弟戦隊ブラコンジャー!<第2話>




 鎌倉の夕暮れ。
 静かに暮れゆく東国の潮風に頼朝は目を細める。
 あの京の化け物を相手に自分たちはよく戦っている。
 隣に立つ政子の穏やかな笑顔。
 戦場では鬼神のごとき政子も、普段はおっとりとした「愛らしいお嬢さん」だ。たとえその正体が異国の神なのだとしても、自分にとっては「愛らしいお嬢さん」。それで良い。そしてもし彼女が幸せでいてくれるならば、なお良い。
「鎌倉殿?」
 何もしない静かな午後、というのも悪くない。
 潮風の香る道。馬を止めて、ただたたずむ。
 政子はいたずらっぽく頼朝の顔を覗き込んだ。
「幸せそうですわ。今日の鎌倉殿は。」
「そうか?」
 無愛想に応じれば、政子は嬉しそうに微笑む。
「ええ。とても。」
 カモメが低く飛んで鳴いた。
「でも……困りましたわ。」
 小首をかしげ、政子が呟く。
「何だ?」
「私、お腹が減ってしまいましたの。」
 普段なら政子の望む食べ物は怨霊や霊力の高い存在ばかりで。それでも望むならいくらでも与えてやりたいと頼朝は思っている。政子の功績を考えればむしろそれは当然のこと。
「何が食べたい?」
 問いかければ、政子は小首をかしげた。
「この前、白竜の神子が食べていた蜂蜜プリンが食べてみたいですわ。」
「はちみつぷりん?」
 聞き慣れぬその響きに頼朝は聞き返すと。
「ええ。でも……ムリですわね。」
 政子が哀しそうに俯く。
 こう見えても、政子は決してわがままをいうような女ではない。その彼女が願うのであれば、頼朝はその願いをぜひ叶えてやりたかった。

 そのとき。
 きらーん!と世界は目映い光に包まれる。
「ご心配には及びません!兄上!」
「……九郎か?」
 力強い九郎の声に振り返る頼朝。
 そこには豪華に花を背負った五人のヒーローが煌めいていた。
「ブラコンジャーレッド☆九郎義経!」
「ブラコンジャーイエロー☆武蔵坊弁慶!」
「ブラコンジャーブルー☆平敦盛!」
「ブラコンジャーグリーン☆有川譲!」
「ブラコンジャーシルバー☆平知盛!」
『兄の平和を守るため、時空を越えてただいま参上!』

 そう。彼らこそが、世界の兄を守るため、源平のしがらみを越えて団結した正義のヒーロー☆弟戦隊ブラコンジャーである。

「頼朝さま、蜂蜜を取ってまいりましたよ?」(弁慶)
「わ、私も頑張って手伝いました。」(敦盛)
「そして俺が料理しました!さぁ、どうぞ!召し上がってください!」(譲)
「俺は譲たちを物陰からこっそり応援しておりました!」(九郎)
「ふっ。これが有川の言っていた、良い国作ろう鎌倉幕府というヤツか。」(知盛)

 そして。
「これでもう安心ですね!ではさらばです!兄上!」(九郎)
 ブラコンジャーは爽やかな笑顔を残し、風のように立ち去っていったのである。
「……京にいたのではなかったのか?九郎は?」
「……平敦盛だけでなく、平知盛まで一緒でしたわ。」
 蜂蜜プリンを手に、呆然と立ちつくす頼朝と政子を残して。
 カモメが一羽、すっと空を横切ってゆく。
「弁慶も九郎も、一体、何をしに来たんだ?」
「まぁ美味しい……。鎌倉殿も召し上がってくださいな。このプリン。」
 頼朝の問いかけをにっこりとスルーし、政子は嬉々としてプリンを頼朝に差し出した。甘く優しい香りが風に乗って広がった。

 かくして今日もブラコンジャーの活躍で兄の平和は守られた!
「さすがは我が部下たちよ。」
 総司令室で漬け物をかじりながら、ブラコンジャー総司令☆平忠度は深く頷く。
 ブラコンジャーがいるかぎり、兄の平和が揺らぐ日はないだろう。
 ありがとう!僕らのヒーローブラコンジャー!
 戦え!負けるな!僕らのブラコンジャー!










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