これは、「ほくろ戦隊ダイブツダー!」シリーズの続編に当たるSSです。
キャラクターの関係が複雑ですので、できれば順にお読みくださいませ。
むしろ、これだけ読むと意味が分からない自信があります。はい。
全部読んだけど、よく分からんという方は(ごもっとも!)、
資料室(同窓/別窓)をご参照ください。
しかも微妙に「河村さんの秘密。」ともリンクしています。
マイペースで行こう!
〜ダイブツダー@日常篇。
<冒頭文企画連動SS>
「ねぇ、桃先輩。ダイブツダーって何スか?」
「ん?……何だって?」
靴ひもを結びながら問いかける越前に、ラケットのガットの調子を見ていた桃城が驚いたように顔を上げる。
「ダイブツダーって何スかって聞いてるんすけど。」
相変わらずぶっきらぼうで無愛想な後輩に、桃城は軽く苦笑しながら。
「どこで聞いたんだ?その言葉。」
右手でぽふっと頭を撫でる。
まだ大半の部員たちが部室で着替えをしている時間帯。準備を済ませた数名の部員だけがテニスコートに出ている。そんな中での唐突な問いかけだった。
「どこでって……今、そこで大石先輩が菊丸先輩としゃべってたッス。」
頭上に置かれた手を邪険に払いのけ、越前は帽子を深くかぶり直す。
「ああ。大石先輩たちが言ってたのか。」
どこか安心したような桃城の声。
「で、何なんスか?」
知っているのに教えようとしないばかりか、探りを入れてきて勝手に納得している桃城に苛立ったのだろう。越前がむくれた声でもう一度問う。
「んー。」
軽く天を仰いで、桃城は言葉に迷っている様子だったが。
「まぁ、なんだ。簡単に言えば、正義の味方だな。」
「……正義の味方……。」
越前はあからさまに呆れたように溜息をついた。
「何スか。俺に秘密にしなきゃいけないようなモノなんすか?」
どうも越前は桃城が誤魔化すために下手な嘘をついていると思ったらしい。
まぁな。それが普通の反応だよなぁ。
桃城だってそう思う。だけども、世の中には結構不思議なコトが起こるもので。
なんだ、その。事実は小説よりも危機一髪ってヤツだ。
桃城は一人頷いて。
「先輩の言葉が信じらんねぇのかよ。いけねぇな!いけねぇよ!」
越前の頭を軽く小突いた。桃城の説明を聞き終えても、越前は釈然としない表情で、しばらく口をパクパクさせていた。いつもは超然としていてやけに偉そうな後輩が、なんだか妙に動揺しているように見えるのが、桃城には何とも愉快である。
「つまり……大石先輩と菊丸先輩は、不動峰の橘さんたちと一緒に、正義のために戦ってるって……そういうコトっすか?」
「そう。そういうコト。」
「で、手塚部長と乾先輩は正義のために戦うメガネ戦隊ってので、不二先輩は正義のために戦うほほえみ戦隊ってので。」
「おう。」
「……。」
「納得したか?」
「……。」
憮然とした様子で頬をふくらます越前。全く納得いかないらしく、一度きっちりと結んだ靴ひもをわざわざほどいて、結び直し始めた。
そして、俯いたまま、問いかける。
「じゃあ、桃先輩。河村先輩は?」
「タカさん……?」
小さく首をかしげる桃城。
「や……タカさんはたぶんどの戦隊にも属してねぇんじゃないか。」
そう言ってみてから、桃城は自分の言葉にふと笑みがこぼれる。普通の中学生は戦隊になんかに所属してないって。タカさんが普通であって、他の中三はみんな可笑しい。
昨日の土砂降りが嘘だったかのように、空はきれいに晴れ渡っていた。
ぱらぱらと部員たちがコートに集まってくる。
「それ、可笑しいッスよ。」
不満げな越前の声に。
「まぁ、俺も可笑しいと思うけどな。」
桃城は小さく笑いながら応じる。
でも、あの個性的な先輩たちには、それくらい個性的な秘密があった方が、らしくて良いんじゃねぇ?
