猫の居る風景〜氷帝篇。
<冒頭文企画連動SS>



 猫ふんじゃった…
 跡部から届いたメールのタイトルに、宍戸は顔をしかめる。
「どうしました?」
 隣を歩く鳳が心配そうに尋ねたが、黙って首を振って、宍戸はメールの受信ボタンを押した。
 部活終了後も残って遅くまで練習をして。
 帰路につくころには日はすっかり暮れて。
「……。」
 何も答えない宍戸に鳳は小さく瞬きを繰り返すと、視線を前に向けた。
「……激あほだぜ。」
 唐突な宍戸の声にびくっと肩をふるわせて。
「……あの。宍戸さん?」
 おそるおそる声を掛ければ。
「……ああ、悪ぃ。跡部からあほなメールが来ててな。」
 返信を打ちながら宍戸はようやく事情を説明しはじめた。

送信者:跡部景吾
タイトル:猫ふんじゃった…
本文:何をだ?

「これはいったい?」
 宍戸から示された跡部のメールは、鳳の理解をはるかに越えていて。
 携帯を宍戸の手に返しながら、鳳はおろおろと尋ねた。
「猫ふんじゃったっていう曲があるだろ?」
「え。あ。はい。」
「跡部はあの歌で、猫が何を踏んだのか気になったらしい。」
「……猫が何を踏んだのか、ですか?」
「おう。でもあれ、猫を踏んじゃったっていう歌だろ?」
「そうだと思います。」
 同意をしながらも、鳳はふとその根拠がないという事実に気づいた。もしかしたら猫が何かを踏んだのかもしれない。
 駅へと向かう夜の道は、街灯が明るくて星さえ見えず、二人の足音ばかりがやけに耳に付いた。

送信者:宍戸亮
タイトル:Re 猫ふんじゃった…
本文:猫がだろ。長太郎もそう言ってる

 宍戸は手短に跡部の誤りを指摘するメールを送った。その後、鳳と宍戸が別れるまでの二十分ほどの間、跡部からの返信は来なかった。
 二人はそのまま足早に家路をたどり、それぞれの家に帰っていく。
 鳳の胸に、猫が何か踏んじゃったんだったらどうしよう?という微妙な不安を残して。


 翌朝、鳳はメールの着信音で目が覚めた。
 送信者は宍戸。
 時計を見ればまだ6時を5分ほど過ぎた時刻で。
 朝練があるにしても、ずいぶん早い。
 いったいどうしたんだろうと、鳳は慌てて受信ボタンを押した。

送信者:宍戸亮
タイトル:起きてるか?
本文:跡部からのメールは気にするな

 うーん?
 まだ覚醒しきらない頭で、鳳は懸命に考えた。昨日の夜の謎のメール、まだ続いていたのだろうか?
 そして数秒後。
 もう一度着信音が響いて。

送信者:跡部景吾
タイトル:真実
本文:猫ふんじゃったというのは、滝が若気の至りで未来の世界のネコ型ロボットを踏んだ歌だ。腹にポケットがついていて竹子豚はありえない。猫耳やバニーちゃんは大丈夫だ

 何度読み返しても意味が分からないので、返事の書きようもないが、気にするなと言われても気になってしまう。鳳は少し早めに家を出て、部室で直接宍戸に話を聞くことに決めた。

 しかし部室に着くまでもなく。
「長太郎!」
 氷帝の最寄り駅の改札を出ると、後ろから声を掛けられて。
「おはようございます。あの。」
「今朝、跡部からメール来たか?」
「はい。あの。あれって。」
 通学時刻には少し早い。それほど人通りの多くない夏の道に、二人の影が色濃く落ちる。宍戸は鳳から目をそらし、小さく首を振った。
「さっぱり意味が分からねぇ。」

