これは。
ほくろ戦隊ダイブツダー!」シリーズの続編に当たるSSです。
おそらく第一話だけでも先にお読みになってからの方が、
意味が分かりやすいかと思います。
単独でも読める、かなぁ。はい。

ほくろ戦隊ダイブツダー!
〜悪が邪で邪が悪で?!




 海は静かであった。
 昨日も今日も、寄せては返す波の音が、淡々と浜を包む。
 そんな波打ち際で。
 天根はひどくにやにやしていた。

「なんだよ。ダビデ。気色悪いな。何、にやにやしてるんだよ。ゴクラクダーじゃねぇんだぞ。」
 部活前。早朝からなぜだか海に寄っていくと言い張る天根につきあって、遠回りさせられた黒羽の失礼なコメントにも動じる様子もなく、天根はにやにやと波を見つめ。
「…………来た!」
 何かを発見して、ばしゃばしゃと遠浅の海に足を踏み入れた。
「何だ?そりゃ。」
 天根が波間に腕を伸ばして拾い上げたのは、小さなガラス瓶。
 中には小さい紙切れが入っていて。
 天根は満面の笑みで答えた。
「……ぶんたくんからのお手紙……。」

「信じられるか?サエ?朝、ダビが手紙書いて海に投げ込むと、翌朝、返事が届いて入るんだと。で、また朝のうちに手紙書いて……とりあえず出してみた手紙に返事が来たってんで、嬉しがってなんか一週間ぐらい、文通してるらしいぞ。」
 練習後。
 授業が始まるまでの数分の休み時間。
 廊下の柱に寄りかかって、黒羽は佐伯に相談を持ちかけていた。朝のできごとが気にかかって。
「……文通って、そのぶんたくんって子と?」
「おう。」
「……良いんじゃない?ダビデが楽しいなら。」
「……俺もそう思ったんだけどよ。……その手紙がよ。立海の校章入りレポート用紙に書いてるんだ。」
「……! 立海か……。」
 この際、潮流がどうなっているのかとか、ありえるのかとか、そんな細かいコトは気にしている場合ではない。
 悪の立海。
 邪の六角にとって、最高の盟友であり、最大のライバルでもあるその校名を聞いては、黙っているわけにもいかず。
「昼休み、ダビデに確認してみないとね。」
「だな。」
 邪の六角一の知恵者佐伯の目が小さく光った。

 昼休み。
 部室に呼び出された天根は、佐伯に促されて、今まで送られてきた手紙を提出させられていた。
「これで……全部……。」
 小さくたたまれたレポート用紙には、どれにも立海の校章が印刷されており。
 お世辞にも上手とは言えない大きな文字で、「ぶんた」くんからのメッセージが書かれている。
 一通目。
「よこしまのヒカルくん。おてがみひろいました。おへんじかきます。おれは悪です。おかしをたくさん食べて、りっぱな悪になります。シクヨロ。悪のぶんた。」
 二通目。
「よこしまのヒカルくん。だじゃれ、わらいました。ヒカルくんはりっぱなよこしまです。おれも悪のためにもっとおかし食べます。悪のぶんた。」
 三通目。
「よこしまのヒカルくん。きょうのだじゃれはいまいちでした。だからおれは、ヒカルくんのぶんまで、がんばってガムを12しゅるい食べました。おれ、天才的?悪のぶんた。」
 四通目。
 五通目。
 ……。

 読み終えた佐伯と黒羽は同時に深いため息をつく。
「……手紙、見て、悪かった。ダビ。頑張って文通しとけ。」
「うぃ!」

 天根はそそくさと手紙を鞄にしまい込む。その嬉しそうな横顔を見守りながら。
「ぶんたって……立海の丸井ブン太だろうな。」
「……やっぱそう思うか?」
 先輩二人は、静かに顔を見合わせていた。




