このSSは幼稚園パラレルです。
過去話ではありません(笑)。
かくれんぼ。
ここは木の実幼稚園。元気な良い子たちの通う、とてもすてきな幼稚園です。
今日はアサリ組を覗いてみましょう。アサリ組は、年長さんから年少さんまで、全員仲良しのちょっと変わったクラス。オジイ先生にかくかく見守られて、のびのびと育っていますよ。さぁ、みんな、何しているかな?
年長さんは今、お教室でまったりしていますね。黒羽春風くん(5歳)と、佐伯虎次郎くん(5歳)、木更津亮くん(5歳)、首藤聡くん(6歳)が、お教室のちゃぶ台を囲んで、今年のアサリの傾向と対策について議論していますよ?
「やっぱ、バケツは赤に限るよな!」
「シャベルだって赤が一番だよ。くすくす。」
どうやら、今年の潮干狩り対策もばっちりみたいです。心強いですね!
そこへ。
ぱたり、と扉が開いて。
真剣な表情で、樹希彦くん(5歳)がとことこ入ってきました。どうしたのかな?
「希彦くん、どうしたの?」
虎次郎くんがにこにこと尋ねましたが、真剣な顔をした希彦くんは、黙ってみんなの囲んでいるちゃぶ台の下を覗き込み、それからおもちゃ箱を覗き込み、続いて戸棚を覗き込み。
「いないのね〜。」
つぶやきながら、しゅぽーと鼻息を吐きました。
「希彦くん?何探しているの?」
今度は聡くんが声を掛けます。しばらく周囲を見回していた希彦くんは、もう一度、しゅぽーと鼻息を吐いて。
「剣太郎、探しているのね〜。」
「剣太郎?」
葵剣太郎くん(3歳)はアサリ組の年少さん。そういえば、さっき、お庭で剣太郎くんは希彦くんと、年中組の天根ヒカルくん(4歳)と三人で遊んでいましたっけ。
「剣太郎ってば、どこか行っちゃったの?くすくす。」
今日も亮くんはなんだかとっても楽しそうです。
「そうなのね。剣太郎はかくれんぼしているのね。」
ちゃぶ台を囲む輪に加わって座り、希彦くんが説明してくれます。
「俺ね、ダビデと剣太郎と遊ぼうと思ったのね。剣太郎はかくれんぼしたかったのね。でも、ダビデは缶蹴りしたかったのね。俺は『だるまさんが転んだ』が良かったのね。」
「うん。」
虎次郎くんがにこにこと相づちを打ちます。
アサリ組の良い子たちは本当に仲良しさんですね。
「それでね、どうしても意見が合わなかったから、三つ一緒にやることにしたのね。」
と、希彦くん。
「一緒にってどうやって?」
聡くんが常識的な質問をします。
「一緒にって、一緒になのね?」
何を聞かれているのかよく分からない様子で、希彦くんがオウム返しに答えて。
「それって、難しくねぇ?」
もう一度春風くんが問いかけると。
しゅぽー!と、希彦くんは胸を張りました。
「難しくないのね!」
希彦くんの説明によると。
鬼になった希彦くんが、足下に空き缶を置いて、園庭の柿の木に額を押しつけ。
「だるまさんが転んだ!」
と数えて振り向くと、空き缶に向かって猛ダッシュしてくるヒカルくんが見えたので。
「ヒカルくん、動いたのね!ぽこぺん!」
と、ヒカルくんを捕獲したのだそうですよ。
「ちょっと待って。希彦くん!ぽこぺんも混ざってるよ?」
「混ざったのね!」
もう一度、しゅぽー!と、希彦くんは胸を張りました。
それから。
捕まえたヒカルくんを柿の木の根もと、空き缶の横に座らせて。
「だるまさんが転んだ!」
と、もう一度振り返ると、なんとびっくり!剣太郎くんがどこにもいなくなっていたのです。
そうでした。剣太郎くんはかくれんぼをしていたのでした。
そこで、希彦くんは、剣太郎くんを探すことにしたのです。
「というコトなのね〜。」
「……難しい遊びだね。希彦くん……。」
聡くんが困ったように感想を述べると、虎次郎くんはにこにこして。
「じゃあ、俺も剣太郎探すの手伝うよ。」
と宣言しました。偉いですね。虎次郎くん。お友達のお手伝いをするなんて!
