これは。
「ほくろ戦隊ダイブツダー!」シリーズの続編に当たるSSです。
おそらく第一話だけでも先にお読みになってからの方が、
意味が分かりやすいかと思います。
単独でも読める、かなぁ。はい。
ほくろ戦隊ダイブツダー
〜世界極楽化計画?!
それはとびきり寒い日のことであった。
「みなさんにお詫びしなくてはならないことがあります。」
観月が伏し目がちに切り出した。
ここはルドルフの部室。部活の時間が迫っているというのに、観月は着替えもせず、悠然と備え付けのパイプ椅子に腰を下ろし、悲痛な面持ちでゴクラクダーの面々を見回して。
「どうしたの?観月。君らしくないよ。(にこ)」
優しく揶揄するように不二が首をかしげれば。
「そうだよ。観月。いつものムダな自信はどうしたの?くすくす。」
「世界を救うために、もっと元気出してよ。観月くん!(にたにた)」
「zzzz……。」
と、木更津、千石、芥川も温かい眼差しで観月を勇気づける。
「ありがとう……みんな。」
少しだけ明るさを取り戻した観月は、小さく頷いて、口を開いた。
「ボクたちは、東京に巣くう悪の魂を救済するために、今日まで戦ってきました。そう。東京を地上の極楽にするために。」
先を促すように、一同は微笑んで。
その笑みを確認した観月は話を続ける。
「なのに……なのに、ボクは忘れていたのです。極楽に一番必要なモノを……!」
「一番、必要なモノ?(にこ)」
「そうです。不二くん。ボクのシナリオにはそれが欠けていた……! なんてコトでしょう……! ボクは……ボクは……! 極楽といえば温泉!という一番基本的なところを忘れていたのです。」
繰り返して言う。
それはとびきり寒い日のことであった。
「温泉か……。確かにあれは極楽だね。くすくす。じゃあ、極楽を実現するために、東京に温泉を掘るってこと?」
木更津が愉快そうに笑いながら尋ねれば。
「そんなコトじゃ、東京の悪は救えないよ。(少し開眼)」
静かに不二が言葉を遮る。
「東京に温泉を掘るくらいじゃ、この世を極楽にすることなんてできない。この東京の大地を……全部温泉にするくらいじゃないとね。(開眼)」
「んふ。なるほど。不二くんはさすがですね。スケールが違います。東京を一つの大きな温泉にしてしまうのですね。」
「温泉の中に浸って、悪いことをするやつなんて居ない。観月、やはり君はすごいよ。温泉で悪を浄化しようというその正義の魂が、ボクには眩しい。(開眼)」
「眩しいのは、目を見開いているからですよ。不二くん。慣れないことはするもんじゃありません。んふ。」
芥川がすやすやと眠っている横で。
ルドルフの部員達が、こっそりひっそり着替えをすませて、観月らの目に触れないように、こっそりひっそり部活へと移動するのを見て見ぬふりをしながら、ゴクラクダーたちは新しい救済の道に、世界平和への手応えを感じていた。
「それって男湯も女湯も関係なしだよね?!すごいなぁ。これぞホントの男女平等ってやつだね!(にたにた)」
千石も世界の真の平等を夢見て、嬉しそうに微笑んだ。
「そしたら……お風呂の中で寝るな〜!って怒られずにすむかなぁ……。えへ。」
夢うつつの世界で、芥川も優しい世界を夢見て微笑む。
東京を一つの大きな温泉にする。
それは東京を、日本を、世界を救うための、大切な第一歩である。
ゴクラクダーたちは使命感に燃えて、力強く微笑んだ。
そう。全ては東京の平和のため。
温泉を……東京に温泉を!