「ブン太!拾い食いはいけねぇってあんなに言っただろ!!」
「拾い食いじゃないよ!ジャッカル!お手紙だってば!!」
 こちらは部活帰りの時間帯。悪の神奈川立海の面々は、最近、毎日港に寄っていく丸井を心配して、こっそり跡をつけていた。そして、岸から手を伸ばして海面の何かを懸命に拾い上げる丸井を発見し。
「とにかく、それを見せろ。ブン太。お前は紙でも食いかねんたまらん男だからな。」
「……むぅ!」
 薄く朱色に染まる海の向こう。
 丸井はそれでもしぶしぶと小瓶を差し出した。片手で受け取り、軽く栓をはずす真田。小さく折りたたまれた紙を手渡せば、丹念に柳がそれを開く。
「それ、ヒカルくんからのお手紙。」
「ヒカルくん?誰だ?それは。」
「……お友達。」

 柳はゆっくりと紙を開き、しばらく黙って眺めていたが。
「……六角中の授業参観のお知らせだぞ?これは。」
「違うよ!裏にヒカルくんのお手紙があるんだよ!!」
「ふむ……裏か。」

 裏返して見れば、大きな不揃いの文字が並んでいる。
「悪のぶんたくんへ。チューインガムに注意。板ガムかんで痛がむ。俺はいちごあじのガムがすき。よこしまのヒカルより。」

 最初から最後まで、柳は五回繰り返して読んだ。最後には小さな声で音読した。しかし、さっぱり意味が分からなかったために、真田にそのまま手渡した。
「……なんだ。これは……?」
 同じく意味を測りかねて凍り付く真田の横から、切原がのぞき込む。
「六角の授業参観案内……このありえないだじゃれ。しかもヒカルって名前。こいつ、六角の天根ヒカルじゃないっすか?」

 はっとして、柳が目を上げる。真田も目を見開いて何事か思案した後、大きくうなずいた。その隙に、丸井は真田の手から手紙を奪い返す。
 そして、数行しかない手紙を隅から隅まで熟読し、しばらく声を立てて笑ってから。
「ジャッカル〜、レポート用紙ちょうだい!お返事、書く!」
 横から覗き込んで首をひねっていたジャッカルの袖を引く。
「お、おう。やるけどよ。お前、最近、やけにレポート用紙使うと思ってたら、手紙書くのに使ってたのか!」
「当たり前じゃん!ジャッカル!俺が勉強するとでも思ってた?!」
 自信満々に言い切る丸井の後頭部を、真田が軽くひっぱたく。
「勉強くらい、しろ。」
「むぅ。」

 しかし。
 真田も柳もジャッカルも、決して丸井に文通をやめろとは言わなかった。
 そして、丸井は今日もガラスの小瓶をそっと海に流したのである。




「おい?ダビデ?どうした?」
 天根の様子がおかしいことに一番最初に気付いたのは、黒羽であった。しかし誰であれ、天根の姿を見かけた者は、彼がおかしいことに気付いたに違いない。部室の扉を開けるなり、挨拶もなくどんよりと自分のロッカーを開くなど、何より無口な目立ちたがり屋の彼にしてはありえない行動であった。
「……ぅぃ。」
 しょんぼりを絵に描いたような天根を、邪な心を懐く同志達が、不安げに取り囲む。朝練開始までにはまだ少し時間がある。
「どうした?!天根!!やっと自分のダジャレがつまらないことに気付いた?」
 葵が元気いっぱいに問いかければ、さすがに佐伯が口をふさいで。
「剣太郎。いくらホントのコトでも少し言葉を選ぼうね。」

「本当にどうしたのね?ダビデ。」
 樹が顔を覗き込むと、俯いていた天根は小さい声で。
「……お手紙が来てなかった……。」
 と答えた。佐伯や黒羽から話を伝え聞いていた一同は、ああ、と納得する。今まで毎日きちんと手紙が届いていたのが奇跡なんだ。そりゃ、届かなくても当然だろ、と思いつつも。天根のあまりにも哀しげな目元に、少しだけ同情して。
「夕方になったら来てるかもしれないぜ?放課後、また見に行こう?」
 肩にポンと手を置いて、黒羽が明るく励ましてみれば。
「レターの到着が遅れたー……ぷぷ。」
 げしっ!!!!
 真面目に励ましてやったことを、黒羽は間髪入れずに後悔する羽目に陥ったのであった。

 手紙は、夕方になっても届かなかった。
 部活後、みんなで浜辺に小瓶を探しに行った六角の邪な面々は、その辺一帯を歩き回った。しかし小瓶は影も形もなく。
「ぶんたくん……どうしたんだろ……。」
 俯く天根。

