半水滸伝!浩の巻。
<冒頭文企画連動SS>



「世界の終わりだぁ!」
 内村の声に、芥川はびくりと飛び起きた。
「マジ?マジ?超すげー!!」
 跳ね上がって周りを見回す。
 場所は山手線内。比較的空いているとはいえ、車両内には他にも乗客が乗り合わせている。あまり大騒ぎするわけにもいかない。
「おはよう。芥川。」
「うわ!大石だ!内村もいる!超ラッキー!!」
 きらきらと目を輝かせる芥川を、何とか座席に座らせて、大石と内村も並んで座る。
 ごそごそとポケットからメンバー表を取り出して眺めているあたり、芥川もゲームに参加していることは覚えていたらしい。
 その辺に軽い安堵を覚えつつ、大石は車内に貼ってある路線図を見上げた。
「次の駅で降りるよ。」
「了解!」
 足をぷらぷらさせて、芥川が嬉しそうに応じる。内村も帽子をかぶり直しながら、軽く頷いた。


 時は9月下旬の祝日のこと。
 ゲーム、というのは他でもない。
 東京、神奈川、千葉のテニス部を巻き込んだ例の大イベントのことである。
 ゲームのルール説明は、当日の朝9時から。
 それ以前には、どんなゲームをするのかということすら、告げられていなかったから、氷帝の部室に集まった良い子たちは、興奮気味にゲームの内容を想像するしかなかった。
「学校対抗で借り物競走とか!」
 と、向日。
「東京タワー借りて来いとか!東京ドーム持って来いとか!超たのC!」
 嬉々として芥川が跳ね回る。
「……宍戸さん。東京ドームってどうやって運ぶんですか?」
「いちいち真に受けるんじゃねぇ。」
 鳳の心配などどこ吹く風。
「個人戦で、株式投資して一日の出来高を争わせるとかどうだ?あーん?」
「マネーゲームはなしやろ。さすがに。なぁ?樺地。」
「う、うす。」
 妙に生々しい跡部の提案を、忍足が笑いながら却下する。どさくさに紛れて同意を求められた樺地が狼狽えるのも気にせずに。
「心霊スポットめぐりスタンプラリーとか、どうかなー。日吉。」
「……!」
 楽しげな滝の言葉に、「怖くなんかないぞと強がっているんだけどだけどちょっと怖いぞと思っている酢酸アミン」の構えで応じる日吉。
 榊は何も言わず、生徒たちのはしゃぐ姿を見守っていた。
 そして、時計がかちりと9時を指し示す。

 誰が言い出した話だったのか、榊も定かには覚えていない。
 とにかく全国大会終了の数日後のコトだ。
 せっかく子供たちがこれだけ仲良くなったのだから、関東近郊の学校で何かリクリエーション企画の一つもやってみようじゃないか。
 そんな話が持ち上がった。
 希望者参加の小さな小さなイベント。
 部長が全員分申し込んだ学校もあったし、各人好き勝手に登録した学校もあった。
 どちらでも良い。
 とにかく自由参加で楽しんで欲しい。
 そんな顧問、監督たちの思いを込めて作られたイベント。

 その名も。
 人間オリエンテーリング。

 地図片手に目的地を走破するのがオリエンテーリングなら、メンバー表片手に目的のメンバーを全員集めるのが人間オリエンテーリング。
 それぞれの生徒に与えられるのは、自分のグループのメンバー表と1つか2つ文字が書かれたカード。
 全員集って、文字札の文字を正しく並べたなら次の目的地が分かる、というルールだけは単純なゲームである。
 集まり方は自由。
 他のグループと助け合っても良し。
 自分たちだけで頑張っても良し。

「行ってよし!」
 榊のびしぃと言うかけ声とともに、氷帝の良い子たちは一斉に動き出した。


 内村はメンバー表をまじまじと眺めていた。
 一応、知っている名前が並んでいる。自分はさほど人目を惹く選手ではなかっただろうから、他の連中は自分を知らないかもしれないけれど。

