これは。
ほくろ戦隊ダイブツダー!」シリーズの番外に当たるSSです。
おそらくこのシリーズをお読みになってからの方が、
意味が分かりやすいかと思います。
単独でも読める、かなぁ。はい。


ダイブツダー番外 ホワイト篇  〜日溜まりの窓。



「ダイブツダー、最近偉そうだよね。ちょっと生意気かな。(にたにた)」
 唐突に言い出したのは千石だった。
「攻め込んできた神奈川や千葉の連中を、そのまま追い返して、平和を守ったような顔をしているけどさ。結局、邪悪の根を断っていないわけじゃん?(にたにた)」
 千石が正論を吐くなんて、と。
 一瞬、一同は、千石のふわふわした前髪を凝視してしまった。
 もしかしたらこの前髪の奥には前頭葉があるのかもしれない。
 観月は一人、リアルに想像して、ちょっとだけどきどきした。

 その日、ほほえみ戦隊ゴクラクダーの正義を愛する愉快な仲間達は、ほほえみを絶やさぬままに、ルドルフのテニス部部室に集まって居た。
 ゴクラクダーとは。
 青学不二、ルドルフ観月&木更津、山吹千石、氷帝芥川の五名。
 居心地の良い空気の中、もちろん、芥川はすでに熟睡している。

「確かに千石の言うとおりだね。ダイブツダーの横暴は目に余るよ。(にこ)」
「くすくす。不二もそう思う?やっぱりそろそろ、彼らのことも、成仏させてあ・げ・るべきなんじゃないかな。」
「んふ。その通りですよ。木更津。ダイブツダーを成仏させてあげましょう。」
「zzzz……。(天使の笑顔)」

 不穏な相談はまとまりかけた。
 だがそのとき。
 何かを思いついたように、不二はふと開眼し、低く呟く。

「確か、ダイブツダーには中二の子達も居たね?(開眼)」
「居ましたね。ダイブツダーブラックの相方橘さん、ダイブツダーホワイトの石田くん、その相方桜井くん、それからダイブツダーシルバーの樺地くん。この四人は二年生ですよ。んふ。」
「……そう。(開眼)」

 少し長いまつげを震わせて、不二はしばらく何かを思案していたが。

「橘さんと樺地くんは仕方ないよね。相方が中三だもの。でも、石田くんと桜井くん、中二同士のコンビは……もしかしたら単に、周りに巻き込まれた被害者なのかも知れないよ。彼らを……ゴクラクダーに勧誘してあげたら、もしかしたら……。(少し開眼)」
「くすくす。不二はやっぱり中二に甘いね。裕太のこと、思い出すのかな?」
「うん。そうだね。腹黒い凶悪な中三にいびられて不幸な目を見た、可哀想な弟のことを思い出すんだよ……。(開眼)」
「んふ。そうですね。裕太くんは腹黒い凶悪な中三にいじめられて、あまりの辛さに泣きながらボクのところに来たんでしたね。(紫)」

 世界は毒々しい気に満ちていた。
 これはもう、世界を浄化しないと、人類の幸せはありえない、と誰もが確信するに違いないくらい、禍々しい気配だった。
 千石は。
 こんな中でも幸せそうに寝ていられる芥川は偉いなぁ、と心から尊敬し。
 敬意を表するために、鼻をつまんでみたが、全く目を覚ます気配がない。
 こうなったら、おでこに落書きしないと礼儀にもとると思い立って、油性ペンをペンケースから出したところで。
 木更津に止められた。

「くすくす。千石ってば。そんな面白いこと、一人でやらないでよ。」
「木更津くんも一緒にどう?(にたにた)」

 それから木更津と千石は、一生懸命、芥川の額になんと書くべきかを考えた。
 ああでもない。こうでもない。と大いに議論を尽くした。
 芥川ののどかないびきを聞きながら。
 しかし。

「ねぇ、観月?もしかして、裕太をいじめたその腹黒い凶悪な中三って芥川くんのコトかな?(にこ)」
「んふ。今日のところはそういうコトにしておいてあげても良いですよ。」
「なら、そういうことにして。とにかくね。(にこ)」
「ええ。とにかく。んふ。」
「石田くんと桜井くん。(にこ)」
「彼ら二人を救いましょう。今ならまだ、間に合うかも知れません。んふ。」

