省エネ計画〜山吹篇。
「今年のテニス部の目標は……。」
お正月が明けて、初めてのミーティング。
去年の夏に部長を引き継いだ南は、だんだん、上に立つ者の貫禄を身につけてきて、良い感じだった。やっぱり伴爺の眼は間違っていない。南、予想以上に、部長っぽい。
部員たちも大人しく、南の訓辞に耳を傾けている。
なになに?今年の目標?そりゃあ、全国でしょ?
「えっと、今年のテニス部の目標は。……省エネだ。」
「はぁ??」
俺、千石清純は。
南の大まじめな目標に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
いや、俺だけじゃないでしょ?今の南の台詞に、頭抱えたのって。
しかし。
恐ろしいことに、南はいつだって真剣だ。大まじめだ。
白の模造紙に、黒いサインペンで大書きした「省エネ」っていう標語を、部室の壁に一生懸命貼っている。あ。斜めだよ。それ。と、思ったら、東方が立ち上がって、模造紙をまっすぐに直した。うん。それでオッケー。
じゃなくて!
冷静でシャープでクレバーな俺でさえ、ついうっかり、南のペースに巻き込まれちゃったりするわけだから。
抜け目がないようで、実はほわほわしている東方なんか、すっかり南に呑まれてる。あいつ、省エネする気、満々だよ。
でも、省エネって、何だよ?何すれば良いんだよ?
「目標達成のために、室町くんに素敵なモノを作ってもらった。エネルギーの無駄遣いをした人は、罰として、これで発電してもらうことにする!」
と。
自慢げに部室の扉を振り返る南。
そこには、ちょっと奇妙な自転車と、相変わらず表情を読ませない室町くんの姿が。
自転車のハンドルには、電球が三つ、並んで付いていて。
「全力でペダルを漕ぐと、この電球が光るようになっている!」
のだそうだ。嬉しそうだな。南。
「室町くんが研究に研究を重ねて作った、発電自転車だぞ。」
そうか。そうか。
……でもさ。
これって、全然、省エネと関係ないじゃん……。
発電したって、その場で、電球光って、終わりじゃん……。
まぁ、そんなわけで。
いろいろ今学期の練習とかの話も終わって、ミーティングは無事に終了。
みんな、三々五々、帰ったりしゃべったり。
俺はもちろん、南のとこに行って、室町くんの特製自転車に触らせてもらう。
うわぁ。これで、電球が光るんだ?!
なんか、南が自慢げなの、分かった気がする!!
光らせてみたい!!だって、自転車のハンドルで、意味もなく、電球が三つ、光るんだぜ?しかも、電球、みんな、上向き!漕ぐ人、眩しいっての!!
俺は。
辺りを見回した。
お。ラッキー。新渡米と喜多が居る♪
「ねぇ、南?新渡米の葉っぱって、エネルギーのムダだと思わない?」
俺の台詞に、南は少し首を傾げて、返事を考えている様子だったが。
はっとしたように、新渡米と喜多が振り返り。
「千石!失礼なことを言うな!」
「新渡米の葉っぱはな!光合成をしているんだぞ!」
「世界に酸素を供給しているのだ!」
「エコロジーなのだ!」
「ちなみに喜多の渦巻きは風力発電装置なのだ!」
「風が強い日はこれがクルクル回るのだ!」
「風が吹けばご飯が少なくても大丈夫な、省エネ設計だぞ!」
「エコロジーだぞ!」
千石清純、敗北。
山吹の無敵ダブルスをなめちゃいけません。
新渡米に自転車漕がそうなんて、難しいことを企んだのがいけなかったのです。
はい。分かってます。
ってことで、ターゲット、チェンジ☆
「ねぇ、南。東方のオールバックってエネルギーのムダだと思わない?」
南の隣りで、新渡米と喜多の会話に混乱していた東方は、急に自分に水を向けられて、ぎょっとしたように俺の顔を見る。
しかし、まぁ、この男は、抜け目がないようで、ほわほわしているようで、実は世渡り上手だったりして。
「俺の髪型は、空気抵抗を少なくする合理的な髪型なんだ。」
なんて。
簡単に南を丸め込んでしまう。
う〜ん。
でも、自転車で発電しているとこ、見たい!見たい!見たい!
室町くん……は。
東方以上に、抜け目がないし、何考えているか分からないしなぁ。
そうか。
こうなったら、言い出しっぺの南に漕いでもらおう!
俺って頭良い!!すげぇ、頭良いじゃん!
「ねぇ、南。南ってさぁ。」
……南って……。
地味だし。目立たないし。ムダなコトとかあんまりしないし。穏やかだし。葉っぱも渦巻きもないし……。
なんかもう。
生まれつき、省エネ設計だよなぁ……。
俺は、頭の回転が速くて、しかも判断力に優れているので。
南に自転車を漕がせることは、あっという間に諦めました。
じゃあ、テニス部で、他にいるかなぁ。誰だろう。一番、エネルギーをムダにしているっぽいやつって。
どうしても、自転車、光ってるトコ、見たいし。
う〜〜ん。
閃け!俺の頭!!
その瞬間。
俺は、「閃きの光」というフレーズが比喩じゃないと思うほどに、ぴか〜んっ!と閃いた。
完璧!
俺って完璧!
頭良い!!ってか、こんな頭良くて、ホント、俺ってラッキー!!
「南!南!あのさ!!」
「なんだ、千石。さっきから、飛んだり跳ねたり、落ち込んだり喜んだり、落ち着かないやつだな。」
「うん!そうなんだよ!俺、すげぇ、エネルギーのムダしてるよね?」
「ん?ああ、そうだな。」
「だからさ、俺、自転車漕ぐ!!」
そうだよ!俺が漕げば良いんじゃん!!
そんなわけで。
俺。
息が切れるほど、全力ペダル漕ぎ〜〜!!
電球がムダに光ってます。意味がなくて良い感じ!最高に良い感じ!
そして。
そんな俺を取り囲んで、みんな、手を叩いて喜んでいました。
なんだ、みんな、実は見たかったんじゃんか♪
あとから聞いた話だと、新渡米はその光でこっそり、光合成をしていたらしいけど。
翌日。
部室の模造紙は「全国大会へ!」と、新しい標語に書き換えられていた。
ちぇっ。つまんないの。
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