このSSは幼稚園パラレルです。
過去話ではありません(笑)。
不良ごっこ。
「お遊戯は楽しく、じゃなかったのかい?パンジー先生(愛称)?」
ここは木の実幼稚園。
都内某所にある、素敵な幼稚園です。
職員室でゆっくりお茶を飲みながら、スミレ先生(本名)の言葉に、パンジー組の伴田先生(本名)は目を細めてにまにま笑いました。
「ええ。もちろんですよ。スミレ先生。」
そしてふと、スミレ先生の視線の先に目をやって。
小さく首を傾げたのでした。
おやおや?
そこはパンジー組さんたちが毎日お水をやりながら、大事に育てているパンジーの花壇。
花壇を囲むレンガの上に、年長組の南健太郎くん(推定5歳)と東方雅美くん(推定6歳)が手を繋いで、しょんぼりと座り込んでいますよ。
どうしたんでしょう?
「ぐすん。雅美くん。パンジー先生(愛称)は俺たちのコト、好きじゃないのかなぁ。」
「ぐすんぐすん。どうしてお遊戯の練習中、清純くんや仁くんのコトばっかり見てるんだろ。稲吉くんや一馬くんだってあんなに大事にされてるのに……。」
「やっぱりパンジー先生(愛称)は俺たちのコト……。」
「ぐすん。」(←地味’sハモリ。)
「やっぱ、地味だからかなぁ。」
「うん。地味だからかなぁ。」
そこへスミレ組の大石秀一郎くん(6歳)と菊丸英二くん(5歳)がやって来ました。同じダブルスお遊戯を得意とするお友達同士、結構、仲がいいみたいですね。
「どしたの?健太郎くん、雅美くん。」
秀一郎くんが首を傾げます。
「だって。だって。ぐすん。」(←地味’sハモリ。)
二人から事情を聞いた秀一郎くんと英二くん。
「地味だって言ったら、秀一郎くんだって地味じゃないか。」
……英二くん、フォローするつもりで、ついうっかり、言ってはならないことを言ってしまいました。
秀一郎くんだけじゃなく、健太郎くんも雅美くんも遠い目をしています。
場の空気が一挙におかしくなったコトに気付き。
英二くんは必死にフォローを入れました。
「先生に放っておいてもらえるのって、ちょっと羨ましいよ。俺なんか、しょっちゅう、スミレ先生に怒鳴られてるもん。」
「それは英二が悪いことばっかりするからだろ。」
「え〜〜。俺、悪くないもん。」
そのとき。
健太郎くんと雅美くんの目がきらきらと輝きました。
「そうか!悪い子になれば良いんだ!」(←地味’sハモリ。)
「えええ?」(←ゴールデンハモリ。)
「稲吉くんや一馬くんみたいに、芽とかうずまきとか、なくても!」(←健太郎くん。)
「清純くんみたいに、上手に甘えられなくても!」(←雅美くん。)
「仁くんみたいに悪い子になれば良いんだ!」(←地味’sハモリ。)
さてさて。地味’s、じゃなかった、パンジー組の良い子達は、果たして悪い子になれるんでしょうか。そして、伴田先生の愛をゲットできるのでしょうか。
「作戦会議だ!雅美くん。」
「うん!作戦会議だ!」
「いいか?俺が手をこうしたら、ぽーち作戦だぞ!」
「……ぽーちって何?」
「犬の名前……。」
「それはポチだろ!」(←裏拳突っ込み。)
……さてさて……。悪い子の道は遠そうです。
そんな、彼らの会話をこっそり聞きながら。
パンジー先生(愛称)は、小さく呟きました。
「基本に忠実な君たちのお遊戯には、隙がありません。本当に君たちのお遊戯は素晴らしいのですよ。でも、心に隙がありましたね。君たちならしっかりしているから、放っておいても大丈夫だと思ってしまった私の心に……。」
スミレ先生がコポコポとジャーから急須にお湯を注ぎ、伴田先生を見て、にっこり笑いました。
「さぁ、そろそろお帰りの準備の時間だよ。パンジー先生(愛称)!」
おうちに帰ると。
雅美くんはお母さんと一緒に、健太郎くんのおうちに遊びに行きました。実はお母さん同士もとっても仲良しなんですね。
「あのねー、あのねー。お母さん!不良の写真、頂戴!」(←地味’sハモリ。)
「不良の写真??」(←母sハモリ。)
しばらく首を傾げていろいろ考えていた母s。はたと、南母が手を打って。
「ちょっと待ってなさいね。」
奥に引っ込み。
一枚の古くさいブロマイドを持ってきてくれました。
「きゃー!なめねこ!懐かしい〜〜♪」
「でしょ?でしょ?流行ったよね〜〜♪」
母sはきゃあきゃあはしゃぎながら、二人にそのブロマイドを見せてくれます。
「ほぉら。不良の猫さんだぞ〜。」
さて。
良い子のための豆知識。
なめねこってなぁに?
なめねこってのは「なめんなよ」だかなんだかっていうキャッチコピーの下に、子猫に不良のコスプレをさせるという、大変愛らしいが、蓋然性がさっぱり理解できない動物虐待写真のことです。十年以上前に流行りました。はい。
(うちのお客様って、なめねこが分かる人と分からない人、どっちが多いんだろ。)
二人はその写真を見て。
「これだぁっ!」(←地味’s魂のハモリ。)
と、思いました。
「こういうカッコ、したいの。」
「したいの。」
急に不良に目覚めた息子たちに、母sは困ったように顔を見合わせていましたが。
「こういうカッコだったら、やっぱり優紀ちゃんが一番詳しいよね!」(←母sハモリ。)
そんなわけで、四人は亜久津家に向かうことに。
亜久津さんのおうちは健太郎くんのおうちからママチャリで五分の距離にあります。二人は母sの自転車に乗せてもらって、颯爽と街を駆け抜け、仁くん(6歳)の住む家に行きました。
さてさて。どうなるのかな?
