弟戦隊ブラコンジャー!<第1話>




 京の都はよく晴れていた。
 いや。
 朝のうちはよく晴れていたのである。
 だが、昼をすぎたころ、唐突にわき上がった黒雲が空を覆い始める。六波羅に向かった神子一行は何度も空を見上げた。
「嫌な予感が……するな。」
 表情を曇らせる景時。
「兄上?」
 いつになく深刻な景時の声に朔が振り返る。陰陽師である景時が嫌な予感などというのなら、不安を感じないはずがない。朔は口で言うほど兄を軽く見ているわけではない。むしろ、兄のことは誰よりもよく理解しているし、その実力を正確に把握しているつもりだった。兄が陰陽師を名乗るのは伊達ではない。それはよく分かっていた。
 袖を握りしめ不安げに景時の目を覗き込む朔に、景時は一瞬驚いたような顔になり、それからいつも通りへらっと笑って見せた。
「やだな〜。朔ってば。深刻な顔しないでよ〜。」
「でも、兄上、今、嫌な予感って……!」
 見え透いた誤魔化し方をする景時に、朔は苛立ちさえ見せて食い下がる。
 世話好きな妹に心配されるのは、嬉しさ半分、申し訳なさ半分である。景時は小さく笑って。
「大丈夫。心配しなくて平気だ。お兄ちゃんにどんと任せなさい。」
 と優しく胸を張る。
「兄上……?」
 こういうときの兄はいつだってムリをして周りを安心させようとする。
 朔は知っている。小心者で道化のように振る舞う兄の強い責任感を誰よりもよく知っている。知っているからこそ、放っておけない。
「兄上、あの……。」
 食い下がろうとする朔の頭にぱふっと手を置く景時。
「お兄ちゃんを信じなさい。朔。」
「でも……!」
「洗濯物干しっぱなしなコトくらい、何でもないって!確かに雨降りそうだけど、そしたら洗い直せばいいだけでしょ〜?」
 ね?と相槌を求めるその姿に。
「……兄上……嫌な予感って……洗濯物が濡れそうってコトですか?」
 朔は脱力した。

 そのとき。
 きらーん!と世界は目映い光に包まれる。
「景時!今、助けに来たぞ!もう安心だ!」
「へ?何?九郎?」
 力強い九郎の声に振り返る景時。
 そこには豪華に花を背負った五人のヒーローが煌めいていた。
「ブラコンジャーレッド☆九郎義経!」
「ブラコンジャーイエロー☆武蔵坊弁慶!」
「ブラコンジャーブルー☆平敦盛!」
「ブラコンジャーグリーン☆有川譲!」
「ブラコンジャーシルバー☆平知盛!」
『兄の平和を守るため、時空を越えてただいま参上!』

 そう。彼らこそが、世界の兄を守るため、源平のしがらみを越えて団結した正義のヒーロー☆弟戦隊ブラコンジャーである。

「景時、洗濯物、取り込んでおきましたよ?」(弁慶)
「乾いていたものは、俺がたたんでおきました!」(譲)
「乾いていなかったものは、部屋に干しておきました。」(敦盛)
「俺はそんなみんなをしっかりと見守っていた!」(九郎)
「……獣のようにしなやかな洗濯物だった……。」(知盛)

 そして。
「これでもう安心だな!ではさらばだ!景時!」(九郎)
 ブラコンジャーは爽やかな笑顔を残し、風のように立ち去っていったのである。
「あ、あの、九郎?」
「譲殿?!」
 呆然と立ちつくす梶原兄妹を残して。
「ってか、なんで九郎たち、別行動してるの?」
「というか……平知盛殿も一緒ではありませんでしたか?今。」
 梶原兄妹はしばらくそのまま見つめ合い、首をかしげあったのであった。

 かくして今日もブラコンジャーの活躍で兄の平和は守られた!
「さすがは我が部下たちよ。」
 総司令室で煎茶をすすりながら、ブラコンジャー総司令☆平忠度は深く頷く。
 ブラコンジャーがいるかぎり、兄の平和が揺らぐ日はないだろう。
 ありがとう!僕らのヒーローブラコンジャー!
 戦え!負けるな!僕らのブラコンジャー!










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