これは、「ほくろ戦隊ダイブツダー!」シリーズの続編に当たるSSです。
キャラクターの関係が複雑ですので、できれば順にお読みくださいませ。
むしろ、これだけ読むと意味が分からない自信があります。はい。
全部読んだけど、よく分からんという方は(ごもっとも!)、
資料室(同窓/別窓)をご参照ください。
ほくろ戦隊ダイブツダー!
〜人呼んで風林火山!?
全く風の吹かない日であった。
耐え難い蒸し暑さとまではいかないにしても、五月末ともなれば夏の気配も色濃い。
「赤也。」
部活も終わって、顔を洗っていた切原に、柳が穏やかに声を掛ける。
「ふぁい。なんすか。」
タオルに顔を埋めたまま、返事をする切原に、一瞬、柳は笑って。
「今から幸村のところに見舞いに行くが、一緒に来ないか?」
「行くっす!」
ばさっとタオルから顔を上げて、切原は勢い込んで応じる。だって。幸村部長の病室には、どんな悪事をはたらいた成果なのか分からないが、膨大なお菓子の差し入れが積んであるのだから。おやつ、食べ放題だ。ブン太先輩じゃなくったって、行きたくないわけがない。
そこで。
切原は柳に連れられて、幸村のいる病院へと向かったのであった。
「幸村。調子はどうだ。」
軽くノックをして。「どうぞ?」の声に応えるかのように、柳が問いかける。
「ああ。調子は……まずまずかな。」
ベッドの端に腰掛けた幸村が儚げに笑って、病室の隅に置いてある丸椅子を指さし、二人に勧める。
鞄を床に放り投げ、丸椅子に跨るように座って、切原は幸村のふわふわした髪を見た。なんで俺ばっかりワカメと呼ばれて、幸村部長はワカメって言われないんだろう。
柳は鞄から何か小さな箱を取り出し、幸村に渡した。
「約束のモノだ。遅くなってすまなかった。」
幸村は両手でその箱を受け取って、手の中でくるりと回し。
「……見事なモノだな。赤也。お前も良く見ておきなさい。」
と真顔で告げた。箱のサイズは、厚さ5センチの文庫本と言ったら分かりやすいだろうか。両手にすっぽりと収まるサイズである。もちろん、側面には、柳の綺麗な文字で、「一日一悪☆神奈川県」「悪の秘密結社☆立海大附属」とある。
「ワルサー7号リアルフィールド☆スイッチだ。赤也。」
「ワルサー7号……リアルフィールド☆スイッチ……?」
箱には青、緑、赤、白の四つのボタンがあり、それぞれ「風」「林」「火」「山」と書かれていた。
「……真田スイッチってコトっすか?」
「よく分かったな。赤也。」
儚げに微笑んで、幸村が褒めてくれる。なんだかそれだけの言葉なのに、とても嬉しくて、切原はえへへと笑った。
「って!何なんすか。これ。」
褒めてもらったものの、よく考えたら、これがなんだかさっぱり分からない。そんな切原を穏やかに見守りながら、二人の中三は小さく頷いて。
「今から説明する。聞きなさい。」
柳が宣言した。病室のやけに白い壁に、白色のカーテン。
「真田は……素晴らしい悪の能力を秘めている。今でも十分に立派な悪の副部長だが、潜在能力は計り知れないものがある。その力を引き出すために……柳にこれを作ってもらったんだ。」
淡々と語る幸村。
「テニスのときもそうだろう?真田の真の力を引き出すスイッチは風林火山の四文字。でも、本当は真田はもっとすごい力を持っているんだ。その恐ろしいまでの力を引き出す装置。それがこのワルサー7号リアルフィールド☆スイッチだ。」
穏やかで儚げでありながら、なぜか力強いその言葉に、切原は訳も分からずに緊張してきた。
「幸村は、弦一郎のことを買っている。弦一郎を副部長に推薦したのは、めんどくさい事務作業を全部代わりにやってくれそうだから、という理由だけではない。」
柳の言葉に幸村は軽く頷いて。
「そうだよ。真田みたいに偉そうな感じのやつが、副部長だなんて微妙な肩書きなのが面白かったからってだけでもないんだ。」
ふふ、と笑った。
……先輩達、そんなコト考えてたんすか!
