参観日〜氷帝篇。
<冒頭文企画連動SS>
銀河の彼方から宇宙人アトーベが現れた!!
「俺様は美技星人アトーベである!!名前はまだない!!」
お昼寝星人ジローは眠っている!!
コマンド?部室の片隅で芥川がルーズリーフを広げて唸っている。
珍しいな。
昼休みに部室で昼寝でもしようとやってきた宍戸は、見慣れた先客が覚醒しているコトに少し驚きを覚えた。そして。
何書いてるんだか。
つい興味を引かれて、芥川の手元を覗き込んでしまい、その瞬間、猛烈に後悔する。
「……なんだ。それは。」
「あ!!宍戸!!」
満面の笑みで振り返る芥川。
「小説書いてんの!!すげーっしょ!!」
胸を張って、ルーズリーフを宍戸に押しつけた。そこに書かれていたのが、冒頭のあれである。部室は初夏の蒸し暑い空気に満ちている。
暑いとはいっても、まだクーラーは入れられない。
軽く汗ばんだ手で、芥川のルーズリーフを受け取って。
「……小説なのか?これ。」
「うん!!参観日に廊下に貼り出す『将来の夢』って作文あるでしょ!!それに、俺、『名前が小説家っぽいから小説家になりたいです!!』ってだけ書いたら、先生に『一行だけじゃだめ』って言われて、作文めんどくさいから小説書いて提出することにした!!」
きらきらと目を輝かせる芥川。
「どう?どう?俺の小説!!」
宍戸は軽い目眩を感じながら、一応は、その「小説」とやらに目を通してみた。「……名前はまだないって、アトーベってのが名前なんじゃねぇのか?」
宍戸の指摘に、芥川はびっくりしたように目を見開いて。
「すっげぇ!!すっげぇ!!宍戸、天才!!超頭E!!」
叫びながらシャーペンを握りしめた。
「よっし!!じゃあ、ここで激ダサ星人のシシード登場だ!!」
「おい!何だよ!!激ダサ星人シシードって!」
「本当はモデルいるんだけど、秘密!!教えてあげません!!」
上機嫌に芥川はシャーペンを走らせる。そこへ。
「何やってんだ?ジローと宍戸!!」
部室の扉を勢いよく開き、向日が飛び込んできて。
後は野となれ山となれ。宍戸は逃げ出すことにした。
あんなモノ、参観日に貼り出すコトになるのかよ。親が見るのかよ。
と、思わないでもなかったが、芥川と向日の連合軍を止めるコトは自分にはムリだとあっさり悟って、宍戸は諦める。
諦めの良さが自分の良いところだ。うん。そうだ。これは俺の長所なんだ。
宍戸は自分を慰めてやりながら、椅子を並べてごろりと横になった。だが。
「小説書くなんて、すげぇじゃん!!ジロー!!」
「だろ〜?!」
「俺も出たい!!」
「うん!ムーンサルト星人のムカーヒ参戦だ!!マジかっこE!!」
はしゃぎ声はどうしたって聞こえてくる。
宍戸は目をつぶって、一生懸命、他のことを考えようとした。「そろそろメガネ星人オシターリも出てくるよな!」
もう、いい。勝手にやってくれ。
やっぱり教室に戻ろう、と思い立って、立ち上がった宍戸の耳に、芥川の声が響く。
「それ、超楽C!!ノーコン星人オートーリも出そうぜ!!」
ちょっと待て……!
宍戸も、自分たちがネタにされるだけなら仕方ないとは思っていた。
だが、後輩まで巻き込むコトはないんじゃねぇか?
