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マイペースで行こう!
~鳳@六角篇。

<冒頭文企画連動SS>



「あ~、どうしようどうしよう・・・」
 声に出している自覚はなかった。
 ただ、呆然と立ちつくし、鳳は六角のテニス部部室のドアを見つめていた。ドアの横には古ぼけた「六角中テニス部」という看板。大きくて厚くて、六角の長い歴史をずっと見守っているような、どっしりとして立派な木製の看板であったが、いかんせん年代物らしく、黒ずんで角などはぼろぼろになっている。
「あ~、もう、どうしようどうしようどうしようどうしよう……。」
「どうするのさ?くすくす。」
 楽しそうな声に振り返ると、帽子を目深にかぶった長髪の少年が鳳を見上げていて。
「え?あ?あの……。」
 うろたえて、口ごもれば、今度は横から。
「相談しよう。そうしよう。単子葉……ぷっ!!」
 髪をばりばりに固めた長身の少年がくだらないダジャレを口にして。
「面白くねぇんだよっ!!」
 間髪入れず、跳び蹴りツッコミが入る。
「あ、あ、あの……。」
 鳳はますますうろたえてしまい。
 そこへ救いの手と言うべきか。
「氷帝の鳳くん、だね?六角にようこそ。」
「どうしたのね?遊びに来てくれたのね?」
 爽やかな声と穏やかな声がかかる。
 声の主二人の柔らかい表情に、ようやく少し落ち着いて深呼吸した鳳は、自分の目的を思い出した。
 そうだ。俺はこの六角のテニス部を倒さなくてはいけないんだ……!
 そして、意を決して。
 鳳は口を開く。

「すみません……!俺と勝負してください!!」

 一瞬、六角のテニス部の面々はびっくりしたように顔を見合わせ。
「あー……ま、部室に入って話そうか?」
 さっき跳び蹴りツッコミをぶちかましていた長身の男――それでも鳳の身長と同じくらいわけだが――が、鳳の肩を抱くようにして、のんきに鳳を部室へと誘った。

 勝負を挑みに来た鳳に対し、平然と部員たちは自己紹介をして。
「ろくなモノがないけど。ごめんね。」
 がさがさと黒羽の持っていた鞄をあさって、佐伯がプリッツを発掘し。
「まぁ、どうぞ。」
 鳳に薦めながら、自ら一本かじった。
「え。あ。すみません。」
 薦められたらいただかなきゃ悪いかな、と鳳は慌てて手を出して、受け取って。
 ぱりん、と一本口にする。
 窓の外は土砂降りの雨。今日の部活は休みなんだという。それでも部員たちは何するわけでもなく部室に集まってきたらしい。
 別に用はないんだけど。
 そう言って木更津はくすくす笑った。
 部活なくても部室来て良かったのね。鳳くんに会えたのね。
 嫌みでも何でもなくおっとりと言う樹。
「で、どうしたのね?」
 プリッツに手を伸ばしながら、問いかける。
「実は……。」
 話のきっかけをもらって、鳳はようやく事情を説明し始めた。
「先日……天根くんが……氷帝で準レギュラー相手に非公式に試合をやって……うちの連中、ぼろ負けして……百人も負けたらしくて。跡部さんがそれ聞いて激怒して……。六角レギュラーの天根くんが氷帝準レギュラーを百人斬りしたなら、仕返しに六角の準レギュラーを百人斬りして、証拠に六角の看板奪ってこいって……できなきゃ、帰って来るなって、俺、言われて……だから、すみません。準レギュラーの人と勝負させてください!」
 きまじめに頭を下げて頼み込む鳳に、黒羽が困ったように言った。
「悪ぃ。その頼みは聞けそうにねぇ。」
「そこを……そこを何とかお願いします!!そうじゃないと俺、氷帝に帰れないんです!!」
 鳳は更に頭を下げる。その様子に樹が小さく息を吐く。
「鳳くん……六角には部員が百人もいないのね。」
 はっとして顔を上げる鳳。
「……え?」
「ぶっちゃけ、ここにいるメンバーとあと数人しかいないんだよ。」
 あまり自慢にもならなそうなコトを爽やかに笑いながら告げる佐伯。
「そういや、剣太郎は?くすくす。」
「雨で部活ないから、今日はどこか行くって言ってたのね。」
 そんな……そんな人数しかいなくて、全国レベルって……?
 鳳には信じられなかった。だが、目の前にいる気のよさそうな人たちが、そんな嘘をつくなんて思えない。
 ざぁざぁと激しい雨の音が、窓の外から聞こえてくる。

