ほくろ戦隊ダイブツダー!
〜悪の名の下に!?
「クイズ!六人に聞きました!」
昼休み。
切原の携帯に幸村からのメールが届いて。
幸村部長、病院でよっぽど暇なんだな、と、切原は少しだけ幸村に同情しつつ、受信メールを開けば。
「悪の立海六人に聞きました!答えは6つ!東京の『むかつくトコ』ってどんなトコ?」
六人に聞いて、答えが6つって、ずいぶんばらけたなぁ、と思いながら。
切原は思い出していた。
そういえば、昨日、柳先輩に「東京の『むかつくトコ』を答えろ」って、唐突に聞かれたんだっけ。あれは、柳先輩のデータ調査かと思ったんだけど、幸村部長のための調査だったんすね。
そして。
とりあえず、自分の答えを打ち込んで返信してみる。
「地図見ると、神奈川の上にあるトコ。むかつくっす。」
速攻で返事が来る。タイトルは「あるあるあるある!」で、本文が「ぴんぽーん!第一位!神奈川の上にあるトコ!」。
幸村部長、本気で暇なんだな。
切原は何とも切ない気分になって、テニス部の部室に足を運ぶ。案の定、部室には真田と柳、そして丸井とジャッカルがいて。
「あと1個が分からん。」
「ふむ。頑張れ、弦一郎。」
「お。正解!俺って天才的?」
「ブン太、それ、何個目だ?」
携帯片手に、幸村と戦っていた。もちろん、柳だけは全員の回答を知っているので、クイズには参加していないようであったが。
みんなで相談しちゃえば、正解なんてすぐ分かるのに、先輩達、律儀だなぁ、と。
切原はのんびり考えながら、弁当を開く。
そして、のんびりと思いつくままに、東京のむかつくトコをいろいろ送信してみたのであった。
昼休みが終わるころには、ジャッカルや丸井とも相談したために。
「神奈川の上にあるトコ。」(by切原。)
「なんとなく偉そうなトコ。」(by丸井。)
「首都とか名乗ってるトコ。」(byジャッカル。)
「神奈川の支配に屈しないトコ。」(by柳。)
「その存在の全て。」(by真田。)
と、5つまでは分かったのだが。
最後の1つが分からず。
「うーん。幸村部長がむかついているトコ……??」
結局、最後の1つは、放課後まで持ち越された。昼休みの間に全問正解したのは、真田だけであったらしい。
「さすがは皇帝の貫禄だな。真田。」
「ふん。」
柳の言葉に、深く帽子をかぶり直すと、真田は少しだけ機嫌良く、部室を出て行った。
そして放課後。
切原の携帯に、「答え!」と題されたメールが届く。
「最後の1つは……『東京都』の『都』の字がむかつく!」
切原は何度かメールを読み返し、そうなのか。そこが、幸村部長的にむかつくトコなのか、としみじみした。
そして、それを自力で解答した真田副部長はやっぱりタダモノじゃない!と尊敬の念を新たにした。
「というわけで、悪の神奈川の名に賭けて、東京都の『都』の字を潰す。」
部活終了後、真田が低い声で宣言する。
幸村の示した回答は、どうも立海の悪の魂に火を付けてしまったらしい。神奈川は「県」なのに、東京は「都」。とにかくなんだかむかつく気がする。切原もふつふつと東京の傲慢さに腹が立ってきた。
「都」って何だ!「都」って!「者」に「おおざと」って意味分からねぇぞ!こら!!