机に向かう向日と芥川の楽しそうな横顔に目を向ける。
しかし。
「オートーリは良いやつの役な!」
「そうだよな!!オートーリは良いやつだよな!!」
元気いっぱい、芥川と向日が合意しているのを聞いてしまい。
「じゃあ、オートーリは良いやつだから王子な!!」
「うん!オートーリは良いやつだから、ノーコン星の王子の役だよな!!」
まぁ……いいか。
宍戸はあっさり諦めるコトにした。
窓の外には爽やかな青葉が風に揺れていた。教室に戻った宍戸は、滝と忍足を捕まえて。
さっき部室であったコトを事細かに語った。
話を聞いた二人は。
「へー。ジローと岳人ってば小説書いてたんだ。やるねー。」
「楽しそうやん。」
などと言いながらも。
「ま、学校に提出するのはまずいやろな。」
「将来の夢が小説家ってのは良いと思うけどねー。」
宍戸の気持ちを汲んでくれたのだろうか、そう笑った。放課後。
部室に入った宍戸はほっと安堵した。
部室の壁には芥川慈郎大先生の大作が、向日岳人画伯の素晴らしい挿絵とともに貼り出されていて。
部室にそれが貼り出されているということは。
参観日にそれが廊下に貼り出されることはない、というコトであって。
「こんなすごいモノ、提出したり廊下に貼ったりするのはもったいないからねー。」
「そや。部室に貼った方がみんながゆっくり読めてえぇしな。」
滝と忍足の言葉に、芥川と向日がちょっと誇らしげに笑っている。
どうやら、彼らは宍戸にはできない芸当で、大作家たちを上手く懐柔してくれたものらしかった。
そして。
その隣では日吉が。
きぃぃぃぃん!
と「恥じらう水餃子」の構えで、貼り紙に見入っている。「……宍戸さん。あれ、何ですか?」
「見るな。気にするな。長太郎。世の中にはいろいろあるんだよ。」
しきりに貼り紙と日吉の様子を気にする鳳を宥めながら、宍戸はただ黙々と着替えて。
「とっとと練習、行くぞ!」
「わ!早いですね。宍戸さん。」
鳳をせかせて、部室を後にした。「あーん?なんだ?これは。」
跡部もその貼り紙に気付いたのだが。
「……?」
内容を全く理解しないままに、読むのを諦めた。
樺地は思った。
芥川さんの字が読みにくい……というか、個性的な文字で良かった!
と。ちなみに。
芥川慈郎大先生作の小説は以下の如くである。
『ジロー物語』 芥川慈郎作・向日岳人絵銀河の彼方から宇宙人アトーベが現れた!!
「俺様は美技星人アトーベである!!名前はまだない!!」
お昼寝星人ジローは眠っている!!
コマンド?
激ダサ星人シシードが現れた!!
「アトーベが名前だろうが!!」
アトーベは激怒した!!
ジローは眠っている!!
ムーンサルト星人ムカーヒが現れた!!
「ねぇ、ジロー?こっち向いて?」
返事がない!!ただのお昼寝のようだ!!
メガネ星人オシターリが現れた!!
「儲かりまっか!!」
しかし何も起こらなかった!!
ジローは眠っている!!
ノーコン星人オートーリ王子が現れた!!
オートーリ王子はシシードを見つめている!!
ミス!!
見つめ合うと素直におしゃべりできない!!
オートーリ王子はまごまごしている!!
古武術星人ヒヨーシが現れた!!
「下克上!!」
ジローは目を覚ました!!
トンネルを抜けるとそこは雪国マイタケだった!!
降っても降ってもまだ降り止まず!!
夜の底が白く光った!!
しかし何も起こらなかった!!
おかっぱ星人タキーが現れた!!
季節はずれの雪が降ってる!!
「東京で見る雪国マイタケはこれが最後だねー!!」
と、寂しそうにタキーが呟く!!
祇園精舎の鐘の声!!
月は昇るし日は沈む!!
「なぁ、カバージ?」
アトーベは仲間を呼んだ!!
「うす!!」
うす星人カバージが現れた!!
カバージは凍てつく波動球を使った!!
「ばぁう!!」
しかし何も起こらなかった!!
落ち込んだりもしたけど、カバージは元気です!!
ヒヨーシは逃げ出した!!
しかし回り込まれてしまった!!
「なぁ、カバージ?」
アトーベは仲間を呼んだ!!
「うす!!」
返事がある!!ただのカバージのようだ!!
ジローは眠ってしまった!!
汚れっちまった悲しみに!!
ただあなたの優しさが怖かった!!
あどけない宇宙の話である!!―― 完 ――
☆☆15万ヒット記念☆ぷち企画☆☆
<今回のいただき冒頭文>
銀河の彼方から宇宙人アトーベが現れた!!
どうもありがとうございました!
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