これは、「ほくろ戦隊ダイブツダー!」シリーズの続編に当たるSSです。
キャラクターの関係が複雑ですので、できれば順にお読みくださいませ。
むしろ、これだけ読むと意味が分からない自信があります。はい。
全部読んだけど、よく分からんとか(ごもっとも!)、
沖縄代表比嘉中の子がさっぱり分からないとかいう方は、
資料室(同窓別窓)をご参照ください。


ほくろ戦隊ダイブツダー!
〜増えるメガネちゃん?!

<冒頭文企画連動SS>



 全く、こんなこと馬鹿げている。なのに決して不快ではない。いや、むしろ心惹かれている。どうしてなんだ??
 乾は瞬きを繰り返す。
 目の前に立つ木手が、緩慢な動作でメガネのフレームを押し上げたのが、ゴーヤの隙間からぼんやりと見えた。
「悪くない。」
「……だと思いました。」
 木手は淡々と応じる。
「……悪くはない。確かにな。」
 だが。
 馬鹿げている。あまりにも馬鹿げている。
 そう続けようとして、乾は言葉を飲み込んだ。
 確かに俺が心惹かれている確率は98%だ。
 だが、落ち着け。なぜこんなモノにここまで心惹かれているんだ?!
 こんな……こんな馬鹿げたものに……!
 木手が微笑んでいるのが気配で分かる。
 やはり罠なのか……?それともこれは地方自治への新しい希望、新しい夢、新しいメガネだと信じて良いのか……?
 苦悩する乾の耳元で木手がそっとささやく。
「そろそろ堕ちなさい。乾クン。」
 夏の陽射しが二人のメガネを照らす。
 俺は……こんなものを……信じて良いのですか……?大和先輩……!


 木手が乾の前に姿を現したのは、今からわずか五分ほど前のコトだった。
 地方自治の未来を確かなものとするためには、もっともっと地方都市のメガネ戦士たちの力が必要なのです。今こそ彼らに協力を求めましょう。
 今朝、大和がメガネ戦士たちに、メガネ通信を使ってそう指示を出した。それを受けて、乾が陣頭に立ち、各地のメガネキャラに連絡を入れ始めた、その矢先のできごとである。
「ごきげんよう。乾クン。」
 彼は突如目の前に現れたのである。
「……驚いたな。木手。沖縄にいたんじゃないのか?」
 近所の公園でメガネキャラたちのデータ整理を進めていた乾にとって、木手の登場はありがたい展開には違いなかった。木手は沖縄を代表するメガネ。今年の沖縄は九州地方の覇者である。要するに彼は九州地方の覇権を握るメガネなのである。今、この場で彼を地方自治のメガネとすることができるなら、それほど心強いことはない。
 冷静な頭でそこまで計算すると、乾は驚いた様子も見せずにメガネをずりあげた。木手は軽く笑って。
「いえ。今来たところですよ。縮地法で。」
 何でもないかのようにそう応じる。
「縮地法で……?」
「ええ。縮地法さえあれば沖縄から東京までもたったの一歩ですよ。」
 縮地法ってそういう技だっただろうか?
 乾の脳裏には軽い疑問が過ぎったが、もう一つの疑問を敢えて聞いておくコトにした。
「一歩と言っても、間に海があるだろ?」
「海は泳ぎました。根性で。」
「……え?」
 リアクションしそこねて乾が狼狽えている間に、木手はすっと乾の眼前まで距離を詰め。
「観念しなさい。乾クン。」
 穏やかに呟いて、乾のメガネに触れたのである。
「ゴーヤ食わすよ?」
 ……今、何をされた?!
 急に見にくくなった視界に焦り、乾はメガネに手を伸ばす。
 ……苦い匂い……?
 メガネの二枚のレンズには、二枚の輪切りゴーヤがぴたりと貼られていた。
 種はくり抜かれてあるから、真ん中の穴を通して向こう側が見えるには見える。とはいえ、もちろん視界良好というほどではないのだが。
「ご覧なさい。ゴーヤの向こうに広がる美しい世界を。」
 ゴーヤの隙間から見える公園は確かに夏色に染まり、明るく生命力あふれる緑に満ちていた。
 自分の声に酔ったかのように木手がささやき続ける。
「見えるでしょう?世界はゴーヤに包まれてこんなにも美しい。」
 馬鹿げている……!
 こんな、こんなコトは……!
 乾は首を振った。
「木手!俺がお前を呼んだのは、お前がメガネ戦隊インテリゲンチャーの一員として、地方自治のメガネとなれると信じたからだ……!こんなゴーヤメガネで遊ぶためなどでは……!」
 くっと木手が喉の奥で笑う。
「遊ぶ……?ふざけるのもいい加減にしてくださいよ。」
「全てはメガネ輝く未来のための序章。メガネはメガネであればそれで良いのだ。何も引かない。何も足さない。それがメガネだ。」
「……そう言い張るならそれも良いでしょう。しかしみなさんも戦力が欲しいはずです。協力することに、損はないのでは?」
 さっと青葉を揺らして風が吹き抜ける。
 確かに。
 確かに地方自治のメガネのために、今は少しでも戦力が欲しい。
 深く頷く乾に、穏やかに笑って木手が提案した。
「ならば問題ノープロブレムでしょう。一時的に手を結んで、取り引きをしませんか?」
「というと?」
「この木手永四郎がメガネ戦隊の戦士となる代わりに……メガネ戦隊のみなさんは、ゴーヤ王国が世界を支配するための戦いの手助けをする、ということでは?」
 ふわり、と夏の風に公園の木々がゆれる。
 ノースリーブの木手の腕。
 それって、要するに協力すると見せかけて、自分に都合の良いコトばっかり主張してないか?
 乾の脳裏に一瞬そういう疑惑が浮かんだ。
 だが。
 ゴーヤ越しに見える世界はあまりにも美しかった。
 俺は……俺はなぜこんなモノに心惹かれて……。
 乾の苦悩をよそに、ゴーヤの香りがふわりと世界を包み込もうとしていた。