「さて、ダビくんよ。お前、自分がどれだけ鳳くんに迷惑かけてるか、分かってんのか?」
 ぼふっと、天根の頭を押さえつける黒羽。
「……うぃ。ごめん。」
 突っ伏すような姿勢で天根は馬鹿正直に、鳳に謝ったが。
 六角準レギュラー百人斬りができないと気づいてしまった鳳は、呆然とするばかりで。
「とにかくうちの看板持って帰れば良いんだろ?くすくす。勝負なんかしなくてもいいんじゃないの?」
「でも……勝負してもらわないと……!!」
 木更津の提案を、きまじめな鳳は首をぶんぶん振って否定した。
 六角のメンバーは顔を見合わせる。
「まぁ、なんだ。人数少ないから、準レギュラー百人斬りとやらはできねぇけど、レギュラーと総当たりとかだったら結構簡単にできるんだぜ?」
 フォローするように黒羽が言えば。
「そうだね。今いる連中と総当たりして勝てば、レギュラーの大半を撃破したコトになるよ。」
「それならきっと跡部も文句はないのね。」
 しゅぽー!と樹が胸を張る。
 確かにそうかもしれない。準レギュラー百人斬りができなかったので、レギュラーと総当たりしてきました、と言えば許してくれるかもしれない。
 あまり自信はなかったが、それでも最善を尽くすしかない。鳳は小さくうなずいた。
「……よろしくお願いします。」
 再び頭を下げた鳳の肩を、黒羽がぽんぽんと軽く叩いた。

「……看板あげるためには、看板がいる……?」
 ふと気付いたように天根が口を開いて。
「そうだね。あげようにも、うちの部、看板なんてないもんね。くすくす。」
 木更津も頷いて。
「じゃあ、まずは鳳くんにあげる看板を作るのね~。」
 樹が楽しそうに立ち上がる。
「おう。確かその辺に去年の文化祭のとき余ったベニヤ板があったよな!」
 部室の隅っこのぐちゃぐちゃな道具入れを覗き込んで、黒羽が何かを探し始める。
「待てよ。バネ。ベニヤ板で作ったりしたら、大きくて持ち運びに不便だろ?」
 佐伯が黒羽を止めて、周囲を見回した。
「……良いモノ、ある。」
 ぼそりとつぶやいて立ち上がった天根は、黒羽を押しのけて、道具入れに頭を突っ込んだ。ごそごそと激しい音がして。髪にほこりを付けたまま天根がぴょこんと顔を出す。
「……あった。かまぼこ板。」
 嬉しそうに手の中の小さな板をみんなに見せて。
「くすくす。良いの?ダビデ。それ、お前のネタ用の小道具だろ?」
「……良いの。俺のせいで、鳳くん困ってる。俺のもんで鳳くんが助かるなら……あげるの当たり前。」
 名残惜しそうに何度もかまぼこ板を見つめ直したりしながら、天根は部室のテーブルの上にかまぼこ板をそっと載せた。
「良し。よく言った!ダビデ!!」
「大人になったのね~。さすがは中二なのね~。」
 周りの連中が寄ってたかって天根を褒める。
 鳳には理解できなかった。
 ベニヤ板が放置されているのも、かまぼこ板が発掘されるのも。
 ここはテニス部の部室でしょう?
 かまぼこ板を人にあげるコトを決めたくらいで、褒めてくれる先輩も理解できない。
 そして何より。
 勝負する前から負けるつもり満々で、看板を用意している六角の面々が理解できなかった。
 だって……負けたら……おしまいでしょう?
 敗者には用はない。勝利以外、意味はない。
 それが部活でしょう?