 大石秀一郎(青学中/中3/リーダー)
 芥川慈郎(氷帝中/中3)
 内村京介(不動峰中/中2)
 金田一郎(ルドルフ中/中2)
 葵剣太郎(六角中/中1)


 惜しいな、と思う。何がって金田が。金田さえいなければ、メンバーは全員、ア行の名字で揃ったのに。っていうか、このメンバー、アイウエオ順で決めたのか?もしかして。
 まぁ、それはどうでも良かった。顧問の話によれば、一応、厳正な抽選とやらで決まった組み合わせらしいし。組み合わせ自体はどうでもいい。このメンバーで楽しければそれでいい。
 内村は部室の椅子からぴょん、と跳ね起きると、橘に軽く目礼して部室を飛び出した。
 不動峰と青学は近所である。リーダーである大石が、青学に待機していてくれれば、それで合流できる。
 大石さんとは、地区大会のとき試合で対戦したし、覚えていてくれるかもしれないな。俺のこと。
 他に合流する方法など思いつかなかったので、内村はそのままの足で青学に向かった。


 そのころ、金田も青学に向かっていた。
 メンバー表を確認して、一応、全員知った名前だったことに安堵した。知らない人と合流するのは、きっと大変だ。顔と名前が一致する人ばかりで良かった。自分は目立たない質だから、他の人たちに認識されてないかもしれないけど……っていうか、たぶん、みんな、俺のことなんか知らないだろうけど……大石さんは覚えていてくれるかな。都大会で試合やったし。
 携帯のアドレス帳を念のため確認したが、同じグループの人の連絡先は一つも入ってない。
 赤澤さんはルドルフで待機して、他の人が来るのを待つみたいだったけど、大石さんも同じかな。
 金田は空を見上げて、うーん、と思案する。
 連絡先が分からない。集合場所も分からない。となれば、リーダーの学校に行くしかないよね。やっぱり。だって、リーダーに合流するのがこのゲームの最初の目標なんだから。
 空は高く澄み渡っていた。
「リーダーが大石なら安心だな。大石によろしく。」
 赤澤ののどかな声が脳裏をよぎる。
 そうですよね!赤澤さん!大石さんがリーダーだったら、何も心配いらないですよね!
 これはゲームなんだぞ!このやろう!
 金田はぐっと拳を握り、気合いを入れると、青学への道を急いだ。


 そのころ、やっぱり葵も青学に向かっていた。
 とはいえ、まだまだ六角のメンバーは全員同じ電車に揺られて、東京を目指していたわけだけれども。


 ところがそのころ。
 大石は不動峰への道を急いでいた。
 大石の脳内には、なぜか、青学で待機する、という選択肢はなかった。
 俺がみんなを迎えに行かなきゃな。リーダーなんだから。
 ルールのどこにも、リーダーは学校に待機、なんて決められてはいない。だから、もちろん、大石の方針が間違いとは言えない。
 けれど。
「……?」
 青学に向かってのんびり歩いていた内村は、大石に出くわしてびっくりする。
「内村!良かった!」
「……ッス。」
 なんで、この人、こんなとこ、歩いているんだ?
 内村の帽子の中には疑問符が並んだ。
 9月の空。10時半前とはいえ、まだまだ陽射しも強い。
「これで1人捕まえた、と。」
 嬉しそうに大石はメンバー表に○を書き込む。
 ま、まさか、この人、これから全員捕まえて歩くつもりなのか?!
 内村はどきどきした。
 なんつうか……チャレンジャーだな!
 冷静で大人なイメージがある大石が、実はむちゃくちゃチャレンジャーな戦いを繰り広げようとしていることに気づいて、内村の血は滾った。
 橘さん並にクールにキレてる人だな!だが、見てろ!俺だって伊達に前衛キラーと呼ばれたわけじゃないぜ!
 もちろん、「青学でみんなが来るのを待っていた方が良いんじゃないッスか?」と提案することだって、内村にはできたはずなのだ。だが、内村はそれをしなかった。前衛キラーとしての誇りがそれを許さなかった。
「そういえば、内村。伊武の連絡先、知っているかな。」
「伊武?」
「タカさんと取引しているんだ。伊武の連絡先を教える代わりに、芥川の連絡先を教えてもらうってね。タカさん、氷帝に行くって言っていたから。」
 なるほど!チャレンジャーな割に、意外と策士だぜ!うちのリーダー、なかなかやるじゃねぇか!
 内村の真骨頂が煌めき出す。
 無言のまま、ずいっと自分の携帯を差し出せば。
「あ。ありがとう。」
 爽やかな笑顔で、大石は伊武のメールアドレスを河村に伝えた。