「でも、自分で掘るのは大変だよねぇ?(にたにた)」
「……そうですね。誰かに頼みましょう。んふ。」
「ダイブツダーとか、力持ちで優しそうだよね。(にこ)」
「そうだね。頼んじゃおうか。くすくす。」
「zzzzz……」
世界の平和を守り、悪に侵された哀れな魂を救うため。
ゴクラクダーたちの熱い戦いが今始まる。
何度も繰り返すが。
それはとびきり寒い日のことであった。
「寒い日に、急に呼び出してごめんね。(にこ)」
ルドルフの部室に呼び出されたダイブツダー五人は、居並ぶゴクラクダーの深い笑みに言いしれぬ恐怖を覚えながら、しかし勇気と愛を忘れることなく、まっすぐな眼差しを返した。
「どうした?突然。」
あえて淡々と橘が問いかければ、観月は軽く首をかしげ、いつもの調子で鼻に抜けるような笑い方をする。
「んふ。橘くん。君はご存じでしょう。東京に住みながら、悪の道に染まり、傷つき苦しむ魂がたくさんあることを。そんな彼らを救いたい、そうは思いませんか。」
穏やかな口調であればこそ、力を持つ言葉もある。
橘は小さく息を呑み、返答に窮した。
ゴクラクダーは東京に巣くう悪の魂を浄化し、愛と平和に満ちた東京を作り出すために、日々闇から闇へと暗躍しているのだと聞く。東京の平和のために戦うダイブツダーたちと同じ目的を抱いているのである。同じ夢を見ながら、なぜか今まで反目し続けていた自分たちが、もしかしたら手を結ぶべき日が近づいているのかも知れない。
橘の迷いを察してか、木更津が言葉を継ぐ。
「東京に住む人が……決して悪いコトをしたいなんて願わなくなるような、そんな優しい世界を作りたいんだ。そのためには……俺たちの知恵と、君たちの力と、スコップが必要なんだよ。くすくす。」
大石が穏やかに橘を振り返る。石田と樺地もゆっくりと橘に目を向けた。
橘が一つ頷けば、彼らは黙ってゴクラクダーと手を結ぶだろう。それくらい、ほくろ戦士達はリーダーである橘に全幅の信頼を寄せていた。
そんな中。
「ちょっと質問〜。」
勇敢に、南が手を挙げる。
「はい!南くん!(にたにた)」
指名する千石。
「平和な世界を作るために、スコップが必要だってのは、なんでだ?」
戦場の様子を見守っていた、ダイブツダーの後方支援部隊(@不動峰テニス部部室)の桜井は。
「なんで、突っ込みが南さんしかいないんだ……!南さんが居なかったら、今のトコ、スルーしてただろ!!ありえないよ!!」
と、頭を抱えていた。桜井にとっては、東京の危機とダイブツダーのボケ倒しとは同じくらい大切な問題であった。
「重要なトコに、よく気付きましたね。んふ。」
悦に入った観月の声に、桜井は「気付くだろ!普通!」と、魂の突っ込みを入れたが、口には出さなかった。
隣で跡部がいたく感心したように「南ってやつはなかなか侮れねぇな。樺地。」と呟いていたからである。ちなみに樺地はここには居ない。戦場で橘たちと共にいる。しかしそこに突っ込むのもやめておいた。桜井はとても頭の良い子であった。
そして。
ゴクラクダーの計画が語られる。
窓の外からは、ルドルフのテニス部が元気に部活をしている声が聞こえてくる。
「東京を温泉に……?」
愕然とした大石の声。
じゃりっと足下の砂塵を踏みしめて。
その目に宿るのは怒りや非難ではなく、ただひたすら驚きと狼狽の色。
それは、後方支援部隊にしても同じことで。
「……東京全土が……温泉……!」
「どうしよう!菊丸さん!!のぼせちゃうよ……!」
「だよね!!杏ちゃん!!それにさ、脱いだ服ってどこに置いておくんだろ?!うわ〜!俺、ゲーム機とかも置く場所悩む〜!!」
菊丸と杏の狼狽ぶりに、東方が宥めるように声を掛ける。
「二階だったら平気なんじゃないかな。」
いや!そうじゃないだろ!!
突っ込み方が違うだろ!!
桜井は指先をわなわなと震わせて、得体の知れないもどかしさと戦った。
違うんだよ。そこじゃないんだよ!突っ込むとこは!!