「字きれいなのは亮だな。書くか?」
「くすくす。良いよ。将来、すごい高く売れるかもね。」
 笑いながら、木更津がその辺に落ちている油性ペンを拾い上げ。
「……六、角、中、学、校、テ、ニ、ス、部。」
 ゆっくりと一文字ずつ丁寧に書いてゆく。
「あ。ごめん。テニヌ部になっちゃった。くすくす。」
 かまぼこ板では油性ペンでも少しにじむらしい。木更津のきちっとした楷書の文字は、少しだけにじんで、部の名前を怪しげなモノにした。
「ごめんな。鳳くん。今日から俺たち、テニヌ部名乗るから、許してくれよ。」
 全く気にしない様子で快活に笑う黒羽。
「テニヌ部副部長、佐伯虎次郎です!よろしく!(爽)」
 唐突に謎の自己紹介をぶちかます佐伯。
「色の白いの七難隠すとか言うけど、サエの爽やかさは七難隠すどころじゃなくて、もう詐欺の域なのね。」
 にこにこと樹が毒を吐く。
 鳳には本当に理解できなかった。
 でも。
 居心地が悪いわけではなかった。何だか、悲しくなるほど温かい気分だった。

「さて、勝負するのね。鳳くん。」
 言いながら、樹が部室の隅から裏紙を拾ってくる。
「これ、バネの数学のプリントなのね。でも、去年のなのね……。」
「マジでか?」
 苦笑いしながら、舌を出す黒羽。
 なんでそんなモノが部室に放置されているんだろう。そんなモノが監督に見つかったら、緊張感が足りないと怒られて、下手したらレギュラーから外される。……氷帝だったらば。
 ふぅっと鳳は深呼吸をした。
 でも、ここは氷帝じゃない。

「記念すべき一回戦は……天根vs鳳、でいいかな。」
 佐伯が爽やかに問いかける。
 緊張した面持ちで鳳と天根がうなずいた。
「じゃあ、樹ちゃん、書いておいて。一回戦、天根vs鳳。ダビデが良心の呵責に耐えかねて試合放棄した結果、鳳くんの不戦勝。」
「分かったのね。」
 きょとん、とする鳳。
 天根は別に驚いた様子もなく静かに樹の手元を見つめている。鳳は知らない。天根が「りょうしんのかしゃくって何だろ~?」などとのんきに悩んでいるなどと言うことは。
「あの……勝負は?」
「勝負?だから君の不戦勝だってば。」
 佐伯は爽やかに、しかし反論を許さぬ口調でそう言い切った。

「二回戦は。」
「俺がやる。」
 少し離れたところで、椅子に足を組んで座っていた黒羽が、小さく挙手をして名乗りを上げる。
「だが……雨の中ではテニスをするなというのがオジイの遺言なもんでな。遺言守らないと、オジイ怖いから、悪いがテニス以外の勝負をさせてもらう。いいか?」
 遺言って言ったって、「オジイ」という方はご健在なんじゃないだろうか?と、鳳は思ったが、ここは六角であって氷帝ではない、と思い直す。きっと「遺言」という日本語の意味さえ、うちとこことでは違うんだ。
「あの……室内練習場とかは?」
「氷帝にはんなモノあんのか?!」
 おそるおそる尋ねた鳳に、心底驚いたらしい黒羽が問い返す。
「あ、す、すみません……!」
 うろたえて謝ると、黒羽は目を見開いたまま。
「すげぇ学校もあるもんだなぁ。」
 とつくづく感心したように唸った。

「で、勝負だが……○×ゲームにしねぇか?」
「……はぁ。」
 なんでテニス部の……いや、テニヌ部のレギュラーを各個撃破するときに、○×ゲームなんだろう?と思わないでもなかったが。
 ここは六角であって氷帝ではない。鳳はそう思って、うなずいた。郷に入っては郷に従えって、この前、国語で習ったじゃないか。
「言っておくが、鳳くん……俺は……弱いぜ?」
 自慢げにそう言い放つ黒羽。
 案の定、というべきか。
 十秒後には、勝負がついていた。

「鳳くん、二回戦勝利なのね。」
 樹が勢いよく鳳の名前に○を付けて、しゅぽー!と息を吐いた。

「次は俺の番かな。くすくす。」
 木更津が名乗りを上げる。
「俺もオジイの遺言を守らなきゃいけないから、テニスでの勝負は遠慮させてもらうよ。……にらめっこで勝負ということでどう?」
 穏やかにそう提案されて、鳳は流されて同意してしまい。
「手加減しないで良いよ。さぁ、勝負だ。くすくす。」
 勝負が始まる前からくすくすと笑っている人を相手に、どうやって勝負すれば良いんだ、と思いながら。
 鳳はそれでも一生懸命、にらめっこに参加した。