 渦中の二人が和解した声がして。
 ほほえみ戦士達は、自らの使命に立ち返ることとなる。
 個人的ないざこざは仕事に持ち込まない。
 観月と不二はビジネスライクな正義の味方であった。

「俺たち、悉有仏性☆悪人正機のほほえみ戦隊ゴクラクダー、だもんね。(にたにた)」
「そうだね。俺たちが東京を守らなきゃ、東京は憎しみの海に沈んでしまうよ。くすくす。」

 そこで彼らは、出かけることにした。
 狙いは、そう。
 不動峰の二年生コンビ、石田と桜井。

「行くよ?芥川くん。(にたにた)」
「ふぁぁ。よく寝た〜。あれ?待って!待って〜。みんな、どこ行くの〜?」

 ルドルフの部室から、ぞろぞろと出かけてゆくゴクラクダー。
 ゴクラクダーの会議中、ずっと肩身が狭い様子で座っていたルドルフテニス部員たちは、慌ててゴクラクダーに声を掛ける。

「お、おい?観月?今日は、練習は……?」
「ああ。赤澤。居たんですか。んふ。練習の予定表は渡しましたよね。あとは任せましたよ。ちゃんとボクの計画通り、練習してくださいね。」
「へ?」

「あ、淳……!観月の計画表通りだと、俺と淳はダブルス練習だ〜ね!」
「くすくす。ごめんね。柳沢。俺、今日は忙しいんだ。」
「で、でも!予定通りやらないと、観月が怖いだ〜ね。」
「くすくす。今日は勘弁してね。その代わり、明日は、今日の分まで、成仏させてあ・げ・る。」
「じょ、成仏なんかさせてくれなくて良いだ〜ね!!」

 追いすがる友を捨てて。
 ゴクラクダーは戦場を目指す。
 ただひたすらに、東京の平和を守るため。
 今日も非情の道を行く。



「良い天気だな〜。」
「ホントにな。」
 そのころ。
 不動峰の昇降口で、石田と桜井はくつろいでいた。
 大きなガラス張りの窓に、温かい日差しが降り注ぐ。
 土曜のお昼前。朝練だけの部活は終わって。
 帰宅すればいいのだが、なんだかぼんやりと石段に座り込んでしまった静かなひととき。
 何もしない贅沢な時間が流れてゆく。
 遠くで、内村の奇声と神尾の悲鳴が聞こえるのを気にしなければ、世界は平和であった。

「そうだ、桜井。英語の教科書、暗記した?」
「あ。まだだ。してないや。」
 普通の日々こそが、何よりも貴い。
 そのありがたみを、戦場に生きる彼らは誰よりもよく知っている。

 そこへ。
 日差しを遮る人影が五つ。

「「……ご、ゴクラクダー!!」」
「んふ。ごきげんよう。」
「た、橘さんに連絡だっ!桜井っ!俺が足止めするから、今のうちに部室に……!」
 弾けたように立ち上がり、ゴクラクダーの前に立ちふさがろうとする石田と、石田の言葉と同時に駆けだしていた桜井を、軽く手で制し、不二が微笑んだ。

「待って。桜井くん。石田くん。ボクたちは今日は、ダイブツダーと戦いに来たわけじゃない。君たちと個人的におしゃべりがしたかっただけなんだよ。(にこ)」
 まるで善人のような優しそうなそのほほえみに。
 石田はすっかり毒気を抜かれ。
 おいおい、そんなに簡単に気を許すなよ。
 と、心で突っ込みを入れながら、桜井もゆっくりとゴクラクダーに向き直った。
 
「お話って、何です?」
「くすくす。桜井くん、怖い顔。大丈夫だよ。いじめたりしないから。」
 木更津は楽しげに笑いながら、傘立てにふわりと腰を下ろす。

「君たちは……ダイブツダーの仕事に満足してる?(にこ)」
「……満足……?」
 不二の言葉に、石田は戸惑ったように桜井を振り返る。
「それ、どういう意味ですか?」
 やはり戸惑いながら、桜井は不二に問い返した。