 そして、内村と大石は駅に向かう。いずれ、他の連中を捕まえるには、電車で移動する他ない。
 駅に着くと、大石は携帯を取り出した。まだ河村からの返信はない。地下鉄にでも乗っているのか、さもなければ、返信を書けないくらい忙しいのか。
「そろそろ六角が都内に着くかな。」
 時計を見れば、10時半を少し過ぎたくらい。千葉と神奈川の学校は、9時半にゲーム開始だったといっても、まだまだ、都内にはたどり着くはずもない。大石は駅のホームでベンチに腰を下ろし携帯メールを打ち始めた。

大石→葵
件名:おはよう
本文:葵くん、おはよう。いつごろ都内に着く?○○駅まで迎えに行くよ。

葵→大石
件名:はずれ
本文:大石、おはよう。六角は携帯をシャッフルしていて、剣太郎の携帯を持っているのは佐伯虎次郎でした。残念無念また来週。

大石→葵
件名:シャッフル?
本文:じゃあ、葵の携帯を持っているのは誰?

葵→大石
件名:ひみつ
本文:それ教えたら、シャッフルする意味、ないだろ(笑)。同じ爽やか系副部長のよしみでも、教えられないな!

大石→佐伯
件名:葵を探しています
本文:おはよう。君は誰?

佐伯→大石
件名:たぶん
本文:天根くん

大石→天根
件名:葵を探しています
本文:おはよう。君は誰?

天根→大石
件名:ごくろうさま(笑)
本文:俺は黒羽。俺の携帯持ってるのは亮だから←サービス(笑)

大石→木更津亮
件名:葵を探しています
本文:おはよう。君は誰?

木更津亮→大石
件名:やっと来た!
本文:大石さん、わざわざ外しまくるんだもん!○○駅には11時半には着くと思います!

 大石が「はぁ」とため息をついて脱力する。コトの成り行きを見守っていた内村は、そりゃ、脱力もするよなぁ、と密かに同情した。
 携帯メールのやりとりを見ている限り、六角のメンバーは全員一緒にいて、しかも、お互いに情報を交換しあっているわけで。そうじゃなきゃ、○○駅まで葵を迎えに行くなんて話を、最初から葵が知っているはずもない。
 だったらさ。
 葵の方から大石さんにメールを書けば早かったんじゃないのか?
 空を見上げる。プラットホームの屋根の間に覗く空の青がまぶしかった。
 ちくしょう。六角もムダにチャレンジャーじゃねぇか!
 内村の血がまた意味もなく熱く滾った。
 ホームに電車が滑り込んでくる。
「お待たせ。行こうか。」
 立ち上がった大石の表情が予想外に楽しそうなのを見て、内村はにやりと笑った。
 そうだよな!手強い相手をやっつけるのが、楽しいんだよな!

 電車の扉が開く。
「あ、タカさんからメールだ。」
 乗り込むと同時に走り出した電車。
「これで、芥川の携帯連絡先も分かった、と。次の乗り換えのときに、連絡してみよう。」
「ッス。」
「あとは金田くんだけど……連絡先、知らないよね?」
「ッス。」
 5人集まれば良いんだけど、とりあえずは、これで4人までは何とかなりそう、ってわけか。
 それにしても、金田、合流する方法、考えてやらないと可哀想だよな。都内で偶然出くわすわけもないし……。
 同じ中2として、やはり金田には親近感がわく。内村は普段使わない頭をフル稼働して、ちょっとだけ金田について本気を出して考えてみた。
「不二さん。」
「ん?富士山?どこ?」
「……不二さんの弟。ルドルフですよね?」
「ん?……ああ。そうか!不二から裕太くんの携帯を教えてもらえば良いね。」
 にこりと微笑む大石。
 リーダーに認めてもらえると、ちょっと嬉しい。
 内村は帽子を目深にかぶって、黙り込んだ。