嬉しそうに笑った希彦が、小首をかしげて虎次郎くんに尋ねます。
「虎次郎くんは何をするのね?」
希彦くんは「だるまさんが転んだ」、ヒカルくんは缶蹴り、剣太郎くんはかくれんぼ。じゃあ、虎次郎くんは何をするのかな?
しばらく天井を見上げて考えていた虎次郎くん。
ぽん、と膝を打って。
「俺、鬼ごっこする!春風くんたちも何かやろうよ!」
虎次郎くんに誘われて、春風くんや聡くん、亮くんも仲間に入るコトにしましたよ。本当に仲良しのアサリ組!
「だったら、俺はどろけいやろうかな。」
と言ったのは春風くん。どろけいってのは、けいどろとも言いますが、泥棒と警察の二組に分かれて遊ぶ、集団鬼ごっこですね。
「俺、影踏み。」
少し考えて決めたのは聡くん。
「くすくす。じゃあ、俺はお手玉する。」
亮くんも決めましたよ。亮くんだけ、なんかちょっと違う気がするんですけども。まぁ、いいですね!気にしない!気にしない!
さぁ!
剣太郎くんを探しに行きましょう!
アサリ組の良い子たちは、一斉に園庭に飛び出しました。
「剣太郎〜!」
「お〜い。」
みんな、やっている遊びは別々ですが、あちこちを走り回って、剣太郎くんが隠れていないか探します。
影踏みをやっている聡くんは、ひなたのスペシャリスト。
亮くんは、園庭の柿の木の下に座り込んで、一人お手玉に夢中です。
「お?ダビデ。」
空き缶の横で、柿の木に寄りかかってしょんぼりと仲間の救援を待っていたヒカルくんのところへ、春風くんが走り寄りました。
「俺、泥棒なんだけど、助けてやろうか?」
どろけいの泥棒は、捕まっている仲間にタッチすれば、助けることができるんでしたね。
「うぃ!」
なんだかよく分かりませんが、春風くんはどさくさで空き缶を蹴飛ばして、ヒカルくんにタッチ。これで、ヒカルくんは解放されました。あれ?そうすると、希彦くんの負けなのかな?でも、希彦くんは「だるまさんが転んだ」をやっているわけだから、空き缶蹴られても関係ないのかな?
ヒカルくんを解放した春風くんは、思い出したように尋ねました。
「剣太郎どこにいるか、知らねぇ?」
ヒカルくん、目をぱちくりして、ちょっとびっくりしたように。
「……?」
すぐそばの茂みを指さしました。
柿の木の根もと。
茂みの影を覗き込めば、すやすやと寝ている剣太郎くんの姿がありました。希彦くんを待っているうちに、待ちくたびれて寝ちゃったんですね。
「……こんなとこで寝てたのかよ。」
ヒカルくんと春風くん、亮くんの三人が、そろって茂みを覗いていることに気づいて、希彦くんと虎次郎くん、聡くんも駆けてきました。
「いたのね?」
希彦くんは安心したように笑って。
「じゃあ、かくれんぼは終わりなのね。」
満足げに言いました。そうですね。剣太郎くんが鬼に見つかっちゃったのですから、かくれんぼは終わりですね。
「ふぁ……希彦くん?」
あれ?剣太郎くんが起きたみたい。大あくびをして、きょとんと周りを見回していますよ?何があったか、思い出せたかな?
希彦くん、遠くに転がっている空き缶に気づいたみたい。さっき春風くんが思いっきり蹴っ飛ばしたから、ジャングルジムの方まで飛んで行っちゃいましたね。
とことこと空き缶を拾いに行った希彦くん。
「空き缶、蹴られたから、缶蹴りも終わってるのね。」
しゅぽーと鼻息を吐いて、宣言しました。
そして。
「でも、『だるまさんが転んだ』はまだ終わってないのね!」
それから。
アサリ組の良い子たちは、みんなで仲良く「だるまさんが転んだ」をやったのでした。
みんなで一緒に遊べて、良かったね。希彦くん!
ブラウザの戻るでお戻り下さい。