切原は、ムダな緊張のせいで一テンポ遅れてしまったツッコミを、自ら悔しく思いながら、それでも三年生たちの深くて強い絆を感じて、ちょっとだけ羨ましくなった。
「ご覧。赤也。今日、このワルサー7号リアルフィールド☆スイッチで、真田の真の力が開花する。」
幸村がベッドから立ち上がり、窓を開け放つ。
外は相変わらずの無風。ただ、何かが起こりそうな気配だけが満ちていた。
「秘められた力が……目覚めるときが来たんだ。」
ところ変わって、時間も遡って。
ここはダイブツダーの秘密基地、不動峰中のテニス部部室。正義を守るほくろ戦士たちの心の拠りどころである。
いつもはおっとりと正義のために語り合う基地の中が、今日は緊張感に満ちていた。
「どういう……どういうことだ?橘!」(大石)
珍しく強い語気で大石が問いかければ。
「……言ったとおりだ。いつまでも悪の侵略を待って、対応しているのでは埒があかない。そろそろこちらから仕掛けるときが来ている。そう言っている。」(桔平)
まっすぐな視線で桔平が応じる。
「こちらから仕掛けるのか?それは……。」(南)
あまり賛同できない様子で南はしばらく口ごもり、東方に視線を送る。
ほくろ戦士たちは平和を愛するが故に、桔平の主張に戸惑いを覚えていた。
そんな中。
「俺は賛成だぜ?あーん?」(跡部)
跡部が挑発的に口を挟む。
「悪は容赦なく捻り潰せ。悪を叩くのに理由なんかいらねぇ。そんなこと、正義の味方にとって、当たり前じゃねぇか。」(跡部)
跡部の隣で樺地がおろおろと視線を泳がせる。
「……跡部。お前の言うことにも一理あるが……。」(桔平)
水を打ったように静まりかえった一同を見回し、桔平が深い声で跡部を制した。
「俺が言いたかったのは少し違う。俺は……今日、一人で立海に行くつもりだ。立海に行って……真田と話を付ける。これ以上、東京に手を出すな、とな。もし話が付かなければ……仕方がない。悪と正義、正面から決着を付けるまで。」(桔平)
桔平の言葉に。
ほくろ戦士達は目を見開き。
「思い直せ!橘!そんな、むちゃだ!」(菊丸)
「相手は真田一人じゃないんだぞ!」(東方)
「せめて俺も一緒に連れて行ってください!!」(石田)
「無理よ!お兄ちゃん!!今日はお財布に300円しか入ってないのよ!!」(杏)
口々に桔平を思いとどまらせようとしたが。
桔平の決意は固く。
「俺が8時を過ぎても戻らなかったら……先に飯食っておけ。杏。」(桔平)
力強くそう言い残すと、杏から交通費を500円借りて、一人、神奈川へと向かった。
桜井の心の奥底に。
なんで杏ちゃんは橘さんの財布の中身を知っているんだろう……?
という小さい疑問だけを残して。
「真田。話がある。」
ところ変わって、ここは立海大附属。
薄暗くなってきたグラウンドの隅にあるテニス部部室の扉が、がたり、と控えめな音を立てて開く。
部室に残って、過去の部誌を読み返していた真田は。
「……悪の立海に何の用だ?ほくろ戦士、橘桔平。」
ゆっくりとその眼差しを上げ、低く尋ねた。
「そう殺気立つな。戦う気はない。」
桔平は真田の視線を正面から受けながら、まっすぐに言い放つ。
「ならば、戦う気のない臆病者が、何をしに来た?」
その言葉に、真田は立ち上がり、挑発的に笑って見せた。
「良いかい?赤也。これが『風』スイッチ。」
幸村は儚げな笑みを浮かべ、そっとその指先で、スイッチに触れた。
「これを押せば……真田の『風』の力が発動する。『風が吹けば桶屋が儲かる』パワーがね。」
「……はい?!」
切原の思いっきり疑問形の「はい?!」はあっさりスルーして、幸村は「風」スイッチをぐいっと押した。
「さあ。目覚めろ。弦一郎。」
窓に寄りかかった柳が小さく呟く。
そのとき。
部室の外ではごおっという激しい音とともに風が吹き抜けた。
「……風が出てきたようだな。」
桔平の存在を気にする様子もなく、真田は窓の外に目をやった。
桔平も視線を窓の外に移す。薄闇の向こうで、木が揺れている。
そして。
その突風によって、先に下校していた丸井の目に埃が入り、「痛い!何とかしろ!ジャッカル!」と、横にいたジャッカルに丸井は絡み、絡まれたジャッカルが右往左往している間に、京都府の桶専門店「桶屋本舗」にフランスから桶五千個の買い注文が入って、てんやわんやの大騒ぎになったのは。
真田達の預かり知らぬ話であった。
「そして、赤也。これが『林』ボタンだ。」
幸村の指が、すっと緑色のボタンを撫でる。
「これを押せば、真田の『林』の力が目覚めることになる。『五月雨を 集めて林 最上川』パワーがね。」
「ちょ……ちょっと待ってください!部長!」
切原の必死の抗議も空しく、幸村はぐっと「林」ボタンを押す。