 そして、翌朝にも。
 小瓶は届いていなかった。その日は土曜日で、朝から邪の六角メンバーは、ぞろぞろと連れだって、天根の小瓶を捜索していたのだが、どこを捜しても見あたらず。
「諦めなよ。ダビデ。」
 ついに佐伯がはっきりと告げる。
「どこか他のトコに流されちゃったんだよ。」
 その言葉に小さく頷いて、天根はしばらく何かを思案していたが。
「樹ちゃん……邪虎丸貸して?」
「何に使うのね?」
「ぶんたくんトコ、行ってみる。」

 そして。
 前輪の取れた、黄色と黒の自転車に乗って、天根は出発した。

「ちょっと待て!ダビ!海越えて行くのかよ?!」
「うぃ。その方が近い……。」

 東京湾を越えて、千葉から神奈川へ。邪虎丸2号はゆっくりと飛んでゆく。

「樹ちゃん。あのさ。邪虎丸って神奈川まで飛べるもん?」
「……そんなコト、考えて設計してないのね。バネ。あれは東京侵略用なのね。」
「あー。」
 天根の後ろ姿を眺めながら、一同はしばらく朝の海岸に立ちつくしていたが。
「……一応、俺らも行くか。神奈川。」
「そうだね、バネ。あんまり立海のみなさんにご迷惑かけられないもんね。くすくす。」
 全員一緒に立海に赴くことに決定した。
「立海で悪のみなさんと再会だ!面白い!!」
 もちろん、彼らは電車で移動である。




 一度帰ったはずの丸井が立海の部室に戻ってきたのは、夕方遅くなってからだった。何をするともなく、座り込んで柳らとしゃべっていたジャッカルがその気配に振り返り。
「おい、どうした?ブン太?なんか悪いもんでも食ったか?!」
 丸井の様子がオカシイことに気が付いた。しかしジャッカルが気付かなかったとしても、他の誰かがすぐに気付いたであろう。それくらい、丸井はおかしかった。普段からおかしいことを忘れてしまうくらい、そのときの丸井はおかしかった。
「違うやい。ヒカルくんからお手紙が来てなかったんだよ。」
 ぼそぼそと呟きながら、俯く丸井に。
 柳と真田は顔を見合わせる。
 そういえば昨夜は風が強かった。もしかしたら小瓶はどこかに流されてしまったのかもしれない。
 とはいえ、放課後練習も終わったばかりで、みな疲れ果てていた。こんなときに、丸井の文通事情にまで構っているほど余裕はない。
「明日になったら届いているかもしれないな。また見に行けば良い。」
 柳が提案すれば。
「そうだな。蓮二の言うとおりだ。」
 真田も適当に相槌を打つ。
「……うん。」
 素直に丸井は頷いて、ジャッカルの鞄から勝手に飴を発掘し、口に放り込んだ。

 しかし、翌朝になっても手紙は届いていなかった。
 丸井にムリヤリ付き合わされて、早朝から港で小瓶を捜したジャッカルは、さんざん変なゴミを拾い上げて、なんだか海の清掃ボランティアに参加した気分だった。こんな良いことをしちゃ、悪の立海の名が廃る。そう気付いてしまったジャッカルは少しだけ凹んでいた。
「見つかったか?丸井。」
 静かに柳と真田が姿を見せたのは、心当たりのある場所をことごとく探し尽くした後で。
 さりげなく真田が虫取り網を、柳が双眼鏡を持っている辺り、二人も小瓶を捜してくれていたのだろう。ジャッカルはこいつらも良いやつなんじゃねぇかよ!と少しだけ憤慨した。ダメだろ。そんな良いコトしちゃ!
「……なかった。」
 俯いて、心からがっかりしたように言う丸井には、いつものお調子者の面影はない。ただひたすら、寂しそうに溜息をついて。
 ジャッカルはおろおろと丸井の周りで狼狽えるしかなかった。