「急にどうしたの?不良のカッコがしたいなんて。」
事情を聞いた優紀ちゃんは小首を傾げて、健太郎くんと雅美くんに尋ねます。しかし二人はただただ、そういうカッコがしたいんだ!と繰り返すばかり。
やがて優紀ちゃんは、にっこり笑って。
「じゃあ、一緒に作ろうか?」
二人の頭に、ぽんっと手を置き、言いました。
パンジー組の幼稚園スモックは、お母さん泣かせの真っ白デザイン。
縁にテープでアクセントが入っている他は、シンプルな白が基調の可愛い、そして汚れやすい逸品。
二人のスモックを前に、優紀ちゃんは言いました。
「まずは、スモックを特攻服にしようね〜♪そうだな、背中に字を書くんだけど、刺繍はほどくのが大変だし、ペンだと洗濯しにくいから、やっぱりカラーテープにしようか。かっこいい金色のテープがあるんだよ♪」
カラーテープ!
なんてオトナの響きなんでしょう!
なんて不良っぽい甘美なことば!
健太郎くんも雅美くんも、うっとりと優紀ちゃんに見とれています。
「仁〜〜♪一緒にやらない??」
「やらないっ!」
クッションを抱えて、部屋の隅のソファーで憮然と座り込んでいる仁くんは。
むくれたように優紀ちゃんにそう怒鳴りました。
「あはは。面白いのに。」
「面白くねぇよっ!」
仲良し家族ですね。
あっという間に、特攻スモックができあがりました。
雅美くんのスモックの背中には。
「仲良上等!」
健太郎くんのスモックの背中には。
「夜露真紅!」
白スモックに金色のカラーテープが鮮やかに映えます。
「優紀ちゃん、器用ねぇ。」
「うん。私、まだ現役だから!」
「うふふ。優紀ちゃんってば☆」(←母sハモリ。)
それから。
手ぬぐいを裂いて作った素敵な白いはちまき(額には「パンジー命」と書いてもらいました。)。
厚紙とカラーセロファンで作ったサングラス(濃い色だと周りが見えないので薄い色のセロファンにしました。)。
折り紙で輪っかを連ねて作った鎖(写真だと銀色でしたがカラフルな方が良いと優紀ちゃんが言ったので、十二色の鎖にしました。)。
一時間後には、二人は完璧な不良のカッコになっていたのでした。
翌朝。
二人は素敵な不良スタイルで、幼稚園バスに乗り込みます。
今日のバスがかりの先生は、榊先生とスミレ先生。
朝早くに、母sからそれぞれ、「子供たちは今日、思うところがあるらしくて不思議な格好をして登園します。明日からは元に戻しますので、今日の所はよろしくお願いいたします。」との連絡があり。
また、昨日の反省会で、伴田先生から「地味’sがめげているようなので、少し気を付けてやって下さい。」との伝達もあったので。
いつもは自分のクラスの子供にしか興味を示さない榊先生でさえも(ただし自分の組の子は溺愛。)、バスに乗り込もうとする「不良」二人に目線を合わせ、折り紙の鎖を摘み上げながら。
「なんのつもりだ?今日は七夕か?」(←精一杯フレンドリー。)
なんて、声をかけたりしていました。
バスの中は大騒ぎです。
特に二人の前の席に座っていた清純くん(5歳)なんか、椅子に膝立ちで、二人の方に身を乗り出して。
「ねぇねぇ、それ、かっこいいね!すごいね!すごいね!」
なんて、大騒ぎ。
「せなか、もよう、ついてるです。」
後ろの席にいた壇太一くん(推定3歳)も、一生懸命覗き込みます。
「模様じゃないぞ、太一!これは漢字だ!」
「かんじ??」
仁くんは、さっきから、少し困ったようにみんなの騒ぎを眺めています。
みんなに注目を浴びて。
不思議な気分ではありましたが。
やっぱり何か誇らしく嬉しそうな地味’s。
そんなとき、スミレ先生が、言いました。
「それは何のカッコなんだい?」
「不良!」(←地味’sハモリ。)
「おや、怖いね。不良かい。パンジー先生(愛称)は、怖くて泣いちゃうかもしれないね。」
その瞬間。
二人の表情は、はた、と、曇り。
そして。
「パンジー先生が泣いちゃうなら、やめる。」
「うん。やめる。」
サングラスを外して。
はちまきをほどいて。
鎖も放り出して。
金テープもぴりぴり剥がして。
「不良は、おしまい。」(←地味’sハモリ。)
「ええええ?」
清純くんはじたばたと抗議をしましたが。
二人はそんなことにお構いなく、いつも通りの白スモックに戻って、きちんと椅子に座り直しました。
泣かせるじゃないかい?伴田先生?
バスは静かに住宅街を走り抜けて。
もうすぐ、伴田先生の待つ木の実幼稚園に到着します。
スミレ先生は、大人しく座っている地味’sの顔を覗き込んで。
「幼稚園は、……お遊戯は楽しいかい?」
二人はにっこり笑って頷きました。
ちなみに。
二人からサングラスをもらった室町十次くん(推定4歳)は、この日以来、サングラス収集に目覚めた、ということです。
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う〜ん。地味’sのちょっと良い話だ。これじゃ。