 すぐに乗り換え駅に着く。ここから山手線に乗り換えて○○駅に向かえば、11時半前には余裕で間に合うはず。
「その前に、芥川と不二に電話、と。」
 携帯を取り出した大石は、着信に気づいて慌てて通話ボタンを押す。
「タカさん?」
『あ、大石!今、どこ?』
「今?××駅で山手線に乗るところだけど。」
『良かった!!』
 河村が心から安堵したように叫ぶ。
『跡部に調べてもらったら、芥川ね、山手線の中で寝てるんだって。もうすぐ××駅を通る山手線内回りの先頭車両にいるって!』
「本当に?ありがとう!」
 山手線というのは環状線で、乗ったまま寝てしまえば、何周回っても、車掌さんに「終点ですよ!」と起こされることのない、芥川にすれば素敵極まりない電車である。
 内回り線といえば、反対ホーム。移動しなくてはならない。大石は内村を振り返り……。
「内村?」
 行方不明になっているコトに気づいた。
 きょろきょろと周りを見回しても姿は見あたらず。
「……内村?」
 かばんごといなくなっている。せっかく、芥川を捕獲できることになったのに!
 慌てた大石の横に、ぴょん、と内村が飛び出した。
「……ッス!」
 ペットボトルのスポーツドリンクを差し出す内村。
「あ、ああ。ありがとう。」
 優しい子だな、と大石は思った。一瞬でも、内村のことを悪く思いそうになった自分が悪かった。大石は心から反省しながら、向かいのホームへと移動した。

 走り込んできた山手線の窓から、爆睡する芥川の姿が見えた。
「いた!」
 大石と内村は頷きあって、電車に乗り込む。肩をつかんで揺り起こそうとしても、ぐっすり眠る芥川は、全く反応すら返さない。
「……俺が起こします。」
 内村がにやりと笑って、芥川の耳を引っ張る。
「世界の終わりだぁ!」
 内村の声に、芥川はびくりと飛び起きた。
「マジ?マジ?超すげー!!終わるの?!マジ終わるの?!」


 金田は青学の部室を覗き込んだ。
 青学の部室の中には、すやすやと眠る越前リョーマの姿があるだけで。
 越前を起こして、大石の行方を尋ねるだけの勇気は、金田にはなかった。
 このやろう!これはゲームだぞ!
 金田は途方に暮れつつ、とりあえずは自らを励まして、赤澤だったらどうするだろうか、と考えた。
 ……赤澤さんだったら、他のメンバーが集まるまでに退屈しちゃって、コンビニ行ったりとか、トレーニングしに行ったりとかしてそう……。
 ……だからこそ、あなたに会いたい……!
 そこまで考えて、金田は青学の校内をさまよってみることにした。


 一度、山手線から下車すると、大石は不二に電話をかけた。
『ごめん。裕太は携帯を持ってないんだ。この前、解約したんだって。』
 すまなそうな不二の声に、大石まですまない気分になりながら、通話を切る。
 本格的に金田の連絡先が分からない。
 芥川ももちろんルドルフのメンバーの連絡先など知らないという。青学でルドルフに伝手がありそうな人は不二の他思い当たらないし、六角のメンバーは携帯をシャッフルしているから、誰がどんな情報を持っているのか分からなくて、あてにできそうもない。
「……南にでも聞いてみるか。」
 他校にまで絨毯爆撃かよ!
 内村の血が滾った。
 さすが大石さんだな!こいつはまさに世界の終わりだぜ!大石さんを見習って、来年から、俺、後衛キラーもできるようになろう!ついでに、相方キラーにもなろう!そう心に誓った。相方キラーってのがよく分からないけど!
「ん?氷帝?いるよ。芥川。……ああ。分かった。取引だ。」
 大石は、宍戸の連絡先を南に教える代わりに、金田の連絡先を調べてもらう約束をしたらしい。
 調べてもらうって、チャレンジャーだな!
 こっちの方が断然不利な条件じゃないか!さすが大石さんだな!!
 だけど、どうしても金田の連絡先を知りたい。それが本音だ。背に腹は代えられなかった。
 3人は、南の連絡を待つ間に、○○駅に移動して、葵を出迎えることにした。