 部室の扉を開ければ、すでに滝や忍足、向日、芥川が顔を揃えていて。
 お互いの携帯を覗きながら、「おお!」とか「ああ!」とか「やるねー!」とか頷きあっている。
「何やってんだ?」
「あ。宍戸。良いところに来たねー。宍戸の携帯があったら完成かなー。」
 レポート用紙を持った滝が微笑んで。
「完成って何だよ?」
「昨晩の跡部メールの全真相。気にならん?」
 シャーペンをくるりと回しつつ、忍足がメガネを光らせた。
 なるほど。昨日、やはり跡部は他の連中ともメールのやりとりをしていたのか。それぞれのやりとりを時間順に並べたら……確かに跡部が何を考えていたのかわかるかもしれない。
「携帯、見せろ〜!!」
 向日が突撃してくる。
 普段なら向日に携帯を貸すなど怖くてやりたくないが、今日ばかりは好奇心が勝った。
 宍戸は向日に携帯を手渡し、向日はぽいっと滝に携帯を投げた。
 そして。
 全真相が今明らかになる。


跡部景吾→宍戸亮
  タイトル:猫ふんじゃった…
  本文:何をだ?

宍戸亮→跡部景吾
  タイトル:Re 猫ふんじゃった…
  本文:猫がだろ。長太郎もそう言ってる

跡部景吾→宍戸亮
  タイトル:Re Re 猫ふんじゃった…
  本文:猫が猫を?

宍戸亮→跡部景吾
  タイトル:Re Re Re 猫ふんじゃった…
  本文:誰かが猫を

跡部景吾→宍戸亮
  タイトル:Re Re Re Re 猫ふんじゃった…
  本文:誰が?

宍戸亮→跡部景吾
  タイトル:Re Re Re Re 猫ふんじゃった…
  本文:滝

宍戸亮→滝萩之介
  タイトル:悪い
  本文:「滝か忍足にでも聞け」ってメール書こうとして、間違えて変なメールを跡部に送った
     跡部に何か言われても適当に流してくれ

跡部景吾→滝萩之介
  タイトル:本当に
  本文:お前がふんだのか?

滝萩之介→跡部景吾
  タイトル:Re 本当に
  本文:昔の話だけどねー

滝萩之介→宍戸亮
  タイトル:Re 悪い
  本文:適当に流してみたよー(^^)

宍戸亮→滝萩之介
  タイトル:Re Re 悪い
  本文:ありがとう

跡部景吾→滝萩之介
  タイトル:Re Re 本当に
  本文:なぜだ?

滝萩之介→跡部景吾
  タイトル:うーん
  本文:若気の至りかなー

忍足侑士→跡部景吾
  タイトル:明日
  本文:日直やから朝練早く抜けるけどよろしく

跡部景吾→忍足侑士
  タイトル:Re 明日
  本文:踏んだ後、大丈夫だったか?

跡部景吾→滝萩之介
  タイトル:Re うーん
  本文:日直なら好きにしろ

忍足侑士→跡部景吾
  タイトル:何が?
  本文:大丈夫って何の話?

跡部景吾→忍足侑士
  タイトル:Re 何が?
  本文:猫

忍足侑士→跡部景吾
  タイトル:猫なら任せて
  本文:めっちゃ大丈夫。特に猫耳とかええな

滝萩之介→宍戸亮
  タイトル:跡部に
  本文:日直なら好きにしろって言われたー(^_^;

宍戸亮→滝萩之介
  タイトル:お疲れ
  本文:どんな話になってんだ?(笑

跡部景吾→忍足侑士
  タイトル:Re 猫なら任せて
  本文:猫耳?

忍足侑士→跡部景吾
  タイトル:Re Re 猫なら任せて
  本文:バニーちゃんもええで

忍足侑士→向日岳人
  タイトル:跡部
  本文:跡部が猫ネタのメール送って来た。何かあったん?知ってる?

向日岳人→忍足侑士
  タイトル:猫ネタ?
  本文:知らないよ。猫ネタってドラえもん?

忍足侑士→向日岳人
  タイトル:ドラえもん(笑)
  本文:それやったら、猫耳の話とか振るんやなかったな(笑)

跡部景吾→忍足侑士
  タイトル:Re Re Re 猫なら任せて
  本文:バニー?誰?

向日岳人→忍足侑士
  タイトル:跡部かわいそー!
  本文:ドラえもんに耳の話しちゃいけないんだぞ!
     優しい俺が傷心の跡部を癒してやろうっと!!

