と希望のツッコミ戦隊ハリセンジャー!!今宵限りの完全復活!!」(ハリセンジャー☆レッド☆黒羽)
 ぴるりららっら〜♪(BGM担当:桜井)

 雲が途切れ、満月が彼らを照らし出す。
「ハリセン……か。」
 ツッコミ戦士たちは色とりどりのハリセン(手作り)を手に、身構えた。
 そして、流れ出す懐かしいメロディー。
 それは、君へのラプソディー。
 忘れえぬ、遠い日のメモリィー。
「いいかげんにせぃ!!」(忍足)
 びしっ!!
 ハリセン戦士たちのハリセンが炸裂する。
「もう地の文のボケ倒しは許さねぇ!」(ジャッカル)
「……さぁ、次は橘、お前の番だ!どっちが勝っても恨みっこなしだぜ!」(黒羽)
「もっとも……勝つのは俺たちやけどな。」(忍足)


 そのとき。
 階段を駆け上がり、ダイブツダーの仲間たちが公園に飛び込んでくる。
「!」
 張りつめた公園の空気に、一瞬、足を止めるほくろ戦士たち。
 橘が、東方が、桜井が……一触即発の状態で睨み合っている。
「……桜井っ!」(石田)
 石田が低く唸る。
 橘さんに刃向かうなんて、お前、どうかしているぞ!
 今にもつかみかかろうとする石田を、大石が軽く制した。
「大丈夫だ……ここは橘に任せて、もう少し様子を見よう。」(大石)
「そうだな。大石の言うとおりだ。石田。今は……橘を……そして桜井くんを信じよう。」(南)
 石田は何かを言いかけて口を閉ざす。
 そうだ。南さんだって辛いんだ。今、目の前で東方さんが橘さんに戦いを挑んでいる。自分のダブルスパートナーであり、ダイブツダーの相方である大切な仲間が……橘さんに牙を剥いている。それでも南さんは東方さんと橘さんを信じようとしているんだ。俺だって、そうだ。俺だって桜井を……!


 公園の中央で睨み合うハリセンジャーと桔平は、ダイブツダーの仲間たちが公園の入口でじっと彼らを見つめているコトに気付かなかった。
 気付かぬままに、戦いが続いていた。

「アクションが派手なら、音も派手。しかし、そう痛くはない。今こそ、お前のボケ倒しにツッコミ界の伝家の宝刀、ハリセンをお見舞いしてやる。覚悟しろ。橘!」(黒羽)
「よかよ。受けて立つばい。」(桔平)
 不敵な笑みを浮かべて、真っ直ぐな眼差しを向ける桔平。
 黒羽の真っ赤なハリセンが公園の灯りに照らし出されて。

「黒羽よ。一つ聞く。……ハリセンジャーのハリセンは分かった。ばってん……ジャーはどぎゃんしたと?」(桔平)
 ざわり、と木々が揺れた。
「あー。ジャーね。ジャーは台所で飯炊いて……って、ジャーは関係ねぇ!!」(黒羽)
 ばしっ!!
 黒羽のハリセンが桔平の頬を横から払うように襲う。
 無言のまま左手でそれを軽く受け流す桔平。
「……残念!そっちはフェイクだ!!」(黒羽)
 ハリセンで死角となった斜め上から、黒羽は桔平の額に向けてかかと落としを炸裂させる。
「甘か!」(桔平)
 それを右腕でこともなげに受け止める桔平。
 二人は同時に、ざざっと二歩ほど飛びすさり。
「見事なノリツッコミだったばい。」(桔平)
「お前こそ……俺の時間差ツッコミをよくぞ見切った。」(黒羽)
 不敵に笑み交わす。


「おおっ!凄ぇ掛け合いだ!!」(南)
 乾いた唇を軽く舐めて、南が小さく声を上げる。
「どつき漫才……。あんな橘さん、初めて見た……。」(石田)
「……うす。」(樺地)
 無意識にであろう、拳を握りしめる石田の言葉に、樺地がこくりと頷いた。


 ……なんて強い重圧感なんだ……!
 桜井は信じられない思いで桔平を見ていた。
 黒羽さんのあのツッコミにも全く動じないなんて。
 早く……早く対処しなくては……完全に気圧されてしまう。

 黒羽が桔平を睨み付けたまま、ゆっくりと構え直す。
 その姿に、桜井は少し落ち着きを取り戻して、自分のハリセンを掴み直した。

「橘。ならばこちらから聞こう。お前たちの名乗る『ダイブツダー』。『ダイブツ』は分かる。だが、『ダー』とは一体何なんだ?」(ジャッカル)
 そうだ。反撃だ!
 桜井はジャッカルに視線を走らせる。
 照明の強い光に、ジャッカルの後頭部がつややかに光った。
 ……石田は……どうしてるかな。
 一瞬だけ浮かんだ迷いをすぐに打ち消して、桜井は再び視線を桔平へと戻す。