「ダイブツダーってさ、みんな、すごく苦労している感じだよね。もっともっと、自分たちが幸せにならなきゃ、世界の幸せなんか守れるわけないのに。(にこ)」
「え?」
「微笑む余裕もないような正義の味方に、東京は任せられないと思うんだ。自分を幸せにできない人が、他人を幸せになんかできないでしょ?(にこ)」
「……。」

 ふと。
 不安が彼らの心を過ぎってゆく。
 もしかしたら、ゴクラクダーは本気で東京の未来を守ろうとしているのだろうか。
 もしかしたら、ダイブツダーの目指した正義は、どこかで道を誤ってしまったのだろうか。

 そんなはずはない!
 二人はその邪念を振り払うように、強く首を横に振った。

「ダイブツダーは間違っていない!」(桜井)
「橘さんが俺たちを導いてくれる!俺たちは橘さんを信じる!」(石田)

 ガラス窓をきらきらと、初夏の日差しが照らし出す。
 温室のように、温かい空気が満ちて。

「そんなに橘くんのこと、信じてるんだ?くすくす。」
 穏やかな木更津の口調に、二人の少年は同時に深く頷いた。

「でも、考えてごらんなさい。ゴクラクダーだってすごいメンバーが集まって居るんですよ。んふ。」
 観月がぐるりとメンバーを見回す。
 大きなガラス窓に寄りかかって、芥川はまた眠ってしまっている。

「天才★不二周助、策士★観月はじめ、貴公子★木更津淳、神に愛された手首★芥川慈郎、そして俺、ラッキー★千石清純ね。すごいメンバーだと思わない?(にたにた)」
 言われてみれば、確かにすごい肩書きのメンバーが集まっている。
 石田と桜井は、一人一人の名前の大きさに、少し息を呑む。

「それに引き替え。ダイブツダーで言えば、大石と英二が、ゴールデンコンビなのが関の山でしょ。跡部と樺地くんは友達なんだか何なんだか分からないし、南と東方なんか、地味’sだし。ゴクラクダーの方がずっとすごいよ?(少し開眼)」
確かに、ダイブツダーは、ゴクラクダーほどすごい人は少ないかも知れない。ダブルスメンバーが多い分、ピンでは地味な人ばかりだし。
 テニスの腕で言えば、跡部さんは不二さんより強いらしいけど。
 どうも、正義のために戦う戦士としては、不二さんの方が強そうな気がする。少なくとも役に立ちそうな予感だ。
 桜井は、自分の冷静な思考力を呪った。
 なんだか、だんだん、ゴクラクダーの方が良い気がしてくる。

 しかし。
「橘さんは……橘さんは九州二強だぞ!!」
 石田が低く唸った。
 桜井ははっとして石田の精悍な横顔に見入る。
 なんてコトだ。
 一番大切な人を忘れるところだった。
 俺たちには橘さんが居るじゃないか。ダイブツダーには橘さんが居る!

「くすくす。そうなんだよ。そこが問題。」
 いつの間にか、傘立てから立ち上がっていた木更津が、軽く口元を押さえるようにほほえみながら、小首を傾げる。
 ガラス張りの昇降口に、反射して響く静かな言葉。
「九州二強なんだよ。彼はいまだにね。東京を守るとか言ってるのにさ。彼の肩書きは九州二強なんだ。彼の魂はまだ、九州と共にあるってコトだろ?くすくす。」

 ふと。
 今年最初のセミの声を、桜井は聞いたと思った。
 だが、それも一瞬で途絶え。

 今、何と言った?
 木更津さんは、さっき、何と言ったんだ?

「橘はさ、結局、東京のためとか言いながら、もしかしたら東京を九州に併合しようとしているのかもしれないよ。ってか、たぶん、そうじゃないかな。(にたにた)」
「んふ。要するに橘兄妹は、二人揃って、君たちの力を使って、東京侵略をするつもりなんですよ。実はね。」
「だからボクたちは君らを迎えに来たんだ。石田くん、桜井くん。今ならまだ、間に合うから。本当に東京のためを思うなら、ゴクラクダーにおいで。(開眼)」

 芥川が幸せそうに寝返りをうった。
 桜井と石田は、静かに静かに、唇を噛む。
 橘さんに導かれて、彼の進む道をただひたすらに信じて。
 今まで歩いてきた。
 その温かい手が指し示す未来を、疑うことなどなかった。
 今日までは。決して。