「……もう、諦めろ。おおかた、どこか遠くへ流されたんだろう。」
「…………。」
 真田の言葉に反論もせず、ポケットに手を突っ込んで、丸井はしばらく考え事をしていたが。
「ジャッカル!」
 唐突にガムを取り出した。それはただのガムではない。柳が開発した丸井のおやつ、ワルサー5号である。
「これ、ふくらませて?」
 ワルサー5号は、特殊な加工が施されており、ふくらました状態で口から離すと、そのままふわふわと空を飛ぶようにできている。だから上手く狙って飛ばせば、誰かの顔面に当たってべちゃりと潰れたりする。丸井の一日一悪達成に一役買っている素敵な凶器であった。
「大きくふくらませてよ?」
「お、おう。」
 凹んでいる丸井の頼みを断れるはずもなく、ジャッカルは大まじめにワルサー5号をふくらませ始め。
 いつの間にか、ジャッカルの肺活量のおかげで、ワルサー5号は直径1メートルくらいの巨大な風船になった。
「もう良い。」
 むぎゅっとジャッカルの口元からワルサー5号を引き離すと。
「よいしょ。」
 丸井はふわふわ浮かぶワルサー5号によじ上り。
「ちょっとヒカルくんとこ、行ってくる。」
 風船ガムに乗って、ふわふわと出かけてしまった。

「……丸井のやつ、ずいぶんワルサー5号の使い方が上手くなったな。」
 港からまっすぐ千葉に向けて、ふわふわ飛んでゆく丸井の後ろ姿を見守りながら、柳がのんびりと感心する。
「それはそうと蓮二。あんなのに乗って、千葉まで行かれるのか?」
「……そんなコト、想定して設計すると思うか?あれは東京襲撃用だ。」
「……たまらん!!!!」

 朝の東京湾に、風船ガムに乗って飛んでゆく友人を見守りながら、三人はぼんやりと人生の意味なんかを考えてみたりしたが、ふぅっと小さく息を吐いて。
「仕方ない。俺たちもブン太を追いかけて六角まで行くか。」
「あいつ、財布置いていったし、自力で帰ってこられるとは思えねぇからな。」
「全く、たまらん!!!」

 もちろん、道すがら、切原が捕獲されて、強制的に千葉に連れて行かれたのは言うまでもない。電車でがたごと揺られながら、彼らは一路千葉を目指す。


 土曜の朝。
 六角の邪戦士達はみな立海へ。
 立海の悪戦士達はみな六角へ。
 気付かないうちにすれ違いながら。
 移動したのであった。


 六角の邪戦士達が立海にたどりついたのは、お昼前のことであった。
 港で天根を回収し、まっすぐにテニス部の部室に向かう。
「土曜だけど、誰かいるかな。」
 佐伯が扉を軽くノックすれば。
「開いてますよ。」
「入りんしゃい。」
 中から声がして。
「お邪魔しま〜す。」
 ゆっくりと扉を開くと、中では柳生と仁王がくつろいでいた。

 事情を聞いて、柳生は眼鏡を光らせて苦笑しながら。
「彼らは六角へ行きましたよ。すれ違いですね。」
 と告げる。
「ガムに乗って?ありえないだろ。」
 黒羽の真顔の突っ込みに。
「虎柄の自転車で飛んできた人のお仲間に言われたくありませんね。」
 冷徹に柳生が斬り返す。そして。
「とにかく、悪の連中はみな出かけましたよ。ワタシたちの優雅な土曜を邪魔しないでもらえますか?」
 体よく部室から追い払われてしまった一同は、途方に暮れながら空を見上げる。

「……柳生と仁王って、悪じゃないのね?」
「……そうみたいだったね。」

 そのとき。
 佐伯の携帯が鳴った。

「……柳くん?」
『ああ。佐伯、君は今、どこにいる?』
 悪の立海の連中も、六角にたどり着き、オジイに事情を聞いたらしい。ようやくお互いにすれ違ったことに気付いた柳は、しかし転んでもただでは起きない立派な悪人であって。佐伯に提案したのである。
 その提案とは。
 悪と邪のどきどき!東京挟み撃ち大作戦☆