「『ダー』は……断定の助詞『だ』に決まっとる!」(桔平)
「嘘つけ!!!」(東方)
 今まで漢字ドリルと英語ワークのコトばかり気にかけていた東方が、流れるような動きで桔平目がけてハリセンを振り下ろす。
 長身を活かしたムダのない動き。
 しかし。
「うらぁっ!」(桔平)
 意味のない気合いと共に、桔平はその一撃を軽やかに避けた。
「『だ』は助詞やない!!断定の助動詞やねん!!」(忍足)
 間髪入れずに忍足の「羆落とし」が桔平の背を襲ったが。
 ばしっ!
「悪ぃな。止まる気がしねぇ。」(桔平)
 桔平は、振り返ることすらせずに、後ろ手にそのハリセンを払い落としていた。
「!」


「『羆落とし』を破った!!」(石田)
「ってか、ハリセンで『羆落とし』はありえないだろ?」(南)


 桜井は半ば呆然と桔平の姿を見つめていた。
 橘さんは……ボケ倒しだとは分かっていたけども……。
 やはり……やはりタダモノじゃない……!!
 ぞくぞくした。
 その気持ちが恐怖なのか、喜びなのか、桜井には分からなかったが。
 ゆっくりと、桔平が視線を桜井に向ける。真っ直ぐに桜井を見据える。
「……桜井。」(桔平)
 低い低い、地を這うような声。
「……はい。」(桜井)
 思わず姿勢を正しながらも、正面から真っ直ぐに見据え返す。
「お前は……見ているだけか?」(桔平)
「……!」(桜井)
 挑発するように小さい笑みを浮かべる桔平。
 桜井は背筋に震えが走るのを感じた。
 ツッコミ戦士たちが桜井を見守っている。
 東方が深く頷いていて。
 黒羽が、忍足が、ジャッカルが、桜井の背を押すように、穏やかに微笑んで。

「……橘さん。」(桜井)
 覚悟を決めたように、桜井は一瞬、ぎゅっと目をつぶり、それから口元を真一文字に引き結ぶと、ハリセンを構えた。
 ボケ倒しであっても……橘さんはすごい人だ。
 だからこそ……だからこそ俺は……あなたに全力でツッコミを入れたかったんだ!!
 俺はあなたのボケに……突っ込めるだけのツッコミキャラになりたい。たぶんずっと……俺はそう願い続けていた。……だから。
「ずっと……俺はずっと……あなたにツッコミたかった……!」(桜井)
 黙って頷く桔平。
 いつでも来い、とその目が語っている。
 ぐっと腰を落とし、身構える桜井。
「……教えてください。不動峰のユニフォームのフードは何のためですか?!」(桜井)
「……フード?」(桔平)
「俺は……俺は……内村が神尾のフードにボールを入れて遊んでいた時以外、あのフードが使われているトコ、見たコトありません……!!」(桜井)
「内村のヤツ……。」(桔平)
「なのに……フードって洗濯したり干したりするとき、やけに手が掛かるじゃないですか!!」(桜井)
「確かにな。」(桔平)
「あのフードは、結局何なんですか……?!橘さんはいつかあれをかぶるつもりですか?!」(桜井)


 静かな風が吹く。薄雲が月を覆い、そして再び月明かりが公園を照らす。
「桜井……そんなコト気にしてたのか。」(石田)
「雨のときとか、かぶれば良いんじゃないのか?」(大石)
「うす。」(樺地)
「しかしそれにしても……フードかぶった橘って……すごい絵だな。」(南)


 風に木の葉が舞う。まだ夏だというのにひらり舞う一葉。
「やけに大きか襟だと……思っとったばい。」(桔平)
 低く響く桔平の声に。
「襟じゃないですっ!!」(桜井)
 桜井の渾身のハリセンが振り下ろされた。

 ぱしんっ!!

