副部長友の会。
<冒頭文企画連動SS>



 明日の日曜日、真田が東京ディ○ニーランドに行くらしい。
 そのニュースに早朝の立海テニス部部室はどよめいた。
「ま、まさか、デートっすか?」
 うろたえたように訊ねる切原。
 柳は細い目を更に細めて応じた。
「いや。副部長友の会南関東各都県支部長親睦会だ。」
「な、なんすか?それ。」
 柳によれば。
 どうも世の中には「副部長友の会」という組織があって。
 南関東部会、という下部組織があって。
 各都県にはそれぞれ支部長が居て。
 要するに。
 神奈川、千葉、東京の三都県の支部長が集まって親睦を深める、と。
 そういう企画があるのだそうで。
「……で?」
「東京支部長が青学の大石。千葉の支部長が六角の佐伯。神奈川の支部長が弦一郎というわけだ。」
 得々と説明する柳に。
「……その三人でなんでディ○ニーランドなんすか……。」
 切原は納得しようとはしなかった。
「佐伯が好きらしいぞ?」
 それにしたって。
 真田副部長をディ○ニーランドに連れて行って親睦を深めようとする方が間違っている!
 そもそもなんでその三都県だけで、しかも支部長だけで親睦深めなきゃいけないんだ!
 埼玉は北関東なのか?!そうなのか?!
 ってか、ディ○ニーランドなら俺が行きたい!
 やっぱ、六角も潰すよ?
 心に誓いかけた切原の横で、憮然とした表情の丸井が低く宣言した。
「まずは、真田にディ○ニーキャラ全部覚えさせなきゃなんねぇだろい!明日までに!」
 そしてぷぅっと風船ガムをふくらます。
「……ディ○ニーキャラ全部……!」
 軽い震えが走る。
 真田副部長にディ○ニーキャラ全部を覚えさせるなんて、ムリじゃないだろうか?ってか、ムリだ。キャラ覚えている真田副部長なんて想像できない!
「そうですね。確かにディ○ニーランドに行くからにはディ○ニーキャラくらい、認識していないと礼儀に反しますね。」
 紳士が紳士らしいようならしくないような微妙なコメントをして。
 深く深く頷く丸井。
「もちろん完璧に覚えさせてやるさ……ジャッカルがな!」


 晴天。
 日曜は素晴らしい行楽日和だった。
 舞浜駅で降りる。待ち合わせ時刻の15分前であるにもかかわらず、改札には爽やかに手を振る大石の姿があって。真田は小さく笑った。
「相変わらず早いな。」
「真田もね。」
 地元の千葉在住であるとはいえ、佐伯も舞浜までは電車でかなりの時間がかかる。
「舞浜って、マイアミビーチの日本語版を目指して付けた名前らしいね。」
 爽やかに豆知識を披露する大石。
「マイアミビーチの……日本語版……?」
 そのとき電車が到着した。
 楽しげな人々の声。
「やぁ!ごめん。お待たせ!」
 そして、六角の副部長が姿を見せる。待ち合わせまであと6分。決して待たせたような時間ではない。
「じゃあ、行こうか。」
 爽やかに白い歯を見せて笑うと、佐伯が先頭に立って歩き出す。
 真田は思った。
 副部長にはなぜこうもムダに爽やかな男が多いものか、と。

 ディ○ニーランドは恐れていたほどには混んでいなかった。
 とはいえ、日曜日である。
 あっちを見てもこっちを見ても人、人、人。
 そんな中。
 入口を入ってすぐのところで、三人の副部長はグーフィーのお出迎えに遭遇する。
「あ!」
 中学生らしい嬉しそうな表情を浮かべる佐伯。
「……着衣の犬、そして帽子……グーフィーだな!」
 その横で真田が低く呟く。
「え?あ。うん。グーフィーだね。」
 戸惑いつつ相槌を打つ大石に、真田は満足そうに頷いた。
「よし!」