「さすがは亮なのね。この連敗記録はきっとギネスに載るレベルなのね~。」
 裏紙にかりかりと鳳の勝利を書き入れつつ、樹が感じ入ったように言えば。
「何しろ、淳だって俺には負けたことがないくらいだからね!くすくす。」
 なんでか、負けた木更津はいたく誇らしげに、鳳を振り返ってにっこり笑った。

「鳳くん、三勝目、と。」
 樹の書いたメモを覗き込んで、佐伯が満足げにうなずいて。
「じゃあ、次は……。」
 俺かな、と言いかけたまま、佐伯はふと言葉を切った。
「……どうしたの?鳳くん。」
「え?」
 まっすぐに、心配そうに、佐伯が鳳を見つめる。佐伯だけじゃない。黒羽も木更津も樹も天根も。みな、少し不安そうに鳳を見つめている。

 なんで。
 なんで、六角の人たちはこんなに優しいんだろう。
 なんで、よそ者の俺のために、わざわざみんな頑張って負けてくれるんだろう。
 俺が氷帝に帰れるとか、帰れないとか、そんなの、ここの人たちには関係ないのに。

「鳳くん?」

 きっと氷帝のみんなは俺のことなんか、忘れているに違いない。
 宍戸さんは、六角で百人斬りできなかったら「激ダサだぜ」って怒るかもしれない。
 向日さんとか芥川さんとかは、きっと俺のコトなんかどうでも良いんだろうし。
 跡部さんなんか、口も聞いてくれないに違いない。

「ねぇ……鳳くん?」
 温かい声。
「あのね。鳳くん、もう、六角の子になっちゃえばいいよ。」
 ぼそりと天根が言う。
「良いな!それ!!そうしようぜ!!」
 黒羽が勢いよく天根の背を叩いた。
「だったら俺の家から通いなよ。淳の部屋が空いているから。くすくす。」
 木更津もその提案に乗って。

 そのとき。
 木更津の携帯が鳴った。
「あれ?知らない番号からだな。くすくす。誰だろう?」
 小首をかしげながら通話ボタンを押す木更津。
 間髪を入れず、部室全体に聞こえるくらいの大きな声が、携帯から響いた。
『おい!六角の木更津か?!そこに長太郎いるか?!』
 鳳がびくりと肩をふるわせる。
「……君は誰なわけ?」
 今までの笑い上戸な木更津からは想像もつかないような不機嫌な声。
 鳳はもう一度びくりと肩をふるわせた。
『あー。あの、悪ぃ。俺は氷帝テニス部の宍戸だ。えっと……そこに鳳長太郎はいるのか?』
「ふーん。宍戸ね。俺、お前に携帯の番号教えた記憶ないんだけど。いきなり電話してその態度ってどういうコト?失礼じゃない?」
 つっけんどんな木更津の口調。鳳はおびえたように、木更津とその携帯電話を交互に見て。
 小さく笑って、黒羽が鳳の肩に手を置いた。

『あー。その、いきなり電話して悪かった。あのな、とにかく六角の誰かに連絡取りたくて……えっとその何を話せば……あー!もう、分かった!最初から全部話す!!あのな、最初、跡部が電話かけるって言ったんだけどよ、あいつ、他校生は青学の手塚の電話番号しか知らねぇっていうから、手塚に電話かけて、手塚は他校のヤツの番号なんか知らねぇって言って、大石の番号だけ教わって、跡部じゃ埒があかねぇから、そこから向日が電話代わって、大石も六角のヤツの携帯番号は知らなくて、他校生の連絡先詳しそうな山吹の南の電話番号聞いて、南から山吹の渉外担当のファイル預かってる壇ってヤツの番号聞いて、壇から何でか千石の番号聞いて、そこで向日の携帯の充電が切れて、んで、忍足が千石からとっておきの秘密情報とか言って不動峰の橘の妹の番号聞いて、んな妹の番号なんか聞いて意味あるかぁ!ってそこで俺が切れて、まぁ、それは良くて、橘の妹から神尾の番号聞いて、神尾から青学の桃城の番号聞いて、桃城から乾の番号聞いて、そこで忍足の今月の無料通話分使い切って、そこからジローが電話して、乾からルドルフの観月の番号聞いて、ジローが観月に電話したら電波悪かったのかなんでかいきなり切れちまって、俺が電話掛け直して、観月からお前の弟の番号聞いて、お前の弟からお前の番号聞いたんだよ!』
 宍戸は一気に言い切った。