 乾いた音を立てるハリセン。
「……え?」(桜井)
 勢いをつけてハリセンを繰り出した桜井は、少しバランスを崩しながら、振り返る。
 避けられると思ったハリセンが、桔平の頬を直撃していた。
「た、橘さん……?!」(桜井)
 手の甲で頬をごしごしこすりながら、小さく笑う桔平。
「……やるばい。桜井。」(桔平)
「なんで……なんで避けなかったんですか……?」(桜井)
 黒羽さんのあの高度で痛烈なツッコミも、ジャッカルさん、東方さん、忍足さんの流れるようなツッコミコンボも、全部軽く受け流したのに……。
 俺の……俺の隙だらけのツッコミだけ、なんで……。
 困惑した様子の桜井の肩を東方がぽんと叩く。
 ……もしかして……俺をツッコミと認めて、ハリセンを正面から受けてくれた……?
 そういうコトなんですか?橘さん。だったら俺は……。俺は……!

「ここまで……かな。」(黒羽)
 にぃっと笑う黒羽。忍足もジャッカルも大きく頷いた。


「橘さん!桜井!」(石田)
「東方!」(南)
 戦いの終焉に気付いて、駆け寄るほくろ戦士たち。
「何だ。石田。来ていたのか。ああ、南も大石も樺地も。」(桔平)
 いきなり現れた仲間の姿に、桔平は少し照れくさそうに頭を掻く。

「じゃあ、俺たちはこれで。」(黒羽)
 ハリセン片手に、黒羽、ジャッカル、忍足はのんびりと歩き出す。
 公園の入口から桔平に駆け寄るほくろ戦士たちと、出て行こうとするハリセンジャー。すれ違い様に、忍足は樺地にこうささやいた。
「おつかれさん……桜井はもう大丈夫そうやな。」(忍足)
「……?!」(樺地)
 驚いたように忍足に視線を向ける樺地。しかし忍足らは振り向きもせず、そのまま愉快そうに笑い合って階段を下りてゆく。
 低い灌木の茂みが、風にざわざわと声を上げた。

「あの……橘さん。俺……。あの、すみませんでしたっ!」(桜井)
 狼狽えた声で頭を下げる桜井。
 数秒、桔平は黙って桜井を眺めていたが。
「……お前は謝らなくてはいけないことをしたのか?」(桔平)
 少し笑みを含んだ声で桜井に尋ねた。
「俺がボケた。お前が突っ込んだ。それだけのコトだろう?」(桔平)
 そして、桜井の肩をぽんぽんっと叩く。
「中二でそれだけのツッコミができれば大したものだ。もっとやりたかったが……全国でまたやるか。」(桔平)
「いや、全国は関係ないだろ!」(南)
 南の裏拳が炸裂する。
 穏やかな風が吹く。
 かすかな湿り気を帯びた曇り空、今日は種をまくのには最高の日だ。
 何の種を?
 さぁ。何だったかな。
 桔平はゆっくりと空を見上げた。
 桜井の横には石田と樺地。そして東方、南、大石。
 きっと本部では杏が心配しているコトだろう。菊丸も。もちろん跡部も。
「橘さんに突っ込めるなんて、お前、すげぇな!」(石田)
 邪気のない石田の笑みに、桜井が照れたように俯いている。
 それでいい。お前はもっと自分のツッコミに自信を持っていい。
 桔平はくるりと踵を返し歩き出す。

「帰るぞ。」(桔平)
 空には大きな月。絶え間なく流れる雲に霞みながら、静かに地上を照らし続けていた。



<おまけ>
跡部「今回、本部は全然出番がねぇじゃねぇか。あーん?」
菊丸「ホントだ!何だよ!折角待機してたのに!!」
杏「トランプやってるうちに終わっちゃったね!!ひどいよ!お兄ちゃん!」

菊丸「でも橘、すごかったな!」
杏「そうだね!すごかったよね!お兄ちゃん!」
菊丸「そのうちあいつ、スーパーダイブツダーとかになっちゃうよ!」
跡部「何だ?そのスーパーダイブツダーてのは。」
菊丸「髪が金髪になってね、全部逆立つの!で、むちゃくちゃ強ぇんだ!」
跡部「あーん?」
菊丸「で、決めぜりふが『おっす!おら橘!』」
杏「他のみんなもスーパーダイブツダーになれると良いね!」
跡部「良く分からねぇが……大石や南までは良い。樺地もまぁ良い。だが。」
杏「うん。」
跡部「石田はどうするんだ?金髪にもなれなきゃ、髪も逆立てようがねぇ。」
菊丸「……そっか!じゃあ、石田はタオルを金色にして逆立てよう!」
跡部「ふーん。タオルなわけね。」
杏「わあ。石田さん、かっこいい!!」





☆☆15万ヒット記念☆ぷち企画☆☆
   <今回のいただき冒頭文>
かすかな湿り気を帯びた曇り空に風なし、今日は種をまくのには最高の日だ。

どうもありがとうございました!



お手間をおかけしますが、ブラウザの戻るでお戻り下さいです。
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