 シンデレラ城が見えてくれば、いやがおうにも心が浮き立つ。
 はしゃいだ様子でチップとデールが三人に手を振るので。
「写真を撮ろうか!」
 少しはにかみつつもカメラを取り出す大石。その傍らで。
「……二匹組の齧歯類もしくはそれに類する茶色の生き物……ヤツらはチップとデールだ!」
 確信を持って真田が宣言する。
「そうだね。真田、よく知っているね。」
 辛うじて佐伯が爽やかに対応した。
 そのころには大石も佐伯も気付いていた。
 真田にとっては、ディ○ニーランドは夢の国ではなく、未知との遭遇であるというコトに。

「……茶色の犬、かつ二足歩行……よし。あれがプルートだな。」
「そうそう。」
 木々は明るい緑色。

「齧歯類もしくはそれに類する黒っぽい生き物で、赤い布を装っている……あれがミニー。そして赤い布をまとわぬものがミッキー!」
「うん。」
 空も高く澄み渡って。

「アヒル……。」
 真田が唐突に立ち止まった。視線の先を追って、大石が微笑む。
「ああ、あのアヒルはね。」
「待て!大石!今、思い出す!」
 遠くで子供たちに取り囲まれているドナルドを凝視して、真田は真剣な表情で考え込んだ。
「……アヒルは……奇天烈な声を上げるあのアヒルは……。」
 明るい陽射しが園内を照らし出す。
 初夏の柔らかな風が吹く。
 いつも出会うときとは違う、私服姿の三人組。
 普段だったら、ライバル意識とか対抗心とかが先に立ったのだろうけど。
「アヒルはアヒルで良いんじゃない?」
 佐伯が爽やかに笑った。
「そうだね。アヒルで良いよ。それで通じるから。」
 おっとりと大石が頷く。
「しかし……!名前を覚えなくては、あのけったいな生き物たちに失礼に当たると、丸井が言っていたぞ?」
 真顔の真田に。
 大石と佐伯は小さく首を振った。
「大丈夫!ミッキーもドナルドも……えっと、何だっけ。齧歯類もしくはそれに類する黒っぽい生き物で赤い布をまとっていないヤツも、奇天烈な声を上げるアヒルも、全然そんなコト気にしないから。」
 ポップコーン売りの車の横を通りすぎると、香ばしい香りが鼻をくすぐる。
 聞いただけで楽しくなるような音楽が、どこからともなく耳に届く。
 佐伯の言葉にまだ半信半疑らしい真田。大石がたたみかける。
「俺たちが思いっきり楽しいって思うコトが、ミッキー……えっと、齧歯類もしくはそれに類する黒っぽい生き物で赤い布をまとっていないヤツにとっても、一番嬉しいコトなんじゃないかな。」
「……そう、なのか?」
 困惑したように真田は帽子の下で軽く瞬きをして。
「たまらん齧歯類だな……!」
 少しだけ嬉しそうに目を伏せた。


「サエさん!ディ○ニーランド、どうだった?」
 翌日。
 朝一番に、部長が副部長に尋ねたのはそのコトだった。
「ああ、楽しかったよ。」
「良いなぁ。ボクも副部長だったら行かれたのに!」
「じゃあ、来年は副部長をやれば?」
 にこにこと爽やかに言う佐伯に、葵は目を輝かせる。
「それ良いね!」
 六角中学の校舎に続く道。
 だんだんといつものメンバーが合流する。
「お土産は?」
 遠慮なく佐伯の鞄を覗き込もうとする天根に軽くひじ鉄をお見舞いしつつ。
「ちゃんと買ってきたって。」
 佐伯は爽やかに笑った。
「何買ってきたんだ?」
 いつの間にか合流していた黒羽に驚きもせず、佐伯はよどみなくこう答えた。
「二匹組の齧歯類もしくはそれに類する茶色い生き物の焼き菓子と、幼児体型の食い意地の張ったクマの飴。」
 仲間たちはぱちくりと目を見合わせる。
 真夏の気配を胸一杯に吸い込んで。
「次の親睦会は大石主催だからね。今度は三人でサンリオピュー○ランドに行きたいなぁ……!」
 上機嫌に佐伯は伸びをした。
 明るい陽射しが彼らを包み込む。
 楽しい一週間が始まりそうな予感が、青空にあふれていた。







☆☆15万ヒット記念☆ぷち企画☆☆
   <今回のいただき冒頭文>
明日の日曜日、真田が東京ディ○ニーランドに行くらしい。

どうもありがとうございました!




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