「ふーん。それで?」
『でな……うちの後輩の鳳長太郎、そっちに行ってねぇか?』
「なんでそんなコト聞くのさ?」
『あいつ、俺らがからかって、六角で百人斬りするまで帰ってくんなとか言ったら……なんか真に受けちまって、携帯も何も持たずにそのままマジでそっちに行っちゃったらしくて……。悪いけど、そっちで見かけたら、百人斬りなんかどうでも良いから、とっとと帰って来いって伝えておいてくれねぇか?』
 途中で宍戸は言葉を選んで、何度もつっかえながらそう言って。
『あいつ……まじめすぎるぐらいまじめで、ちょっと気の小さいヤツだからよ。俺らの言葉、気に病んで、うろたえてるに違いねぇんだ。』
 ゆっくりと、そう言って。
『だから……頼む。』
 低く、そう付け足した。
「そう?でも、悪いけど……鳳くんは六角の子になるって決めちゃったんだよね。手遅れだったみたいだよ?」
 くすくすと笑いながら木更津。そして、視線を鳳に向ける。その目は穏やかに微笑んでいて。
 どうしよう?
 そう問いかけているようで。
 携帯の向こうは完全な無音状態になっている。
 息を呑んだきり、宍戸は言葉が見つからないらしい。
 ねぇ、君の先輩たちは、みんな、君のコト、心配しているみたいだけど?
 さぁ、どうしよう?

「あの!俺、帰ります!!」

 鳳ががたりと椅子を引いて立ち上がった。
 くすり、と小さく声を立てて木更津が笑う。
「聞こえた?宍戸。」
『……ああ……ありがとな。』
 携帯の向こうからは、安堵したらしい宍戸のため息のような声。
 そして。
 わぁわぁと言う周囲の歓声らしき声。
 きっと、何人も集まって、携帯ごしに聞き耳を立てていたんだろう。
 鳳は俯いた。

「おみやげにあげるのね。鳳くんはもう六角テニヌ部の仲間だから、好きなときに遊びに来るのね。」
 樹にかまぼこ板の看板を手渡され。
「じゃあまたね。」
 爽やかに手を振る佐伯。
 寂しそうに握手を求めてくる天根。
「この前はごめんね。……でも、また来てね。」
 そう言って、もう一度握手を求め。
 そんな天根の頭を、黒羽がぽんとはたいた。

 看板がないとか。
 オジイの「遺言」でテニスができないとか。
 嘘をつくのが下手で。
 でも、とても誇り高くて温かい六角テニヌ部の面々と別れて。
 鳳は何度も何度も振り返りながら、六角を後にした。
 振り返るたびに、目に入る部室の古くさい看板は、やはり誇り高く温かくて。

 鳳の背が見えなくなったころ、ぼそりと黒羽が呟いた。
「……考えてみるとな。うちの部、看板あるんじゃねぇのか?」
 部室のドアの横を振り返って佐伯が目を丸くする。
「……ホントだ!作る必要なかったね。」
 しみじみと見上げる樹。
「でも、こんなぼろいの、鳳くんにあげるのは申し訳ないのね~。」
 木更津はくすくすと笑った。
「そうだね。それにかまぼこ板の方が持ち歩きやすいしね。くすくす。」
 でも、鳳くんはテニヌ部の仲間だから、この看板よりかまぼこ板の方が良かったはずだ!と天根は考えて、一人何度もうなずいた。
「うぃ。」

 なんというか。
 嘘をつくのが下手な、というよりも。
 六角の面々は、この通り、ただの天然ボケなわけだが。

「それにしても、剣太郎のヤツ、どこ行ったんだろな。」
「せっかく鳳くんが来てくれたのに、残念だったのね~。」

 鳳が消えた窓の向こう。
 土砂降りの空を夕闇がゆっくりと包み込んでゆく。
  







☆☆15万ヒット記念☆ぷち企画☆☆
   <今回のいただき冒頭文>
「あ~、どうしようどうしよう・・・」

どうもありがとうございました!



氷帝&六角のちょっといい話になってしまいました。
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