そして。
さっぱり訳が分からないままに、切原は悪のために尽くすコトを心に誓い。
「行ってこい。赤也!」
先輩達に見送られて。
悪の飛行物体ワルサー6号に乗って出撃した。
所変わって、ダイブツダーの秘密基地では。
敵やライバルが増えすぎて、よく分からなくなってきたので、情報を整理していた。
「えっと。ゴクラクダーは……不二、観月、千石、木更津、芥川の5人?」(菊丸)
「そうだな。だけど、山吹の伴田先生が総司令で背後にいるらしいから、6人というべきかもな。」(大石)
「悪の立海は6人だっけ。」(石田)
「ああ。幸村さん、真田さん、柳さん、丸井さん、桑原さん、切原で全員だな。」(桜井)
「邪の千葉は……葵、佐伯、黒羽、天根、それからえっと。」(東方)
「樹、木更津で6人か。オジイは関係ないだろうしな。」(南)
「インテリゲンチャーは忍足と手塚、乾、野村、柳生、柳生。こいつらが三年生で。」(跡部)
「うす。」(樺地)
「二年生が室町、高瀬、北村。」(跡部)
「うす。」(樺地)
「それから青学OBの大和さん、だね。」(杏)
「合計9人か。大所帯だな。」(桔平)
「彼らもみな……自分のためではなく、理想のために戦っているというのに……なぜ、お互いにいがみ合わねばならないのだろうか。」
全員の名前を書き出した一覧表を眺めて、桔平が溜息をつく。
不動峰テニス部の部室は沈鬱な空気に満たされた。
どうして、戦わねばならないのだろう。
テニスを愛し、理想を実現しようと願っている中学生同士が。
ほくろ戦士は、戦士であったけれども、決して好きで戦っているわけではない。できれば無用の戦いなど避けたいのだ。お互い、一歩ずつ譲り合うコトで避けられる戦いがあるのなら。
窓の外は、もう、夜の気配。薄闇の迫る時間。
「……もしかしたら……話せば分かるコトもあるのかもしれないな。たとえ、相手が悪の立海や邪の六角であったとしても。」
大石の言葉に、祈るような気持ちで一同が頷いて。
このまま、永遠に戦いがなくなれば良いのに、と心から願った。
しかし。
その願いはあっという間に打ち壊された。
「橘さん!! 神奈川から侵入者です!! ワルサーが!」
部室内に緊急を知らせる発信音が響く。慌ててモニターを覗き込んだ桜井の言葉に、桔平は小さく頭を振り。
「それでも、俺たちは東京のために戦う。……そうだろう?」
一同を見回した。
もちろん、平和であるのに越したことはない。けれど、その平和を脅かす者がいるのなら……戦わなくてはならない。それがダイブツダーの使命であるのだから。
「行くぞ。」
ゆっくりと立ち上がる桔平。
彼を信じ、彼に従うことを誓った仲間達は、一斉に立ち上がり、出撃の準備を開始する。
そう。全ては東京の平和のために。
情熱の悪の炎に突き動かされて、切原は東京に突入した。
柳が昨日の夜に作ったという悪の飛行物体は、ビワとイチゴを足して2で割ったような形と色とニオイで。
「ニオイはいらないっす。柳先輩。」
コックピットに立ちこめる甘い香りに、少しくらくらしながら、切原は悪の遂行のためにこんなところで負けてたまるか、と奮起した。
そして。
「東京都の『都』を潰すって、一体、何をすれば良いんだろ?」
ちょっとだけ、冷静に困ってみたりした。
しかし、切原は今世紀最悪の悪の化身であり、立派な悪の魂の持ち主であったので。
「そうだ。ダイブツダーを狙えば良い……!」
すぐに作戦を思いつく。それは完璧な作戦であった。
「きっと『都』を潰すといえば、ダイブツダーは焦って、『都』を護ろうとするに違いない!やつらが護ろうとするところを狙えば……そこに間違いなく『都』の弱点があるはずで……それで東京都の『都』はおだぶつっすよ……。ふふふ……ははははは!!!」
悪事の手順を決めるついでに。
ここ数日、一生懸命練習した悪人風高笑いも実践してみた。
俺、かなり素敵に悪い人だ、と、切原は生来のノリの良さで、うきうきと弾む心を抑えきれないまま、一路不動峰を目指して進む。
「『都』、潰すよ!!ふはははは!!」
「来たな……!!切原!今世紀最悪の悪の化身……!!」
ダイブツダーたちはまっすぐにワルサー6号を睨み付ける。
場所は神奈川にほど近い広大な公園で。
少し行けば、すぐに住宅地に突入してしまう。
一般の市民への被害を防ぐためにも、一分でも早く勝負を付ける必要があった。
そんなダイブツダーの気持ちを知ってか知らずか。
「ふはははは!!今更あがいても遅いっすよ!!今日こそは……あんたたちをこてんぱんにたたきつぶす……!」
テンション高く切原が宣言すれば、桔平が一歩前に出て。
「そうはさせない。東京の平和を脅かす者は……俺たちが許しはしない!」
正義の心を瞳に宿し、強い口調で斬り返した。
そうそう。そう来なくっちゃね。少しは楽しませてくださいっすよ?
