弟戦隊ブラコンジャー!<第3話>




 土の匂いがした。
「大丈夫であろうか?」
 しゃがみ込んで将臣の手元を覗き込む帝。
「う〜ん。」
 普段ならきっぱり大丈夫だと言ってくれる将臣が口ごもる。

 福原に引っ越して数ヶ月。帝が大事に隠し持っていた宝物に気付いたのは将臣だった。
 水を入れた椀の中に、梨の種が一つ。
 そこから萌え出でた小さな小さな芽。
「それ、地面に植えてやらないと、枯れるぜ?」
 あまりにも弱々しいその姿に、将臣は戸惑った。
 たぶん、自分で食べた梨の種を大事に取っておいたのだろう。
 だが、こんな状態では移植したとしても枯れるかもしれない。
「……分かっている。でも……私は植え方を知らないのだ。」
 俯く帝。
 きっとこの子は泥んこになって遊んだことなんか、ねぇんだろうな。
 将臣はぐっと胸が締め付けられるような気持ちになる。
 こんな小さい子供なのに。
 薄い双葉がふと帝の横顔に重なった。
 譲ほどではないにしても、庭いじりくらい、一応やったことはある。得意とは言えないが、嫌いではなかった。
「俺が教えてやるさ。上手くいくか分かんねぇけどやってみようぜ?」
 将臣の声に、帝はぱっと顔を輝かせた。

 ぽふぽふと将臣の大きな手が土を撫でた。
「上手く根が付くといいんだけどな。」
「根が付くとはどういうコトだ?」
 柔らかな葉を傷付けないようにそっと大地に水を注ぐ。
「根っこがしっかり伸びたら、葉っぱも元気に育つだろ?」
「そうか。ではどうしたら根が育つのであろう?」
「う〜ん。」
 必要なのは肥料だろうか?それとも手入れ?
 観賞用の植物を育てたことはある。野菜の苗を植えたこともある。だが梨は初めてだった。
 できれば元気に育ってほしい。
 将臣は腕を組んで芽を凝視した。

 そのとき。
 きらーん!と世界は目映い光に包まれる。
「助けに来たぞ!将臣!」
「ま、待て!なんで九郎が福原に?!」
 力強い九郎の声に振り返る将臣。
 そこには豪華に花を背負った五人のヒーローが煌めいていた。
「ブラコンジャーレッド☆九郎義経!」
「ブラコンジャーイエロー☆武蔵坊弁慶!」
「ブラコンジャーブルー☆平敦盛!」
「ブラコンジャーグリーン☆有川譲!」
「ブラコンジャーシルバー☆平知盛!」
『兄の平和を守るため、時空を越えてただいま参上!』

 そう。彼らこそが、世界の兄を守るため、源平のしがらみを越えて団結した正義のヒーロー☆弟戦隊ブラコンジャーである。

「将臣くん、肥料を持ってきましたよ?」(弁慶)
「私は雑草を少し抜かせていただきました。」(敦盛)
「兄さん!『徹底解説☆梨の育て方マニュアル』を書いてきたよ!」(譲)
「もちろん俺はみんなを応援していたぞ!将臣!」(九郎)
「くくく、楽しませてくれるんだろう?兄上?」(知盛)

 瞬く間に。
 植えたばかりの梨の芽に支えが添えられ。
 きれいに土も整えられて。
 周りには囲いまで施され。

 そして。
「よし!もう大丈夫だな!じゃあまたな!将臣!」(九郎)
 ブラコンジャーは爽やかな笑顔を残し、風のように立ち去っていったのである。
「譲……相変わらずマメなヤツめ。」
「……還内府殿……今のは一体?」
「九郎も変なトコ、マメだよな。……全然役に立ってなかったけどな。」
 呆然とする将臣と帝を残して。
 穏やかな春の陽射しに若葉が揺れる。
「っていうか、知盛のヤツ、妙に楽しそうだったな。何やってんだ。あいつ?」
「敦盛殿もお元気そうで良かった。きっと経正殿がお喜びなるな。」
「おぅ。そうだな!」
 将臣はにっと笑って帝の頭を軽く撫でた。
 あいつらが言うのなら、きっともう大丈夫だろう。
 いつまで福原にいられるかは分からないけど。
 あいつらが保証するんだ。たぶん、枯れることはない。
 枯れなければ、いつか、また見に来ることもできるだろ。
 大丈夫。
 俺が死なせはしねぇさ。この小せぇ芽も。帝も。平家のみんなも。
 生きてりゃ、なんとかなるもんだ。絶対。
 そう思うと急に心が軽くなる。
「さて、尼御前に見つかって怒られる前に部屋に戻るとすっか!」
 将臣を見上げて、帝は嬉しそうに頷いた。

 かくして今日もブラコンジャーの活躍で兄の平和は守られた!
「さすがは我が部下たちよ。」
 総司令室で梨をむきながら、ブラコンジャー総司令☆平忠度は深く頷く。
 ブラコンジャーがいるかぎり、兄の平和が揺らぐ日はないだろう。
 ありがとう!僕らのヒーローブラコンジャー!
 戦え!負けるな!僕らのブラコンジャー!










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