「堕ちなさい。乾クン。ゴーヤに跪くのです。」
 もう一度、木手がささやいた。
 ゴーヤ王国のために。
 今始まろうとしているゴーヤ王国の栄光の歴史のために。
「……悪くはない。だが……。」
 ふぅっと深く息を吐き出す乾。
「残念だが……俺はゴーヤよりもドリアンの方が好きな確率28%なのでね。」
 くいっとメガネを押し上げる乾。
 かわいてきたためだろうか。
 メガネからスライスゴーヤがはらりはらりと舞い落ちる。
「……だと思いました。」
 切なそうに目を伏せ、木手も己のメガネをずりあげる。
 蒸し暑い東京の大地に、悲しげに輪切りのゴーヤが二枚横たわっていた。
「同じメガネキャラ同士……分かり合えたら良かったのですが。」
「残念だったな。」
 メガネ戦隊にも仁王のようなメガネキャラでないメンバーがいるように。
 メガネキャラであっても、メガネ戦隊と志を等しくできない者もいるのだ。
 乾は唇を噛みしめた。
 メガネキャラじゃないとか言ったら、仁王は寂しがるかもしれないけども。でも、あいつはメガネキャラじゃないからな。絶対。
 諦めたように首を振る木手。
「仕方ありません。」
 地に落ちたスライスゴーヤをそっと拾い上げ、木手はそれを公園の花壇に葬った。
「インテリゲンチャーのみなさんとは、たぶんいつかまた相見える日が来ます。」
 軽く手を合わせて木手は目を伏せる。
「敵として、か。」
「ええ。……そうなれば乾くん、君にも……ゴーヤ食わすよ?」
 どこからともなく取り出したゴーヤを片手に啖呵を切った。
 ふっと乾は微笑む。
「望むところだ。ちなみに、俺がゴーヤのスープスパ大好きである確率は19%。覚悟しておくことだな!木手!」