桃城はその程度にしか思っていない。あまり深刻に考えるようなコトではない、と割り切っている。
しかし、越前はそうではなかったらしい。靴ひもを結び終えると、キッと強い視線で桃城を真っ直ぐに見据えながら立ち上がった。
「絶対可笑しいッス。」
「そうか〜?」
「だって……どう考えたって河村先輩以外、ヒーローはありえないっしょ。」
手塚がコートに姿を現した。部員たちが続々と手塚の元へと集い始める。
「……えっと。」
真顔の越前に何と反応して良いのか分からず、一瞬フリーズした桃城を見捨てて、越前はさっさと集合場所に駆け出した。
「……先輩たちも可笑しいけど。……越前も何か可笑しい気がすんな〜。」
桃城は小さく呟いて首をかしげたが。
確かに一番「変身ヒーロー」っぽいのはタカさんかもな、とも思ったが。
ま、良いか!と持ち前の切り替えの早さを発揮し、越前の背を追って走り出す。
そして。
関東大会決勝を目前に控え、青学の良い子たちは今日も元気にテニスに励むのであった。
自転車を止めて立ち寄ったコンビニで、越前はファンタを、桃城はスポーツドリンクを買って、店先で一気に飲み干した。部活が終わってから、水分はたっぷり取ったはずなのに、すぐにまた喉が渇く。それだけ汗をかいたのだろうし、今日が暑いということも確かだった。
「暑ぃ。やってらんねぇな。やってらんねぇよ。」
あっという間に空になったペットボトルを店頭のゴミ箱に投げ込んで、桃城はばたばたとシャツの襟元をあおぐ。
「ねぇ、桃先輩。」
カラン、と、空き缶を隣のゴミ箱に落としながら、越前がゆっくりと言葉を選んだ。
「あのさ。俺、考えたんだけど……大石先輩たち、騙されてるんじゃないッスか?」
「うん?」
一瞬、何の話か分かりかねて、シャツの襟を指先でつまんだまま、桃城は瞬きを繰り返し。
「あー。ダイブツダーの話か?」
びっくりしたように確認する。
「うぃっす。」
越前の表情は思いの外に真剣みを帯びていて。
「騙されてるって……なんだよ。」
思わず桃城も真面目に聞き返す。
「あのさ。ダイブツダーって五人もいるんでしょ?」
「おう。正義の味方は五人組なのがお約束だからな。」
「……そうなんスか?……えっと。ご老公さま、助さん、格さん、それから……。」
指折り数え始めた越前に、桃城はしまったと思った。
越前のヒーローは時代劇の登場人物だっけか。アメリカじゃ特撮モノとかって見てないんだろうな。
桃城はとりあえずあっさり前言を撤回するコトにした。
「や、まぁ、五人組だったり違ったりするけどよ。それがどうした?」
元の話題を思い出したのだろう。越前はぱっと顔を上げて。
「その仲間って、不動峰の橘さんと、石田って人と、氷帝の樺地って人なんでしょ?」
「あと、山吹の南さんな。」
「……誰、その人?」
「山吹の部長だって。ダブルス1で、大石先輩と英二先輩とやってただろ?」
「……誰?」
桃城と越前は真顔で見つめ合っていたが。
「ま、いいや。で、橘さんと南さんと石田と樺地がどうした?」
桃城は南があまりにも不憫な気がしたので、それ以上のフォローは入れずに話を元に戻すコトにした。
軽く唇を舐める越前。そして思い詰めたように口を開く。
「あのさ。石田って人、河村先輩に怪我させた人でしょ?」
「……まぁ、結果から言えばそうだな。」
「それに、樺地って人も、河村先輩に怪我させた人でしょ?」
「……うーん。そういう言い方もできるかもな。」
「橘さんは、石田って人のいる部活の部長でしょ?石田って人に攻撃を許可した人でしょ?」
「……や、別に攻撃じゃねぇだろ?普通にテニスしてただけだろ?」
「あれ、河村先輩じゃなかったら、きっと大変なコトになってたッスよ。」
「……あのな、越前?」
夏の日は長い。西日がゆっくりと居並ぶ建物の向こう側に沈んでゆく。
