納得行かない(オールキャラ)
 「尻尾」の続き。







 アズミを寝かしつけて戻ってきたガクは、いつもどおりぼんやりと姫乃を眺めている。
 愛の言葉でも考えているのだろう。
 時折、「墓」だの「スイート」だの断片的な言葉が聞こえて。
 生きている連中はそれぞれに大掃除の続きに精を出し。
 昼の陽射しが窓越しにうたかた荘を照らし出す。
「ふぁ。」
 見るともなくテレビを見ていたエージがあくびをする。
 あくびは隣にいたツキタケに感染し。
「ふぁ。」
 のどかな温もりがうたかた荘に満ちていた。
「お前らも昼寝してきたらどうだ。」
 明神が笑う。
「するかよ!ガキじゃねぇんだから!!」
 むくれるエージの頭をぽふっと叩いて、明神は風呂の掃除に取り掛かった。
 一時間くらい経った頃だろうか。
 アズミがリビングに転がり込んできた。
「続き!」
 ガクの膝に飛び乗ると、当たり前のように絵本の続きをねだる。
 目が覚めたばかりとはいえ、怪獣は怪獣である。
 元気一杯にガクに催促する。
 姫乃と十味が顔を見合わせた。
 エージとツキタケはそそくさとガクの後ろに回る。
「明神さんを呼んできますね!」
 慌てて風呂場に向かう姫乃に、十味は苦笑いを浮かべた。
 アズミが昼寝している間だけか。まともに掃除が進んだのは!
 ガクは相変わらず陰気に、ぽん、と絵本を取り出すと、アズミによく見えるように広げて。
「『分かった。』狼さんは決意を固めると、ゆっくりと目を閉じました。」
 ゆっくりと続きを読み上げ始める。
「『いいだろう。シッポはくれてやる。ただし条件がある。』カッと目を見開いて、白雪姫を睨みつけると、狼さんは続けました。『シッポには、もれなく俺が付いてくる!』そうです。狼さんとシッポはセットだったのです。白雪姫はぺろりと唇を舐めました。『望むところだ!』そしてシッポ(狼さん付き)と白雪姫と七匹の子豚たちの不思議な共同生活が始まりました。」
 明神を伴って戻ってきた姫乃はそそっと絵本を覗き込む。
「シッポ(狼さん付き)は働き者でした。炊事、洗濯、掃除、なんでもござれでした。台所に立てば、料理の鉄人がよみがえったかと思うほど。洗濯機を前にすれば、柔軟剤を使わなくても驚きの白さ、驚きの柔らかさ。掃除に至っては『修羅の家』に出しても継母にいちゃもんを付けられる心配がないほどの完璧さでした。白雪姫はシッポ(狼さん付き)がすごく気に入りました。しかしそれで収まらないのは七匹の子豚さんたちです。」
 もう何が何やら分からない。
 十味はポットから急須に湯を注ぐ。
 やめだ。やめだ。わしもここで休憩だ!
「七匹は鏡の前に立って言いました。『鏡よ鏡よ鏡さん。世界で一番すさんだ目をした子豚さんは誰?』鏡が答えました。『それはあなたさまです。』そうです。その七匹こそが世界で一番すさんだ目をした子豚さんだったのです。七匹はさっそく自信を取り戻し、シッポ(狼さん付き)いたずら電話をかける決意を固めたのでした。」
 何の自信だ。
 苦笑しつつ、十味も湯飲み片手に絵本を覗く。
「七匹の子豚さんは、超勇敢なだけでなく、超優秀でした。七匹で一日ずついたずら電話をかけると、一週間のローテーションを組めることに気づいたのです。そして、子豚さんたちによるヘビーないたずら電話作戦が始まりました。シッポ(狼さん付き)は毎日かかってくるいたずら電話に困り果てました。」
 何度も読んでもらっている絵本であろうに、アズミは目をきらきらと輝かせて聞き入っている。
「ある日、白雪姫はお城の舞踏会に行く準備をしていました。七匹の子豚さんたちも一緒です。そのとき、白雪姫は、シッポ(狼さん付き)が一人でしくしくと泣いているのに気づきました。シッポ(狼さん付き)には舞踏会の招待状が来ていなかったのです。」
 ここでシンデレラ?!って、狼さんは男の子じゃなかったの?!
 姫乃が密かにうろたえる。
「白雪姫が言いました。『舞踏会は偶蹄目とヒト目にしか招待状は来ない。残念だったな!』そして白雪姫と七匹の子豚はお城の舞踏会へと出かけていったのでした。シッポ(狼さん付き)は泣きました。『なんで俺はこんな橋田壽賀子ドラマみたいに虐げられなきゃいけないんだ!』シッポ(狼さん付き)は涙でびしょびしょです。」
 そろそろかぼちゃの馬車が登場か。
 全員がそう思った。
 狼さんもついにお城デビューである。
 しかし。
「そのときです。おうちの庭にきらりとまぶしい光が見えました。シッポ(狼さん付き)が不思議に思って覗いてみると、根元が光る竹が一本ありました。気になって、空手チョップで竹を割ってみると、中なら何と。」
 何と、かぐや姫か!
「桃太郎が出てきたのです。竹の中から出てきたくせに桃太郎とは憎らしい。シッポ(狼さん付き)は思いました。桃太郎はシッポ(狼さん付き)を見ると、『あ、お前でいいや。お前、イヌね。』と言いました。シッポ(狼さん付き)は慌てて『あの、俺、狼っすけど!』と自己申告しましたが、桃太郎は聞く耳を持ちません。」
 なんてひどい!
 ツキタケは怒りに震えた。
「『こら、イヌ!とっととキジとサル呼んで来い!』桃太郎は横暴でした。『ああ、何で俺、こんなに不幸なんだろう。俺はただ女の子とお友達になりたかっただけなのに。』シッポ(狼さん付き)はしょんぼりと膝を抱えて座り込みました。そのときです。」
 アズミがにこっと笑ってガクを見上げた。
 ガクはゆっくりと陰気な顔で頷く。
「『狼さん!助けに来たよ!』正義の味方アズミマンが現れました。いじめっ子の子豚さんや、桃太郎をやっつけると、アズミマンは狼さんを連れて公園に行って、夕方までいっぱい遊びました。めでたしめでたし。」

 ええええ!!!

 心の叫びは全員に共通していただろう、と思う。
 だが。
 誰も言えなかった。
 絵本のオチに「納得いかない」なんて。
「続きのも読んで!」
 当然、この続きが『ぶたの怨返し』である。








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