口の中で小さく呟くと、切原は作戦を開始する。
「特別に……今日の狙いを教えてあげるっすよ。橘サン。」
にやり、と。
切原はワルサー6号のコクピットで悪人スマイルを浮かべたが、それはほくろ戦士達に悟られることもなく。
ただ切原の言葉に色めき立つほくろ戦士たち。わざわざターゲットを教えようという意図を量りかねて、南と大石は桔平に視線を送った。しかし、桔平は冷静に低く。
「動じるな。」
と、仲間達を制する。そうだ。動揺しても仕方がない。今は切原の出方を見て、冷静に判断すべきときだ。
一同は、静かにワルサー6号へと視線を戻した。
「今日はね……俺、東京都の『都』をぶっ潰しに来たんすよ。ふふふ……ふはははは!」
ワルサー6号から響く不敵な笑い声。
愕然として、ダイブツダーたちは目を見開いた。
「都」をぶっ潰しに来た、だと……?
一体……どういうコトだ……?!
「意味が分からないって顔、してるっすね。」
愉快そうに発せられる切原の声。
「むかつくんすよ、東京都の『都』って。『者』に『おおざと』じゃないっすか。ホント、意味分からなくて、むかつくんす。『者』なんて、『土』と『ノ』と『日』っすよ。なんすか。それ。」
余裕を感じさせていた切原の声が一転する。唐突に吐き捨てるような口調で、激しい語気で、繰り返す。
「悪の名の下に……『都』……潰すよっ!」
「都」がむかつくと悟ってしまった幸村部長。
あなたの崇高な悪の心は……俺が受け継いで成就させます……!
切原は使命感に燃えて、ほくろ戦士達を睨み付けた。
なんだかよく分からないが、東京都のアイデンティティが危ない!
石田と樺地が音もなく一歩前に出、力ずくでワルサー6号を排除しようと構えたとき。
桔平がそっと瞑目して、低く呟いた。
「もし……『都』の一文字が……お前を苛立たせていたのなら、謝ろう。切原。」
はっとして振り返る石田と樺地。
どうして……橘さんが謝るんだ……!!橘さんは悪くない!切原の言っているコトはただの言いがかりじゃないか!
しかし。
大石と南は小さく頷いた。
「切原。お前は……『都』をぶっ潰せば……俺たちへの憎しみを捨ててくれるのか?」
南が静かに問いかける。
「そうだとしたら……俺たちは『都』の一文字くらい、惜しむことはない。」
そっと大石が言葉を継いで。
「できることなら、戦いたくないんだ。俺たちは。分かってくれ。切原。」
穏やかにゆっくりと。
桔平が目を開く。
もしダイブツダーが一歩、ここで道を譲ることで、ムダな戦いを避けることができるのなら。
それはきっと、力で勝ち取る勝利なんかよりずっと、幸せなことで。
「な、なんすか?!それ?!」
切原が吠えた。
「今更、戦いたくないだなんて……俺のこと、馬鹿にしてるんすかっ!?」
そんなリアクションは想定していなかった。
このままでは完璧だった作戦がムダになる。幸村部長に合わせる顔がない。
ってか。
真田副部長に「たるんどる!」って怒られる……!!下手したら殴られるかも……!!