 そのころ。
 ダイブツダー本部は騒然としていた。
「木手永四郎……?俺たちは見かけていないが。」
「あれまー。」
 突然の訪問者に驚きつつも、不動峰の部室に招き入れたほくろ戦士たち。
 彼らの問いかけに桔平は真顔で答え、比嘉の良い子たちを困惑させる。
「永四郎クンは東京を潰すって言ってたんだよ。」(沖縄方言略。)
 平古場と顔を見合わせ、甲斐が口を尖らせた。
「だからこっちに来ているはずなんだけどな〜?」(沖縄方言略。)
 確かに友達がいきなり「東京を潰す」などと言い残して旅だったら、びっくりもするだろう。慌てて探しに行くだろう。
 狼狽える比嘉中の良い子たちの姿に、大石は何とも気の毒な気分になって。
「東京と言っても広いんだ。他に何か言ってなかった?」
 手がかりを探そうと問いかける。
 もう一度顔を見合わせる比嘉中の面々。
 しばらく迷った末、田仁志が口を開く。
「メガネがどうのとか……言っていた気がする。」(沖縄方言略。)
 その言葉に、がたり、と音を立てて立ち上がる石田。
「メガネ……?!まさか、インテリゲンチャーと接触しているのでは?!」
 まさか……!
 しかし、確かに木手はメガネキャラ。
 インテリゲンチャーと手を結ぶ可能性はないわけではない。
 インテリゲンチャーは東京を潰すというよりも、中央集権を打倒しようとしているわけだが、当面の利害関係は一致するかもしれないのだから。
 ってか、木手はなんで東京を潰そうと思ったんだろう?
 今更ながら、ふと南はそんなコトを気にしてみたが。
 今の話の流れ的にそこ突っ込んでも仕方ないよな。
 とあっさり諦めてみた。

 そのとき、モニター担当の杏がモニターを見つめ、はっとして凍り付いた。
「どうしたの?杏ちゃん。」
 菊丸が声を掛けつつモニターを覗き、息を呑む。
「……乾のメガネが……未確認メガネと接触している!」
「何?!」
 ってか、そのモニター、そんなコト分かるのか?!
 と東方は突っ込みたい衝動に駆られたが。
 今はそこ突っ込んでも仕方ないよな。
 とあっさり諦めてみた。

「乾の現在地点は……青学の東450m地点にある公園だ。大石。場所は分かるな?」
 跡部が振り返る。
 ゆっくりと頷く大石。
「どうする?橘。」
 大石の問いかけに、樺地がそっと合掌する。いつでも出撃できる。桔平の合図さえあればいつだって戦える。樺地の心意気に桔平は穏やかに目で頷いて見せた。
 確認しなくてはなるまい。
 木手の真意は分からない。
 だが、東京を潰そうと願い、インテリゲンチャーと接触していると知ってしまっては、そのまま見逃すわけにもいかない。
 戦うかどうかはそのとき判断するほかない。
 ともかく。
 今は行って確認しなくてはなるまい。
 立ち上がろうとした桔平を、知念が遮った。
「永四郎の居場所を教えてくれ。」(沖縄方言略。)
「……なぜだ?」
「永四郎は俺たちが止める。俺たちはそのために来た。」(沖縄方言略。)
「……良いだろう。」
 知念の真剣な目を、桔平は信じた。
 ふぅっと平古場が深い息を吐いて、肩をすくめた。


