伝言ゲーム〜六角篇。




「天根が落ち込んでたよ。数学ができないって。」
 唐突に葵が言い出したのは、部活が終わって間もない時間帯。
「ダビデが?あいつ、理系、得意だっただろ?」
「うん。そうなんだ。サエさん。俺もそう思ってたんだけど。なんか、もう終わってるとかなんとか言って、めちゃくちゃ凹んでたよ。」

 葵の言にしばらく付き合っていた佐伯は、隣でペットボトルをくわえている黒羽を振り向いて。
「……落ち込んでるんだってさ。」
 と。
 話を振った。
「なんで俺に振るんだよ。そんなん。」
「いや、葵が心配してるから。」
「サエさんがなんとかしてやれよ。」
「やだよ。ダビデはバネさんの担当だろ。」

 にっこり笑う佐伯は。
 黒羽が本当は落ち込んでいる天根を心配していることをよく分かっている。ただ、まっすぐ駆けつけてやれるほど素直ではないし、この二人がそんなに素直だったら薄気味が悪いとは佐伯もよく知っているので。
 あえて葵の伝言を黒羽に伝えてやるのである。
 これは佐伯流の親切。
 たぶん。

「しょうがねぇな〜。いっちょ、バネさんの数学講座、開いてやっか。」
 頭をぼりぼりと掻きながら、ぶっきらぼうに呟くその姿は、どう見てもうきうきと嬉しそうで。

 部室の前で、他の二年生と戯れている天根を後ろから襲撃する。

「ダビデ〜〜っ!!」
「うわっ!!バネさん!タンマ!!ぼける前に突っ込むの、なし!!」

 じゃれ合いを眺めつつ。
 葵はにっこりと微笑んだ。
「嬉しそうだね。二人とも。」
「ホントにね。」

「数学、分からないんだって?」
「……ああ。嫌いだ。あんなの。」
「どこ、分かんないんだよ。」
「方程式ってやつ……。」
 しかし、二人はそれなりに神妙に。
 数学について話を始めた。

「方程式か。どのへん、今、やってるんだよ。」
「……xが二乗だったりするやつ。」
「あれか。お前、二乗は大丈夫なのか?」
「……xは良いんだ。二乗も良いんだ……。」
「じゃあ、xの二乗って、何も難しいこと、ないだろ?」

 天根は。
 その切れ長の瞳に、うっすらと涙さえ浮かべて。
 しばらく、言葉に迷い。
 なんども、口を開きかけ。
 言いよどんだ後。
 意を決したように、こう、訴えた。

「xの二乗って……どう考えても、面白いネタが浮かばない……。俺、終わってるんだ……。」

「凹む理由は、そこか〜〜〜っっっ!!!」
ぱこ〜〜んっ!!!



 佐伯はにっこり笑って、鞄を背負った。
「さ、オチもついたし。帰ろうか。葵。」
「うん。そうだね。サエさん、分かってたの?このオチ。」
「はは。どうかな?」




六角ってこんなん?
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