「誰にでもメガネのためにできることがあります。」
愛用のサングラスを拭きながら、大和が低く呟いた。
「たとえば……橘くんにメガネを掛けさせるコトの価値はプライスレス。」
ふぅっと息をレンズに吹きかけて、大和は一人頷く。
「六角と不動峰。この二校にメガネキャラがいないという現実が、いかに私たちを苦悩させてきたことでしょうか。しかし、その苦悩も今日を限りに終わりとなるのかもしれません。種をまけば芽が出るように、メガネをまけばきっとそこから新しい芽が出ることでしょう。芽が出るメガネ。何と美しい響き。」
そしてフレームに異常がないことを確認する。
「そうです。ダイブツダーが解散した今、逆光を無力化する『大石の領域』を恐れる必要はなくなったのです。大石くんがいなければ、ダイブツダーなど恐れる必要はありません。大石くんがいないダイブツダーはレンズもフレームもないメガネのようなもの。ええ。そうです。橘くんにメガネをかけさせるのなら、今しかありません!今こそ不動峰にメガネっ子を……!そうすればメガネはその萌芽の予感に喜び震えることとなるでしょう……!」
自分の組み立てた理論に満足した様子で、大和はサングラスをかけ直すと携帯を手に取った。
「室町くんですか?ええ。大和です。」
夏の陽射しが窓越しにサングラスに降り注ぐ。
今日もレンズはきらきらと鮮やかに反射して輝いていた。
室町を通じて、インテリゲンチャー全員へ、瞬く間に指示が行き渡る。大和の指示。それは「橘桔平に似合う素敵メガネの研究」。
夜までには仲間たちから素敵なレポートが寄せられることだろう。
大和はうっとりとサングラスの奥の目を細めた。
「いかなるメガネもメガネとしての輝きを持っています。しかし、一番良いのはその人に合った素敵メガネを選ぶコト。むりやり掛けさせるだけではいけないのです。」
橘桔平に似合う素敵メガネ。
それこそが、メガネの新しい未来への扉。
大和は小さく溜息をついて、立ち上がった。
「……やはりサングラスでしょうかね。橘くんは。」
そう呟きつつ、窓の外に目をやれば。
世界は今日も素晴らしいメガネ日和であった。