向日岳人→跡部景吾
  タイトル:僕ドラえもん!
  本文:俺、ドラえもん大好き!

跡部景吾→向日岳人
  タイトル:Re 僕ドラえもん!
  本文:お前は向日?

向日岳人→跡部景吾
  タイトル:俺は向日岳人様!
  本文:未来の世界のネコ型ロボット大好きな向日岳人様ですよ!

忍足侑士→跡部景吾
  タイトル:なんというか
  本文:あんまり気にするなや

跡部景吾→向日岳人
  タイトル:Re 俺は向日岳人様!
  本文:ロボット?

向日岳人→跡部景吾
  タイトル:かわいいよな!
  本文:おなかにポケットついてるなんてすげぇよな!さすがロボット!

跡部景吾→向日岳人
  タイトル:Re かわいいよな!
  本文:ロボットは踏んでも大丈夫なのか?

向日岳人→跡部景吾
  タイトル:待て!!
  本文:踏むなよ!!(爆笑)

向日岳人→忍足侑士
  タイトル:超笑える!!
  本文:跡部面白すぎ!!ドラえもん踏むらしい!!(爆笑)

向日岳人→芥川慈郎
  タイトル:聞いてくれ!!
  本文:跡部はドラえもんを踏むつもりだ!!(爆笑)

芥川慈郎→向日岳人
  タイトル:マジマジ?!
  本文:すげぇ!すげぇ!さすが跡部!!超かっこE

芥川慈郎→跡部景吾
  タイトル:すげぇ!
  本文:俺も踏みたい!!タケコプターも欲しい!!

跡部景吾→芥川慈郎
  タイトル:Re すげぇ!
  本文:竹子豚?

忍足侑士→向日岳人
  タイトル:踏むんか?
  本文:跡部は何がしたいんや?(笑)

芥川慈郎→跡部景吾
  タイトル:豚!!
  本文:竹子豚って!!ありえねぇ!!跡部、マジ大好き!!

跡部景吾→向日岳人
  タイトル:Re 待て!!
  本文:踏んだのは滝

向日岳人→滝萩之介
  タイトル:爆笑
  本文:お前、ドラえもん踏んだんだって?(爆笑)

向日岳人→跡部景吾
  タイトル:滝かよ!(爆笑)
  本文:人は見かけによらないんだな!!(爆笑)

滝萩之介→向日岳人
  タイトル:え?
  本文:気付かなかったけど、踏んだのかなー(^^ゞ

滝萩之介→宍戸亮
  タイトル:なんだか
  本文:俺がドラえもん踏んだコトになってるみたい(T_T)

宍戸亮→滝萩之介
  タイトル:Re なんだか
  本文:激わけわからねぇな。あんま気にするなよ(笑

滝萩之介→宍戸亮
  タイトル:おやすみ
  本文:そうするよ。もう寝ようっと

宍戸亮→滝萩之介
  タイトル:俺も
  本文:そろそろ寝るか。おやすみ

跡部景吾→宍戸亮
  タイトル:おはよう
  本文:猫ふんじゃったというのは、滝が若気の至りで未来の世界のネコ型ロボットを踏んだ歌だ。腹にポケットがついていて竹子豚はありえない。猫耳やバニーちゃんは大丈夫だ。真実が明らかになった。鳳にも伝えておいてやる

宍戸亮→跡部景吾
  タイトル:Re おはよう
  本文:激意味がわからねぇんだが


「……宍戸さん。」
「何も言うな。長太郎。跡部が納得したらそれで良いんだ。」
 氷帝の常識人ペアがレポート用紙を前に溜息をついているとき。
 がたり、と大きな音を立てて部室の扉が開き。
「なんだ?お前ら早いな。」
 驚いたように中の面々に目をやる跡部に。
「おはよ〜!!」
 芥川が勢いよく飛びついた。







☆☆15万ヒット記念☆ぷち企画☆☆
   <今回のいただき冒頭文>
猫ふんじゃった…

どうもありがとうございました!




ブラウザの戻るでお戻り下さい。
つうか、すごいややこしい話でごめんなさい!