「大石さん!」
 11時半少し前に、約束の場所で元気な声がした。
「葵!」
 良かった!これで4人揃った!
 大石がメンバー表に3つめの○を書き込んだとき、葵が無邪気に尋ねた。
「もしかして、ボクが一番ですか?!」
 慌てて周囲を見回すと。
 さっきまで一緒に葵を待っていた芥川と内村の姿がない。
「……芥川と内村がいるはずなんだけど。」
「いるはずなのに、いないんですか?!面白い!」
 きゃっきゃっとはしゃぐ葵。
「ボク、探してきます!」
「や、待っててくれ。たぶん、戻ってくるだろうから。」
 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、人通りの多い駅の中を走ってくる芥川と内村が見えた。
「本当に戻ってきた!面白い!」
 飛び跳ねる葵。みんな元気だなぁ、と大石は思った。
「見て!見て!変な人形焼き!超かわE!」
 芥川が人形焼きを全員に配る。なるほど、これを買いに行っていたってわけか。
「いっただっきまっす!」
 時計を見上げれば11時半。
 金田はどうしているだろう。
 不安を胸に、大石が周囲を見回したとき、携帯にメールの着信があった。
「南!」
 南は約束通り、金田の連絡先を調べてくれていた。
 良かった!これで、全員だ。
 大石は食べかけの人形焼きを手に、金田に電話を掛けた。


 正午過ぎのターミナル駅は人の往来が激しい。有名な待ち合わせ場所は、間違えにくい代わりに、なかなか出会うのも大変だ。
「大石さん!」
 待ち合わせ場所に姿を見せた金田は、大石に気づくなり、涙ぐんで駆け寄ってきた。
「連絡、遅くなってごめんね。」
 大石の謝罪に、金田はぶんぶんと首を横に振る。
「ところで、他の人たちはまだですか?」
 金田に問われて、嫌な予感を全身で感じつつ、大石は周囲を見回した。
「ああ、また、いなくなっちゃったよ。」
 苦笑する大石。
 だが、その声、その表情は、実に楽しそうで。
「すぐ帰ってくるんじゃないかな。」
 苦労さえ楽しい。胸を張ってそう笑える男が大石秀一郎である。
 9月の風が人混みを駆け抜けてゆく。
「このメンバーじゃ、ここからゴールまで行くのも一苦労だな。」
「俺も協力しますから!きっと大丈夫ですよ。」
 力強く宣言する金田に、大石は優しく頷いた。
「そうだね。」

「あ!金田が来てる!」
「これで全員集合だ!面白い!!」
 大石の予言通り、1分もしないうちに、芥川、内村、葵の3人が駆けてくる。
「……ッス。」
 大石に風船を手渡す内村。
「あ、ありがとう。」
 狼狽えつつも、大石は受け取って、困ったようにメンバーを見回した。
「今、そこのイベント会場で風船もらったの!」
 芥川が説明する。
 もらった風船を譲ってくれるのは、たぶん、内村なりの優しさなのだろう。


 文字札を並べて、ゴール地点を確認する。
 見覚えのある文字たち。
 並べなくても、それがどこかだなんて、みんな、分かっていたけれど。
 あこがれの全国大会会場の名前がそこにある。
 一月前までは、ライバル同士だった顔ぶれと。
 今日は仲間として、歩き出す。
「行こうか。」
 大石が全員を見回すと、きらきらと目を輝かせて、4人の仲間たちが揃って頷いた。
 ゲームの終わりの刻が、少しずつ近づいていた。





☆☆15万ヒット記念☆ぷち企画☆☆
   <今回のいただき冒頭文>
「世界の終わりだぁ!」

どうもありがとうございました!




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