 ダイブツダーに伴われて、比嘉の良い子たちは真っ直ぐに木手の居場所を目指した。
 目的の公園のかなり手前で、本部からの緊急通信が飛び込んでくる。
『石田!その角、左に曲がれ!そこに木手さんがいる!』(本部の桜井。)
 そして。
 彼らは木手に遭遇した。
 アスファルトの道を木手はゆっくりと歩んでいた。
 ゴーヤ王国の未来を担うべき一人の戦士として、その歩みは力強く凛として美しかった。
「……!」(沖縄方言略。)
 木手の姿を確認するなり走り出す比嘉っ子たち。
「おや?みなさん、お揃いで。」
 平然と木手は仲間たちを振り返る。
「心配かけやがって!」(沖縄方言略。)
「勝手に一人でどっか行ったりすんなよ!」(沖縄方言略。)
 冷静な木手を取り囲み、仲間たちは安堵の声を上げた。
 そりゃ、そうだろうな。
 大石は口元に笑みが浮かぶのを禁じ得なかった。
 いきなり仲間が一人いなくなってしまったら、それは心配だろう。不安だろう。だからこそ再会できたときの喜びは深いはず。
 大石の穏やかな笑みに目をやって、南も微笑んだ。
 良かったな。こいつら。

 そのとき。
 彼らの耳に知念の低い声が届いた。
「東京なんて、ゴーヤ王国の敵じゃねぇ。お前が手を下すまでもねぇ。」(沖縄方言略。)
 ぴくり、と桔平の眉が上がる。
 どういう意味だ?東京を愚弄する気か……?!
 軽く下唇を舐めつつ、桔平は知念を睨み付けたが。
「そうだ!俺たちゴーヤ戦士の敵は東京みたいな下っ端じゃねぇだろ!俺たちの敵は千葉だ!千葉にいる!」(沖縄方言略。)
 平古場の言葉に、困惑したように石田が桔平に目をやって。
 どうします?
 石田の無言の問いかけに、桔平は苦笑した。
 ……まぁ、良い。今日のところは放っておけ。
 夏の陽射しは強い。
 アスファルトをじりじりと焦がす。
「……だと思いました。全く、仕方ありませんね。」
 仲間たちの言葉に、木手はメガネをずりあげつつ微笑んだ。
「今日のところはみなさんのゴーヤに免じて許してあげることにしましょう。東京のみなさん、命拾いをしましたね。」
 その言葉に、木手を取り巻く連中が、ふぅっと安堵の溜息を吐いたように見えたのは、気のせいだったのだろうか。
 そう疑問に思う暇こそあれ。

 しゅん!!

 木手が桔平に向けて、勢いよくゴーヤを投げつける。
「……何?!」
 片手で軽くゴーヤを受け止め、キッと真っ直ぐな視線で睨み付ける桔平に。
「橘クン。今日のところはここまでにしておきましょう。ですが、今度会う時は本当に……ゴーヤ食わすよ?」
「……木手……!」
「ではごきげんよう。ダイブツダーのみなさん。」
 木手の笑いを含んだ声だけを残して。
 ゴーヤ戦士たちの姿はその場から突如かき消えた。
「……?!」
 愕然とする樺地。
「……縮地法、か。使い方間違えすぎてるよな。あいつら。」
 大石のつぶやきが真夏の湿った風に乗って消えた。

 ってか。
 ゴーヤ王国って何かってトコはスルーなんですか?!
 そこ、一番のツッコミどころだったんじゃないんですか?!
 BGM用のラジカセを胸に抱いて、本部の桜井は一人静かに、天井を見上げた。
 ほくろ戦士たちが本部に戻ってきたら。
 心安らげるような優しい音楽をかけてあげよう、と思い巡らせながら。




<次回予告?>
「本部はまた暇だったな。菊丸。」
「そういう跡部にプレゼント!今日のおやつはポッキーだよん。」
「ポッキー?」
「え?知らない?」
「いや。知っている!ポッキーゲームをするための菓子だろう?」
「えっと。まぁ、そうかな?」
「忍足がそう言っていたから間違いないはずだ。」
「忍足のヤツ……。」
「さぁ、菊丸!俺様のポッキーゲームに酔いな!」
「え?!俺とやるの?!マジで?!」


次回!ほくろ戦隊ダイブツダー!
「ゴーヤ王国の野望!?」お楽しみに!!







☆☆15万ヒット記念☆ぷち企画☆☆
   <今回のいただき冒頭文>
全く、こんなこと馬鹿げている。なのに決して不快ではない。
いや、むしろ心惹かれている。どうしてなんだ??

どうもありがとうございました!




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