大まじめに、越前はその大きな瞳を桃城に向けた。
「絶対、怪しいッスよ。その組織。俺たちのヒーロー河村先輩を狙ってるに違いないッス!きっと大石先輩たちを巻き込んで、河村先輩を油断させるつもりなんスよ!」
桃城は自分の自転車に寄りかかって。
ちりん、と小さくベルを鳴らしてみた。
まぁ、あの先輩にしてこの後輩ありってトコかな。
空はどこまでも青く、西に低く漂う小さな雲だけがほんのりと朱に染まり始めていた。
青学ってやっぱすげぇ面白ぇトコだよなぁ。
桃城はどんなコトでも楽しむ覚悟ができている。
ゆっくりと越前に視線を戻し。
「そんなら、俺たちは、大石先輩たちを助けにいかないといけねぇな。いけねぇよ。」
その言葉に、越前は少し安堵した様子で力強く頷いた。
「大石。菊丸。突然呼び出して悪かったな。」
ダイブツダー本部である不動峰の部室には、ダイブツダーの面々が勢揃いしていた。
一足遅れて駆けつけた大石と菊丸に、桔平は一枚の紙を手渡す。
「これが今朝、家に届いていた。ちょっと見てくれ。」
四つ折りにされた細長いレポート用紙。
一番手前の面には大きな字で「はたちじょう」と書いてあり。
「はたちじょう?」
菊丸が首をひねる。
中を開けば、堂々たるへたくそな文字が並んでいた。ダイブツダーへ。
あんみつ同心心えのじょう。
一つ 人の良い吉をすすり。
二つ 古さとあとにして。
三つ 見にくいアヒルの子。
さればでござる。
河村せんぱい、けじめつけさせてもらいます。
てやんでぃ。そこにある文字には見覚えがあった。二度ほど繰り返して目を通してから、菊丸が大石の目を覗き込んだ。
「これ……もしかしておちびの字?」
「……そうだな。越前の字だな。」
菊丸と大石は読み返して、再び首をひねる。
「はたちじょう」というのはたぶん「果たし状」の書き損じだろう。だが、越前がどうして「果たし状」を橘の家に送りつけなくてはならなかったのか。そして、なぜ本文中に河村の名が出てくるのか。
分からないコトが多すぎた。しかも本文の意味は、どの一行を取ってもさっぱり分からない。
「見にくいアヒルの子って言われると、見やすいアヒルの子がいるみたいだな。」
東方が唸るように言う。
一番どうでも良いトコからツッコミやがって、と、南は相方の後頭部を眩しい思いで見つめた。
「越前は……中一だったか?」
桔平が尋ねる。
「ああ。しかも……時代劇大好きな帰国子女だ。」
大石の言葉に一同は深く納得した様子で頷いた。
なるほど。
しかしそれにしても意味が分からない。
「とにかく明日越前に聞いてみるよ。一体何なのかって。」
もう一度「果たし状」を読み返しながら、大石が一同に告げる。
そしてふと思い出す。
越前って確かタカさんのコト、幕府の隠密だと信じてたコトがあったよなぁ。まさか……今でもそれを信じているとか……?!
ぬぐいきれない不安をとりあえずは飲み込んで、大石は小さく深呼吸をした。
そんなコトを信じているにしろいないにしろ、彼らがダイブツダーと敵対するいわれはない。だったらなぜ……?
「ごめんな。変な後輩で。」
大まじめに詫びる菊丸。
跡部は「先輩も変なら後輩も変だな」と言いかけて口をつぐんだ。正義の味方を嗜む常識人は、味方に対してそんなコトは言わないだろうと思ったからである。
何か言いたげな跡部の気配に、横ではらはらしていた樺地は、思い直したらしい様子にほっと胸をなで下ろした。そのとき。
「待って!ダメだよ!越前!」
河村の声がして。
本部に控えていたほくろ戦士たちははっとした様子で声のする方を振り返る。
「入るなら、ドアから入ろう?壁破ったら、不動峰のみんなに迷惑だから。」
「……仕方ないッスね。」
扉の向こうで交わされているひどく不穏な会話に、一同は静かに臨戦態勢を整える。
なんだか分からないが、不条理なほどに不穏な感じがする!