「居心地が良いからと言って、いつまでも温室に入っていちゃダメだよ?ボクたちは二人のためを思って居るんだ。その温室の中に居ちゃ、橘の思うツボ。東京を守るつもりで、裏切ってしまうから。おいで。ボクたちと一緒に戦おう?(開眼)」

 東京を九州に併合する……。
 桜井の頭の中では。
 日本地図がぐるぐる回っていた。

 ……九州と東京。
 どうやって併合するんだよ。遠すぎだろ……。
 ってか、飛び地かよ。
 ああ。でも沖縄も離れてるしな。可能かな。

 どこから突っ込んで良いのか、分からないまま。
 桜井はまっすぐに見据えてくる不二の眼差しから目をそらした。

「桜井……。」
 誰よりも信頼している相方、石田に名を呼ばれて。
 振り向けば、彼の拳は静かに震えている。
「石田……。」
 お前……。
 中一のとき、地理の試験で。
 九州と四国、どっちがどっちか混乱してただろ……。

 セミの声はもう聞こえない。
 昇降口を満たす寂寞たる荒涼。
 石田の低い声が、コンクリートの床を撃つ。

「俺は……。俺は……!」
「ん?何?石田くん。(にこ)」
「……橘さんがそうするって言うなら、東京が九州に合併されても構わない。っていうか、俺、東京のために戦いたいんじゃない。橘さんのために戦いたいんだ。」
「……ふぅん?(開眼)」
「俺は……俺は……別に、東京なんか、ホントはどうでも良いんだ。」
「…………そう。(開眼)」

 桜井は思いだしていた。
 結局、中一の試験で、石田が四国と九州を逆に答えていたことを。
 そして、中二になって。
 もう間違えない!と橘さんに固く誓っていたことを。
 だけど、まだ、東京二十三区は全然、覚えていないことを。

 こいつ。
 実は全然、東京に愛着ないんじゃ……??

 窓の向こう、日差しはどこまでも穏やかで。
 空の青を映して、窓ガラスはきらきらと輝いている。

「ふぅん。じゃあ、自分で分かっていて、ダイブツダーの道を行くんだね。(にこ)」
 少し諦めたように不二が呟いた。
「仕方ないや。くすくす。諦めるしかないね。不二。」
「んふ。今度会うときは戦場ですよ。お二人さん。」
「そのときは、手加減してあげないからね。(にたにた)」

 ゴクラクダーたちは。
 静かに哀しげなほほえみを浮かべて。
 ゆっくりと踵を返す。

「……今日のところはこれで帰ってあげるよ。(にこ)」
「また、会おうね。くすくす。」

 強い眼差しで彼らを睨み付ける石田の、凛とした横顔。
 桜井は。
 ま、良いか。こいつと一緒に東京を守るのも。
 と。
 心の中で微笑んだ。信じてるよ、相方。

 だが、そのとき。
「……ちょっと待ってください……!」
「ん?なんですか?石田くん。」

 迷うように呼び止めた石田に。
 帰りかけたゴクラクダーが振り返る。
 桜井もまた、戸惑うように石田を見やるが。

 石田は、静かに手を伸ばし。

「……芥川さん、忘れてますよ。」
 親切に助言した。
 芥川の存在をすっかり忘れていたゴクラクダー達は、ああ!と慌てて彼を回収する。

「芥川くん?帰るよ〜?(にたにた)」
「まだ寝かせて〜。ここ、温かくて気持ちいいの〜。」
「ダメ!帰るの!(にたにた)」

 東京の平和は。
 きっと、ダイブツダーが守る。
 たとえ、九州に併合されようとも!!



<次回予告>
「ふぁ。千石〜。次回予告だって〜。」
「ラッキー!俺たちが予告して良いの?楽しそうだね♪」
「ん〜。でも、俺、眠ぃから、寝る。おやすみ……zzz。」
「あ、あ、芥川くん??」
「zzz……。」
「俺一人で予告するの……??」

「zzz……。」
「えっと。次回の敵は……立海?違う?」
「zzz……。」
「う〜んと。えっと。とにかく、次回!お楽しみに!」
「zzz……。」





石田&桜井、キャラがよく分かりません。
いろいろ違ってたらごめんなさい。
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