「橘さん!大変です!!」
 東京の平和を守るため、レーダーで侵入者を警戒していた桜井が唐突に悲鳴のような声を上げる。
「どうした?!桜井!」
 ここはダイブツダー本部。
 部活のない土曜日などは、ほくろ戦士たちが自主的に集まって、東京のため正義のために、オセロやトランプで心や体を鍛えている。今日もまた、いつものように、彼らの熱い正義の心が、清らかに燃え上がろうとしていた、ちょうどその矢先に。
 桜井の声が本部の空気を一瞬にして、緊張感に満ちたモノとした。

「神奈川と千葉から、同時に侵入者が……!」
「何?!」
 くつろいで座っていた面々が、色めき立って立ち上がる。石田などは勢いよく立ちすぎて、椅子をひっくり返してしまい、大あわてで元に戻していた。
「しかも……神奈川から邪虎丸が、千葉からワルサーが侵入してきます……!」
「…………!!!」

 静寂が本部を支配した。
 今まで、ありえなかった展開である。
 悪の神奈川と邪の千葉が手を結ぶ可能性はないわけではない。しかし。なんで逆から攻めてくるんだ??
「その解析、間違いねぇんだろうな?」
 跡部が桜井の後ろからレーザー追跡画面を覗き込み、疑いようのない事実に、絶句する。
「ちっ。どういうことだ。」

 もちろん。
 ダイブツダーの正義の魂をもってしても。
 文通していた小瓶がなくなっちゃって、探しに行ったらすれ違っちゃったんだ。
 なんていうシチュエーションを推測し得るはずもなく。

 愕然としたまま、一同はお互いに目を見合わせるばかり。
 五人いるほくろ戦士を三人、二人に分けて、二正面作戦で迎撃するか、あるいは集中的に各個撃破してゆくか。ゆっくりと椅子を引いて、もう一度腰を下ろした橘に、大石と南が深く頷く。
 そうだ。まずは冷静に。
 落ち着いて考えれば、きっと一番良い道が見いだせるはず。
 そう思った矢先。
「あ……!!もしかして!!」
 ようやく見いだした冷静さに水を差すような杏の声。
「どうした?杏?」
 努めて冷静に、橘が問いただす。それに答えたのは桜井。
「いえ、あの……邪虎丸とワルサーが……同じ場所を目指して進んでいるようで……。」
 モニターを見据えたまま、懸命に侵入者の軌道を予測しようとする桜井と杏。
「狙いは一カ所だということか。」
「はい。」
「どこだ?」
「……ここです。」

 南がふぅっと、肩の力を抜くように深呼吸をして、東方にほほえみかけ。
 大石は菊丸の頭にぽんっと手を載せた。
 樺地は跡部に頷き。
 石田はまたしても倒してしまった椅子を慌てて元に戻す。

「行くか。」
 低く響く橘の声。
 そして、橘は杏の頭をくしゃりと撫でると、静かに合掌した。
 桜井が正義の心を込めて、ラジカセのスイッチを入れれば、ダイブツダーのテーマソングが力強く響き渡る。




「……ほう。自ら迎え撃つとは覚悟が決まったか。たまらんな。ダイブツダーよ。」
 真田が帽子をまっすぐにかぶり直しながら、挑発すれば。
「相手が悪かったね。俺たちは抜けないよ?」
 佐伯も爽やかに言い放つ。
 不動峰の校庭に。
 悪の立海と、邪の千葉が、勢揃いして。

「……一応、聞いておこう。何をしに来た?」
 橘の声は、灼熱の正義の怒りに満ちている。
「ふん。たまらん愚問だな。たとえ草試合だろうがそれが立海大だ!!」
「こりゃ一瞬たりとも気が抜けないな。俺は抜けないよ?」
 真田と佐伯の言っていることはさっぱり分からなかったが、とにかく彼らが本気であることだけは、橘も理解した。そして橘は、彼らの言っているコトがよく分からないのは、自分の国語の成績が悪いせいなのか、彼らの日本語力の問題なのか、あとでゆっくり考えようと思った。
 南は橘の横で、指先をぴくぴく震わせながら、突っ込んで良いモノかどうか、思案していたが、今日のところはスルーしておくことにした。だいたい、突っ込んだところで実りがあるとも思えなかったからである。
 それに。
 南にはもっと突っ込みたいところがあった。

 そこの丸井ブン太!!!
 お前、ふわふわ浮かぶ巨大風船ガムの上で正座して、風船ガムふくらませるの、どうよ?!