切原はさっと青ざめた。それはまずい。何とかしなくては……!
そして、持てる限りの知力を駆使して、なんとか対処法を考えた。
……そうか……!
ふと、名案が浮かぶ。
俺って最高!すごい賢いじゃん?丸井先輩より下手したら天才的じゃん?
切原は自分の頭の良さに感動し、つくづく、自分は立派な悪人だなぁと感心さえしてみた。
「ふふふ……ははははは!!」
悪人高笑いも絶好調である。
「じゃあ、渡してもらいましょうか。『都』を……!」
どこにあるのか分からなくても、ダイブツダーに差し出させれば良い。
くつくつと喉の奥で悪人含み笑いをしながら、悪の飛行物体ワルサー6号から地上を見下ろす。さぁ、差し出せ。ダイブツダーども!それともさっきの言葉を撤回して、見苦しくあがくか?俺はどっちでも構わない。さぁ、どうする?
そのとき。
桔平はまっすぐな瞳で、切原の乗るワルサー6号を見上げ。
きっぱりと言い切った。
「お前が望むなら、それで戦いを避けられるなら、なんでも差しだそう。切原よ。」
そこまで言って一瞬、瞑目した桔平。そして。
「ところで、『都』とは何だ?」
ワルサー6号は動かない。不気味な静寂が公園を支配する。
ゆるりと流れる風。
もう世界はすっかり夜の闇に満ちていて。
夕飯、なんだろうな。
と、石田は軽く現実逃避を試みた。
一分、あるいは三十秒くらい経ったころであろうか。苛立った切原の声によってようやく沈黙が破られる。
「『都』ってのはっ……東京が自慢げに何にでもくっつける文字じゃないっすか!都知事とか!都庁とか!都議会とか!」
腕を組み、うんうん、と、切原の言葉に頷く桔平。
しばらく何かを考えていたが。
「そうだな。分かった。構わない。好きなだけ、持って行け。」
オトコらしく、はっきりと応じた。
「や。持って行けと言われても……!」
切原は悟った。
負けたのだ、と。
自分は東京から「都」を奪うことに失敗したのだ、と。
その敗因が、桔平の愛の心だとは思いたくはなかった。
ただ、自分が力不足で……それで負けたのだ、と切原は考えた。
「……今日のところは……これで帰ってやる……!次は……次こそは東京、潰すよ?」
捨てぜりふを残し、ワルサー6号は南の夜空へと消えていった。
その姿が完全に見えなくなるのを待って、ダイブツダーたちはゆっくりと勝利をかみしめつつ、家路に就く。
空は静かに夕焼けの色を夜に染め、周囲の家々には暖かな灯りが灯っている。
たとえ、悪が滅びることがなくとも。
正義と愛の心で接する限り、戦いは避けられるのかもしれない。
もしかしたら。
悪の神奈川と共に生きる道があるのかも知れない。
桔平は小さく光る一番星を見上げながら、そっと息をついた。
<次回予告>
「なんか疲れませんでした。東方さん。」
「そうだな。桜井。なんか、今日はやけに疲れたな。」
「なんででしょうね?」
「なんでだろうな?」
「立海は恐ろしい学校ですよね。」
「ホントにな。一人一人が半端じゃない悪だからな。」
「いつか、本当に立海とダイブツダーが手を結ぶ日が来たら……。」
「ああ。そんな日が来ると良いな。」
嘘かホントか?! 一時休戦?!
お楽しみに!
100000ヒット、本当にありがとうございました!
「日有所想、夜有所夢」
そしてうっかり続いちゃったりもしました。
一時休戦?!