これは。
ほくろ戦隊ダイブツダー!」シリーズの番外に当たるSSです。
おそらくこのシリーズをお読みになってからの方が、
意味が分かりやすいかと思います。
単独でも読める、かなぁ。はい。


ダイブツダー番外 グリーン篇  〜日溜まりの風。




 六角中の中庭を、潮の香りが穏やかに流れてゆく。
 海風を聞きながら。
 額にかかった髪を軽く掻き上げて、天根は静かに目を開いた。
 昼休み。
 中庭には、いつもの仲間が集まっている。

「そんなわけで。ダイブツダーの弱点は突っ込みだ、というコトだな。ダビデ。」
「うい。突っ込みと駄洒落が足りない。」
 そう。邪の千葉を支える、新進気鋭の戦士達は、今日もいつ終わるとしれぬ作戦会議に勤しんでいた。

「いや、駄洒落はどうでもいいんだけどさ。突っ込みが足りないわけね。」
「……駄洒落はどうでもいい……(がーん)。」
 さりげない佐伯の一言にこっそりと天根は傷ついてみたのだが。
 そんなことにはお構いなしに、会議は進む。

「ダイブツダーの突っ込み要員といえば、南と東方が居るだけだ。要するにあいつらを潰せば、漫才集団ダイブツダーは恐れるに足りない!!」
「そうだね。バネ。まずは南と東方を潰そう。」
「集中攻撃だね!面白い!」
「でもどうやって潰すのね?」

 端っこでしょんぼりしている天根を放置して、作戦は着実に練り上げられてゆく。

「ダビデを派遣して、あいつら二人に、真のボケ倒しキャラの恐ろしさを味あわせてやろう。突っ込みキャラとしての自信を喪失するほどに徹底的に、な。」
「冴えてるね。バネ。確かにダビデのつまらなすぎるギャグに、きちんと突っ込みを入れられるのは、世界中探してもバネくらいなモノだもの。」
「南も東方も、きっと自信を喪失するね!面白い!!」
「……つまらなすぎるギャグ……(どよーん)。」
「……あれ??ダビデが凹んでるのね?どうしたのね?ダビデ。」

 隅っこでしゃがみ込んで、地面に「の」の字を書き始めた天根に気付き、樹は声を掛ける。

「俺のギャグ……つまらなくない……。」

 天根の必死の主張に。
 間髪入れず。
「つまらねぇよ!!」
 と、黒羽の回し蹴り突っ込みが炸裂し。
「あはははは!!つまらなくない天根のギャグ!!ありえない!!あはは!!面白いよ!!天根!その冗談、ありえなくてすごい面白い!!!」
 葵は、弾けたように笑い出した。

「…………もう、良いよ…………(しょんぼり)。」

 天根がすっかり拗ねてしまったころ。
 がさごそと大きな音がして、どこからともなく樹がおんぼろ自転車を運び出してきた。
 片輪がないその自転車は、鮮やかに黄色と黒の縞模様に塗られていて。

「今日のために改造したのね。地味’s探知装置搭載の邪の飛行物体、邪虎丸2号なのね。」
「すごいね。樹ちゃん!これ、この前、ゴミ拾いしたとき拾った自転車だね!」
「飛行物体なら、車輪が無くても問題なしだ!さすがだよ!樹ちゃんは!」
「サエもバネも、褒めすぎなのね。」

 樹の説明に拠れば。
 背も高く、白いガクランを着て、強豪校テニス部の部長だのレギュラーだのを張っている彼らが、地味と呼ばれるのは、実は彼らが地味だからではなく、「地味波」という特殊な波長を発しているからなのだという。で、その「地味波」を検知できる装置を研究し、ついに開発したのが、この邪虎丸2号なのだそうだ。
 ちなみに自転車で空を飛ぶというと、某アメリカ映画を思い出す方も多いだろうが、邪虎丸2号は後輪がない上に、前籠もなくて、しかも黄色と黒の縞模様である。宇宙人を乗せるにはちょっと申し訳ない。
 だが。
 六角の邪な戦士達には、邪虎丸2号は極めて好評で。