 と。
 切実に突っ込みたかった。
 だが。
 邪の六角の黒羽が、激しくその突っ込みの衝動に耐えているコトに気付いてしまったので。
 南は自分も我慢することにした。


 そのとき、ワルサー5号と邪虎丸が動いた。
 ダイブツダーを挟んで、向き合うように控えていた邪悪な存在が、ゆっくりとダイブツダーに向かって突き進む。
 そして。
 二人はそれぞれの愛機を下りると。
 身構えるほくろ戦士達の間をすり抜けて。

「……ぶんたくん……!!」
「ヒカルくん!!」
 ひし。
 と。
 感動的な出会いを演出して見せた。


「……!! なんてやつらだ!! ダイブツダー、シカトかよ!!!」(←本部の菊丸)
「ひどいな。正義の味方で主人公なのに、蚊帳の外だなんて……!」(←本部の東方)


「……俺、ぶんたくんのために、いっぱいダジャレ、考えて来た……!」
「俺も俺も!ヒカルくんのために、いっぱいお菓子食った!どう?天才的?」

 そして、また、ひしと抱き合う二人。
 黒羽とジャッカルは額を抑えて小さく呻き。
 お互いにちょっとだけ、親近感を感じた。

「ふむ。なかなか感動的な場面だな。弦一郎。」
「たまらん!!たまらんぞ!!!」

「天根のやつ、初めての友達かな!面白い!!」
「剣太郎はダビデのこと、友達と思ってないのね??」

 悪と邪のそれぞれの思惑を乗せて。
 小さく優しい風が吹き抜けてゆく。
 土曜の真昼。夏の日差し。そして揺れる木陰。

「……橘。」
「何だ?大石。」
「……あいつら……何しに来たんだ?」

 黒羽が天根を、ジャッカルが丸井を引きはがし。
 柳が佐伯に、六角中授業参観のお知らせプリントを手渡し。
 佐伯が頭を掻きながら。
「あれ?ダビデのやつ、なくしたって言ってたけど、ダメじゃん。」
 と苦笑し。
 そして。
 それぞれに自分たちのいるべき県へと歩み出した邪悪な背中を見やりながら、脱力した大石が問いかければ。
 橘は凛として背筋を伸ばし、はっきりと言い切った。
「知るか!」


「……勝手にやってきて、勝手に感動して、勝手に帰っていくなんて……なんて身勝手なやつらなんだ……!!何という悪!何という邪!!」(←本部の菊丸)
「ホント、ひどいよね!菊丸さん!さっき配ったトランプ、誰がどれだか分からなくなっちゃったじゃない!!」(←本部の杏)


 邪悪同盟は。
 こうして「悪と邪のどきどき!東京挟み撃ち大作戦☆」を終えた。
 柳は少しだけこの作戦名は千葉の連中にはおしゃれすぎたかな、と反省し。
 葵は少しだけこの作戦名はときめきと恋心が足りないと、部誌で批判した。
 木更津は翌日、天根を郵便局に連れて行って切手を買わせ。
 幸村は翌日、丸井を病院に呼び出して手紙の書き方を教えたという。

 しかし。
 東京の真の平和はまだ遠い。
 その日まで、負けるな!戦え!ダイブツダー!!





<次回予告>
「あーあ。なんかもう、ホントむかつくな。邪悪同盟!」
「そんなに怒っちゃダメですよ?」
「あー!腹立つ!!腹立つ!!……って、ややや大和先輩?!」
「お久しぶりです。菊丸くん。正義の味方、頑張っているみたいですね。」

「どどどどうしてこんなところに?」
「何を慌てているんです?」
「いいいいいえ。あああああの。」
「ふふ。落ち着いて?そんなに驚かないでくださいよ。」
「は、はい。」
「ちょっとね。ボクも……正義のために戦おうかと思いましてね。」
「……へ?!」

次回!
輝きは伊達じゃないよ?眼鏡戦隊インテリゲンチャー!?
お楽しみに!





……ごめんなさい……!
続きました!怒らないでくださいね??
眼鏡戦隊インテリゲンチャー!?
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