桜井は戦士たちの邪魔にならないよう、本部の奥に後ずさりながら。
「見にくいアヒルの子」より先に、「あんみつ同心」にツッコミを入れるべきじゃなかったのかなぁ、東方さん。
と。
ツッコミ仲間への密やかなるツッコミを胸の奥に抱きしめていた。
そして。
変身用のBGMを流すべきか、一瞬だけ迷い。
「……な、な、なんで河村さんが……?!」
動揺している相方石田の声に。
今日は戦わずにすむと良いな、と。
BGMは流さないでおくことにした。コンコン。
硬質なノックの音が響く。
「開いている。」
低く応じる桔平。
音もなくドアが開く。
「お邪魔します。」
扉の陰からひどく照れくさそうに、河村がそっと顔を覗かせた。
その後ろには険しい顔をした越前と、楽しそうな桃城。さらに隠れるように、困り果てた表情の海堂もいる。
「どうしたの?タカさん。」
大石は困惑を隠しきれない声音で尋ねた。
相手が戦士であれば、ほくろ戦士として向き合うこともできる。しかし、目の前にいる河村は戦士ではない。河村は、正義でも悪でも邪でもない、普通の中学生である。
河村は大石の姿に気付いて、ほっと小さく息を吐いたようだった。
「ごめん。大石。いきなり押しかけて。」
普通の中学生が、正義の味方の秘密基地を襲撃するのなら、それは緊張してしかるべきであろう。そこで友人を見かけたら安堵するのも頷ける。
しかし。
河村は困ったような笑顔でこう続けた。
「越前がね。ダイブツダーやっつけるって言ってきかないんだ。俺も止めたんだけど、どうしても倒さなきゃ嫌だって言うから。」
ダイブツダー本部に緊張が走る。
河村たちは正義に仇為す者なのか?!
石田が動揺を押し殺すようにぐっと拳を握る。ゆっくりとラジカセの再生ボタンに手を伸ばしながら、桜井は桔平の背中を見据えた。そこへ。
「あれ?今日ってダイブツダーの日でしたっけ?」
ひょこっとドアから神尾が顔を覗かせる。
「帰ったんじゃなかったのか?」
驚いた声で問う桔平に、神尾は少し気恥ずかしそうに。
「や、腹減っちゃって、コンビニで食い物買って戻って来ちゃったです。部室で食べてって良いッスか?」
神尾の背中から、ひょこりと伊武が顔を出す。森と内村の声がする。
なんだ。みんなで戻ってきたんだ。
杏は部室を見回した。狭い部室だが、あと四人くらいなら入れそうである。
「構わんが。」
特段気にした様子もなく桔平はそう応じてから、ふと思い出したように。
「ただ、今、ちょっと一触即発なんだが、それでも良いか?」
まるで当たり前のコトのように尋ねると。
「橘さんが守ってくれるなら、良いです。むしろ嬉しいです。」
真顔で伊武が答えた。そして不動峰の良い子たちは部室に足を踏み入れ。
「あれ?海堂じゃん。」
「……おぅ。」
「……越前。お前、何しに来たわけ?」
「伊武さんには関係ないッスよ。」
すれ違い様に青学の良い子たちと言葉を交わしたりしながら、隅っこに固まって腰を下ろした。「さて、河村。」
不動峰の良い子たちの闖入に、すっかり緊張感もほぐれてしまったらしく、にこにこしていた河村に、桔平が視線を向ける。
「……うん。」
口元を引き締め、桔平の視線を正面から受け止める河村。
「お前が今日ここへ来たのは……越前に言われたからだけではあるまい?」
はっとしたように河村は目を見開き、それからゆっくりと笑みを浮かべた。
「うん。」
そして鞄から白い布で巻かれた何かを取り出す。
はらり。
とその布がまくられれば。
姿を見せるのは鋭利な刃物。
見せつけるように肩の高さに掲げる河村の目は、笑っているようにさえ見えて。
ダイブツダーたちは息を呑む。
その後ろで不動峰の良い子たちの「庖丁?」「うん。庖丁。」という普通の会話が聞こえ。
「……河村先輩!」
海堂が驚いたように小さな声を上げた。「橘?」
さすがに刃物を持ち出されては、相手が普通の中学生だなどとは言っていられない。
南が指示を仰ぐように低く呼びかけたが、桔平は全く動揺した様子もなく片手で仲間たちを制す。
そして、河村に一歩近づいて。
「よく切れそうだな。」
嬉しそうに庖丁に手を伸ばす。
「うん。オヤジが良い庖丁だから大事にしろって。」
河村も笑顔で布ごと庖丁を差し出した。
「ああ、大切にさせてもらう。オヤジさんにも、丁寧に研いでくださってありがとうございますと伝えてくれ。」
「うん。伝えるよ。砥石は結局見つかったの?」
「いや……東京に越してきてから先、どうも見あたらなくてな。諦めて買い直すつもりだ。」
「だったらちょうどいいや。これ、オヤジが橘にって。使ってもらえる?」
再び鞄を開けて、河村は細長い箱を取り出した。箱の表書きには「砥石」とだけ素っ気なく書かれていて。
「良いのか?」
「うん。橘が大事に庖丁扱ってるの、オヤジ、すごく嬉しかったみたい。俺も橘を見習えとか怒られちゃったよ。」
そう言って、河村は照れたように頭を掻く。
そうだ!河村&桔平はお料理大好きペアだった!