しかし、桜井の懸命の祈りは届かず、ついに正しい突っ込みが入ることはなかった。
そして話は戦場に戻る。
「どう?橘?良い考えだと思わない?(開眼)」
不二のささやくような声に、橘はしばらく伏し目がちに何かを考えていたが、ゆっくりとその眼差しを上げて、低く問いかけた。
「不二……。お前には、テニス部を辞めるだけの覚悟があるのか。」
今度はゴクラクダーたちが驚く番だった。
「テニス部を辞めるってどういうコトさ、橘。くすくす。」
「ボクたちは今まで、部活に差し支えがない範囲で平和を守って戦っていたんですよ。これからもそのつもりです。んふ。」
冬の厳しい寒さがガラス戸を通して伝わってくるような午後。
窓の外からはルドルフテニス部のかけ声が聞こえる。
「……今日は……ちょっと正義のために、部活を休ませてもらっていますが……決して寒かったから屋外練がいやだったわけではなくて……ときどきですよ?こんな、正義のために部活を休むのは……んふ。」
ちょっとだけ言い訳めいた口調の観月。
その声を遮るように、橘が口を開いた。
「分かっていないようだな。観月。」
「んふ。何をです。」
「東京が全て温泉になったら……我らがテニス部はおそらく活動を続けることができない。」
「……なぜです?」
「まだ気付かないか。」
いつになく強い口調で、橘が言葉を紡ぐ。
「……温泉といったら……ピンポンだろうが!」
声もなく、ゴクラクダーたちは目を見開いた。
そうか。温泉と言ったら……テニスではなく……ピンポン……!
た、橘さん……!!
指先を震わせながら、モニターに突っ伏した桜井をのぞいて、ルドルフと不動峰のテニス部部室は異様なまでの感動に支配されていた。
「お前達の計画はよく分かった。しかし……東京を温泉にしてしまっては、都民はピンポン以外やらなくなるだろうし、そのためにテニス部はおそらく不当な迫害を受けるに違いない。今までテーブルテニスと呼ばれていたピンポンが世界の中心となって……テニスは屋外ピンポンと呼ばれることになるかもしれないのだぞ!」
「……なるほど。それは困る。……ピンポンじゃ、タカさんの必殺波動球が使えないじゃないか。(開眼)」
橘の熱弁に不二は深く息を呑み、何度も頷いた。
「確かに、東京の平和のために、大事なテニス部を犠牲にするわけにはいかないね。(にこ)」
「そうだろう。」
静かに。
不二と観月、木更津は視線を交わし。
「今日のところは諦めるよ。(にこ)」
「仕方がありませんね。テニス部のためですから。んふ。」
「温泉の中でびちゃびちゃテニスするのは大変そうだしね。くすくす。」
素直に引き下がることを認めた。
「あーあ。世界混浴計画は失敗かぁ。残念残念!(にたにた)」
「zzzzz……。」
ルドルフの部活は活気があって良いなぁ。
と。
モニター越しに聞こえる元気な部活の声を聴きながら。
桜井はそっと目を閉じた。
これでやっと。
苛烈な戦いが幕を下ろして、平和な日常が戻ってくる。
「寒い日はカイロでも良いんだよね、くすくす。」
「東京全土を大きなカイロにするのはムリですよ。木更津。んふ。」
「そうそう。それじゃポケットに入らないからね。(にこ)」
まだ部室でなにやら策動しているゴクラクダーたちに別れを告げ。
ダイブツダーは寒風を全身に感じながら、静かに不動峰への道を歩み始めた。
「なぁ。大石。」
穏やかに静かに、勝利に溺れることもなく、南が呟いた。
「結局……どうやってこんな広い場所を温泉にするつもりだったんだろうな。ゴクラクダーのやつら。」
からからと枯れ葉を連ねて、乾いた風が吹いてゆく。
くどいようであるが。
それはとびきり寒い日のことであった。
その隣には。
心なしかしょんぼりしている石田と。
波動球の元祖は河村さんじゃなくて、石田だってコト、俺、知っているよ、分かってるよ、だから凹まないで、という優しい眼差しで、懸命に彼を慰めようとしている樺地の姿があった。
夕陽が沈んでゆく。
冷たく澄んだ空を朱く染めながら。
そして。
ほくろ戦士達は東京の未来を見据えて、平和への誓いを新たに、力強く本部へと帰還するのであった。
今日も東京の平和は守られた。
ありがとう! ありがとう! 僕らのダイブツダー!!
「跡部は温泉卵って好き?」
「なんだ?それは。その卵から温泉のヒナが生まれるのか?菊丸。」
「……え?」
「あーん?」
「そういえばさ、さっきすげぇ趣味悪いストップウォッチ拾ったんだけど。」
「趣味悪いストップウォッチ?」
「紫色なの。変な趣味だから、跡部のかなって思ったんだけど、違う?」
「あーん?なかなか良い趣味じゃねぇか。だけど俺のじゃねぇよ。」
次回!ストップ・ザ・ウォッチ?!
お楽しみに!!
どうもすみません。はい。
続きもあります。はい。
ストップ・ザ・ウォッチ!です。はい。
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