「すごいね!樹ちゃん!」
「……素敵。」
 ハンドルに張ってある「ゆっくり走ろう、暴走半島」というロゴステッカーが、昼休みの風の中、柔らかく輝いて見えた。
 さっきまで凹んでいた天根でさえも、すっかり元気になって。
 もう、出撃する気満々である。

 さて。
「そんなわけで!行ってこい!ダビデ!」
「お前のギャグで、ダイブツダーを破滅に追い込んで来い!」
「うい!」


「やっぱりそうだ。東方。見ろ。ここももうやられている。」
「……油断できないな。本当に恐ろしいやつらだよ。」

 放課後。
 南と東方は、橘の指示で、都内の見回りをしていた。
 最近、日本全国を侵略しつつある悪の組織を調査するためである。

「悪の組織というか。とにかく正体が掴めないのが怖いな。」
「全くな。こう、姿が見えないんじゃ手の打ちようがない。」

 ビルの谷間に、静かな日差しが降り注ぐ。
 柔らかな風。
 駐車場のアスファルトに、二人の影はすでに長く伸びていて。

 そこへ。
 滑るように入り込む、影がもう一つ。
「……すごい。本当に地味’s、見つけた……!」
 感動したような口調で、天根が呟くと同時に。
「「地味’sって言うな!!!」」
 完璧なタイミングの同時裏拳突っ込みが炸裂した。

「あれ?……痛くなかった……。」
「当たり前だろ!裏拳突っ込みで、本気で叩くわけないだろ!」
「痛いわけ、あるかよ!!」
 物足りなそうにきょとんとする天根に、しっかり突っ込む南と東方。
 しかし。
 ふと、気が付いて。

「……ってか。お前、邪の千葉の天根だよな。どうしてここに?」
 ようやく、一番突っ込まなきゃいけない点に考え及ぶ。
「そうだった。あのね。」
「ああ?」
「えっと。……ここで会ったが百年目……!……って、百年目なの?」
「俺たちに聞くなよ!!」
「百年目って何だろ?なんで百年目なんだろ……。」
「こら!!挑発しておいて、一人で悩むなっ!!」

 じりじりと、地味な攻防が続く。
 天根がボケ、南と東方が突っ込み。
 東京の平和と、千葉の野望がせめぎ合う夕方の日溜まりを。
 緩やかに風が吹き抜けてゆく。

 しかし。
 南と東方は思い出した。
 東京を、いや、今や日本全土を脅かしている大いなる危機の存在を。

「天根。今は千葉と東京で争っている場合じゃない。」
「そうだ。日本全土を侵略しようとしている謎の一族に立ち向かうために、俺たちは手を結ばなくてはいけない。」
「……日本全土を侵略……?」
「ああ。知っているか?ゲッキョク一族の陰謀を。」
「……ゲッキョク一族の陰謀……?!」