菊丸は今更ながらダイブツダーのリーダーの奥深さを思い知らされた気分で、天井を見上げた。
ってか、橘ってばいつの間に庖丁をタカさんに預けてたんだろ……?そのとき、桃城は気付く。
越前が喜びを全開にした笑顔で河村と桔平を見つめているコトに。
「どうした?越前。」
「……ごめん。桃先輩。俺、誤解してた。」
大きな目を輝かせて、越前は桃城の腕を掴む。
「河村先輩のお父さんから庖丁褒めてもらえるなんて……橘さんも隠密同心の仲間だったんスね!」
「……えっと?」
「この前、石田って人と、樺地って人が河村先輩に怪我させたのは、きっと敵の目を欺くためだったんスよ……!ダイブツダーも幕府の仲間なんス!!」
桔平を見据える越前の目に、尊敬の色が宿る。
ようやく桃城は思い出していた。越前が河村のことを幕府の隠密だと信じているらしいという噂を。
ってか、幕府って何だよ!今、何時代だよ!
喉の奥からこみ上げてくる笑いを必死に押し殺して、桔平と河村が庖丁片手に語り合っている和やかな場面に視線をやれば。
その気配に気付いたのだろう、おっとりと河村が振り返り。
「ね?越前。橘は悪い人じゃないだろう?」
諭すように柔らかくそう言った。
直接会って話をすればきっと分かってくれる。河村は彼一流の大らかさでそう信じて、越前を伴って不動峰の部室を訪れたに違いない。大石はほっと小さく息をつく。
気が付けば海堂は、戦線を離脱して森と神尾の間に座り込んでいる。「満足したか?」
ぽふっと越前の帽子を押さえるように、桃城が笑いかければ。
「うぃっす。」
まだ感動を隠しきれない様子で深く頷く越前。
「じゃ、これ以上ダイブツダーの邪魔するわけにもいかねぇから、帰るか。」
これ以上、幕府の隠密たちに迷惑を掛けるわけにもいかない。
越前は素直に帰ることにした。真っ直ぐに桔平や大石たち「幕府の隠密」に尊敬の想いを込めた会釈をして、くるりと踵を返す。
その様子に気付いて、海堂はそっと不動峰の良い子たちの元を離れる。
「じゃあまたね。海堂!」
森がにこにこと手を振った。
「越前、これ、持って帰っておくか?」
「果たし状」を手に、南が呼び止めれば、振り向いた越前は少しきょとんと南の顔を見上げ。
「あ……ありがとうございまス。」
恭しく両手で「果たし状」を受け取った。
「山吹の……ダブルス1の人ッスね。あんたが南さんか。」
「うん?それがどうした?」
名前は忘れても顔は覚えていたのだろう。心から納得したように越前は南をじっと見上げ、それから深い尊敬の表情を浮かべた。そして、ダイブツダーたちにもう一度ぺこりと頭を下げて。
部室から出て行く河村たち。
ふぅっと深く息をついて、桜井はラジカセの電源を切った。
「お兄ちゃん、庖丁眺めてにやにやするのやめて!」
杏の苦言もどこ吹く風。桔平は機嫌良く鞄に庖丁を押し込んでいる。「ところで海堂は何しに来たんだろ?」
ばたりと閉ざされた扉を見つめながら、菊丸が大石に尋ねると。
「たぶん、桃と越前だけじゃ、タカさんが可哀想だと思ったんじゃないかな。」
苦笑混じりに大石が応じる。
「そっか。海堂は優しいもんね。」
ドアの向こう、少し離れた辺りから、海堂のくしゃみが聞こえた。
☆☆15万ヒット記念☆ぷち企画☆☆
<今回のいただき冒頭文>
「ねぇ、桃先輩。ダイブツダーって何スか?」
どうもありがとうございました!
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