このSSは幼稚園パラレルです。
過去話ではありません(笑)。
禁断の技。
ここは、木の実幼稚園。
都内の良い子達が通っています。
さぁ、今日は年長のスミレ組さんの様子をのぞいてみましょう!
スミレ組さんたちは、今、お遊びの時間。
大石秀一郎くん(6歳)、乾貞治くん(6歳)、不二周助くん(5歳)、河村隆くん(5歳)の四人は、積み木遊びをしています。
そのすぐ隣り。
二段積みのおもちゃ箱の上には、手塚国光くん(5歳)がちょこんと座って、お気に入りのおもちゃの釣り竿で釣りごっこに精を出していました。
おもちゃ箱の上に乗るのは危ないので、スミレ先生に何度も注意されたのですが。
「俺はN日目にはおもちゃ箱から落ちない、と仮定する。まず初めておもちゃ箱に登った日は、N=1だが、俺は落ちなかった。翌日、すなわち、N=2の日にも落ちなかった。N=0の日は登っていないから落ちるわけがない。であるから、Nは数学的帰納法により、あらゆる数において成り立つ。よって、俺は永遠におもちゃ箱から落ちることはない。」
スミレ先生は、幼稚園の先生にならなければ、中学校の数学の先生になろうかなぁ、と思っていた人なので、国光くんの理路整然とした屁理屈に苦笑しながら、おもちゃ箱を補修して、国光くんが乗っても大丈夫なようにしてくれました。
そんなわけで。
今日も国光くんは、釣りごっこに夢中です。
「タイヘン!タイヘン!」
お外に遊びに行っていた菊丸英二くん(5歳)が駆け込んできました。
砂場で遊んでいたらしく、スモックの裾は砂まみれ。
秀一郎くんがぱたぱたとはたいてあげていますよ。周助くんが顔を覗き込み。
「どうしたの?英二。」
「タイヘン!タイヘン!」
「ヘンタイなの?」
「そうなの!ヘンタイなの!……あれ?」
「うふふ。英二ってば、その年でヘンタイだなんて、将来が心配だね。」
将来が心配なのは周助くんだろう!
と。
その場にいた良い子達は心の中で思いましたが、誰も口には出せませんでした。
どうしてでしょうね??
とにかく、英二くんの周りに、仲良しさんたちが集合。
おや?国光くんがいませんね。
それに気付いた貞治くんが、おもちゃ箱のところに呼びに行きます。
「国光くん。英二くんがタイヘンらしい。」
「……そうか……。」
声を掛けられて初めて騒動に気付いたらしい国光くん。
釣り竿を横に置くと、よいしょとおもちゃ箱から降りてきます。
そして、今度こそ、仲良しさんたちが全員集合。
「で、どうしたんだよ?英二。」
「うん。あのね。さかき組のジローくんと、もみの木組の裕太くんがお遊戯対決して、裕太くん、泣いちゃったんだって。」
その瞬間。
スミレ組のお教室の温度は、あっという間にマイナスになりました。
「僕の裕太を、泣かしたって??」
そう。この冷気の源はもちろん、周助くん。
「許せない!許せないよ!!僕!」
今にもお教室を駆けだして行きそうな周助くんを、隆くんが懸命に止めます。
「ダメだよ。周助くん。けんかしちゃ怒られちゃうよ!」
隆くんの説得に、周助くんは少し落ち着いて。
「うん。ごめんね。タカさん。僕、どうかしてたよ。」
お教室の床に、ぺたんと座り込みました。
英二くんや隆くん、秀一郎くんが周助くんを取り囲み、心配そうにしていますね。お友達ですからやっぱり気がかりなんですね。
「裕太くんがさかき組の子に泣かされたらしい。」
「……うむ。」
貞治くんの解説を聞きながら、何か考えている様子の国光くん。
ふと、眉を上げて。
「さかき組といえば、次回のお遊戯対決の相手か……。」
「そうなのか?!」
「……今朝、くじ引きで決めた気がする……。」
その言葉に、周助くんはぱっと顔を上げ。
「僕、ジローくんって子とやりたい!」
と、叫びました。
「弟思いなんだな。」
「うん。だって裕太だもん。」
教室の花瓶には、隆くんが持ってきたスイトピーの花束。
お昼過ぎの柔らかい日差しを受けて、穏やかに咲き誇っています。
園庭では、外遊びの子達の、元気な笑い声。
「こうなったら、とりぷるかうんたあの最後の技を使うしかないね。」
どこか遠くを見る目で、周助くんがぽつりと呟きました。
いつの間にか、開眼しています。
はっとする一同。
「ダメだよ!ダメだよ!!落ち着いて!周助くん!」
「スミレ先生が使っちゃダメって言ってたじゃないか!」
「やめようよぉ。怒られちゃうよぉ。」
慌てて止めますが、周助くんは聞こうとしません。
「だって、僕の第三の技は無敵だもの。ジローくんの目にものを見せてやるんだ!」
周助くんのお遊戯とりぷるかうんたあは。
一つ目。
微笑み返し。
観客席のお客さんが周助くんににっこり微笑んでくれたとき、そのお客さんを狙って天使の笑顔で悩殺する技です。
二つ目。
泣き落とし。
思うようにお遊戯できなかったり、審査の先生に辛い点を付けられそうになったとき、無敵の力を発揮する技です。
そして。
禁断の三つ目は。
「僕、脱ぐよ!全部、脱いじゃうよ!!」
そう。三つ目は。
脱ぐ芸。
またの名を色仕掛け。
隆くんが泣きそうな顔で、一生懸命説得を続けていますが。
あまりの事態に泣きだした英二くんを宥めるのに、秀一郎くんは精一杯。
国光くんと貞治くんは、相変わらずマイペース。
もう収拾がつきません。
「国光くん、全部脱ぐよりも、ちらりずむの方がそそると思わないか?」
「……そそるのか?」
「うむ。」
「……ふむ。」
スミレ組のお遊戯は、一体、どうなってしまうのでしょう。
ジローくんとの対決で、とりぷるかうんたあ最後の大技は炸裂するのでしょうか?!
頑張って!スミレ組の良い子達!
お遊戯会はもうすぐです。
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