 真剣な面もちで言葉を選ぶ南と東方に。
 天根も、すっと、冷静な表情になる。

「……知らない。そんなの。」
「しかし、千葉にもやつらの魔の手は及んでいるはずだ。」
「ああ。日本全国、どこにでもやつらは入り込んでいる。」

 そうだとしたら。
 確かに、千葉と東京で争っている場合ではないのかもしれない。
 愛する千葉を守るために。
 一度、東京と手を結ぶべきなのだろうか。

 傾いてゆく西日が降り注いで。
 天根の彫りの深い横顔を照らす。
 彼を見据える南の瞳の深い黒に、天根は一瞬、瞑目した。

「それなら、俺……先輩に相談してみる。」
「ああ。そうしてくれ。」

 風が吹き抜けてゆく。
 静かに、南は空の向こうを指さして。

「見ろ、天根。あれがやつらの領地の証だ。」
「こうやって、やつらは日本中を駐車場にするつもりなんだ。」

 そう。
 空を遮るように、立ちはだかる看板には。

「月極駐車場」
 と。

「……ゲッキョク一族……?!」
「ああ。見覚えがあるだろう。千葉でも。」
「…………駐車場…………。」

 凛とした南の横顔。
 東京の平和を守り抜く、強い意志を秘めて。
 のほほんとした東方の横顔。
 東京の未来を信じる、優しい魂を抱いて。

 空の向こうに。
 夕陽は沈んでいく。

「……俺、今日は帰る……。」
「ああ。六角のやつらに伝えてくれ。やつらの陰謀は阻止しなくてはならない、と。」
「日本中を駐車場にされてはたまらないからな。頼んだぞ!天根!」
「…………う、うい。」

 邪虎丸2号は帰っていった。
 天根の寂しげな後ろ姿を、南と東方は温かく見守る。
 どうしても、守らなくてはいけない愛すべき故郷があるのなら。
 その気持ちは、千葉も東京も変わりはないはず。


「……ただいま……。」
「お帰り!って、おい、どうした?ダビデ?そんなしょんぼりして!」
「……東京は手強いよ。バネさん……。」
「あん?」

 日がすっかり沈んだころ、天根はようやく六角に到着する。
 それでも、テニスコートの夜間照明の下で天根の帰りを待っていた面々は、哀しげな目をした天根にびっくりして。

「……駐車場がね、ゲッキョク一族の陰謀だって言うの……。」
「……は?」
「俺がボケてるのに……俺よりも……俺よりも、地味’sの方がひどいボケなんだ……。突っ込みの風上にも置けないんだ。」
「……は?突っ込みの風上に置けないようなボケ??」
「……だからね……あの看板ね。」

 天根は、テニスコートの向こうに小さく見える、「月極駐車場」の看板を指さし。

「……ゲッキョク一族の領土の証なんだって……。」
「つ・き・ぎ・め・駐車場、だろうが!!!!」

 ばこ〜〜ん!!!!

 黒羽の跳び蹴りが鮮やかに決まった。
「お、俺のボケじゃないのに……。……痛かった……。」
 しゃがみ込みながら。
 天根はしみじみと思った。
「……俺、やっぱり六角で良かった……。」
「あん?」

 天根は立ち上がって。
 ひしっと。
 黒羽に抱き付いて。
「……バネさんは、絶対、俺よりボケないでね……。」
「き、気色悪いこと、するんじゃねぇ!!!!」

 ばし〜〜〜ん!!!!!

 しがみつかれて、足を使えなかった黒羽の、強烈な裏拳が炸裂する。
「い、痛い……。やっぱりバネさんの突っ込みは裏拳でも痛い……。」
 痛がりながらもなぜか幸せそうな天根に、黒羽は眉をひそめ。
 佐伯と樹、葵はにこにこと、優しく微笑みながらその様子を見守っていた。



<次回予告>

「樹ちゃん、次回予告も黄色と黒の邪カラーに染めようか。」
「うん。染めてみるのね。うわ。趣味が悪いのね。」
「でも、千葉色に染まった次回予告ってのも良いんじゃない?」
「そうね。サエが良いなら、それで良いのね。」

「今回は東京の突っ込み役のボケに、ダビデが負けたけど。」
「冷静に考えてみると、作戦が悪かったのね。」
「どう考えても、バネの作戦が悪いね。というか、バネ、ボケっぽくない?」
「……バネがボケで、ダビデが突っ込みの方が正しいのね?」

「それはそうと。次回予告をしなくちゃね。」
「くすくす。」
「あ!亮!今まで、どこに居たのね?」
「くすくす。次回はうちの淳が頑張るらしいよ。」
「ってことは。ゴクラクダーvsダイブツダーの東京内輪揉めかな?」
「それは漁夫の利を狙えてありがたいのね。」





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