「苦しいのは分かっているんだ。赤也。」
柳が苦笑すると、幸村も小さく頷いて。
「『林』が付くことわざを思いつかなかったんだ。……真田。苦労をかける。」
窓の外は薄闇。
そして、遠くまで続く、ビルの灯り。
「表に出ろ。橘。」
真田の低い声が部室に響く。
「ここは悪のための場所。お前などのいて良いところではない。」
桔平は軽く眉を上げ、真田を睨み付けたが。
「良いだろう。」
静かに頷いた。部室を後にする桔平に、真田が続く。
そして。
真田が部室から一歩踏み出したとき、驚いて舞い上がり逃げ出したグラウンドのスズメたちが、ジャッカルと丸井の頭上を旋回して飛び、それを見ながら二人が「スズメって美味いのかな」などと話し合い、料理法まで検討している間に、最上川上流に数日前に降った雨水が一斉に流れ込んで、突然流れが速くなったのは。
真田達の預かり知らぬ話であった。
「次は『火』スイッチ。」
おっとりと幸村が言う。
「これによって、真田の『火』の力が解放されるんだ。『心頭滅却すれば火もまた涼し』パワーがね。」
「……はぁ。」
切原は力無く頷いた。よく分からない。よく分からないけど、たぶん、先輩達が言うんだから、きっと間違いない。今、真田副部長の悪の潜在能力が開花しているんだ。自分には感じられないけども。きっとそうなんだ。
幸村が、自ら「ぽちっ!」と擬音を付けて、スイッチを押す。
「火よ……。」
柳が目を閉じたまま、小さく呟いた。
風は止んでいた。
「話を聞く前に、一つ、確認しておきたいことがある。」
真田はまっすぐに桔平を見据え。
校舎に点々と灯る教室の明かりが、一つ、また一つと消える。
「なんだ?」
低く問う桔平。
西の空には小さく星が煌めき始めていた。
無言のまま、真田は額の汗を手の甲で軽くぬぐう。
そして。
その真田の汗が水蒸気となって、神奈川県全域の湿度をささやかに上昇させ、それによって丸井が「なんか蒸し暑い!」と暴れだし、「柳が言ってたんだが、心ないやつはファイヤーでも涼しい気がするんだと」とジャッカルが誤ったことわざ知識を披露し、「じゃあやってみろよ」と丸井に挑発されて、「ファイヤー!」と叫び、「涼しかったか?」「いや、全然!」「俺もだ!じゃあ、俺ら、心ないやつじゃないってことだな!」「悪だけどな!」と誤解したまま、喜びを分かち合っている間に、島根県で火渡りの修行をしている修験者が唐突に悟りを開いて「火もまた涼し!」と感じていたのは。
真田達の預かり知らぬ話であった。
「最後に……『山』スイッチ。」
にこりと幸村が微笑む。
「これで真田の真の力が完成するんだね。この『船頭多くして船山に上る』パワーによって。」
「……真田副部長……。」
切原が真田の名を呼んだ理由は、自分でもよく分からなかった。ただ、なぜか、どうしても真田の名を呼びたかった。
幸村の指が、最後のスイッチを押す。
「大丈夫だ。弦一郎を信じろ。」
柳が穏やかにそう諭すのを聞いて、切原は黙って頷いた。
「……やはり、そうか。」
真田は自分の腕に目をやった。
「午後六時半。下校の時刻だ。橘よ。」
はっとして、桔平も自分の腕時計に目をやる。
「……そうか。下校の時刻か。」
他校であれ、下校時刻を過ぎて学校内にとどまるなど、正義の味方のすべきことではない。それは悪いことだ。
真田は帽子を深くかぶり直して、桔平を見据え。
「俺も今日の悪事はすませている。これ以上の悪事を重ねる気はない。」
鞄を担ぎ上げた。
そして。
そのとき、下校のチャイムが鳴り響いて、それを学校からかなり離れた場所で聞いた丸井が「おい、こんなトコでも聞こえるんだな!」とびっくりして、ジャッカルの頭をどさくさに紛れてひっぱたいている間に、船頭さんのグループが群馬県荒船山登頂に成功して記念撮影をして浮かれていたのは。
真田達の預かり知らぬ話であった。
「真田……。」
ワルサー7号リアルフィールド☆スイッチを手に、幸村はふぅっと息を吐く。
「お疲れ。幸村。」
「……真田のために、俺にできることなんて、スイッチを押すことくらいだもの。」
儚げにそう応じる幸村。
「お前のその悪の心は、弦一郎にきちんと伝わっているさ。安心しろ。」
ぽん、とその肩を叩いて。
「また近いうちに来る。」
切原を促して、柳は病室を後にした。
あ!菓子、もらい忘れた!と、切原が気付いたのは、病院の正面玄関を出てしばらくしてからのコトである。
柳と幸村の会話が、本当のコトなのか、ネタなのかなど、お菓子をもらい忘れたコトに比べれば、全く問題ではなかった。切原はひどく落ち込んで、次にお見舞いに行くときは、最初にお菓子をもらおうと心に決めたのであった。
立海の正門前まで、二人の男は無言で歩いた。
そして。
真田が立ち止まり。それに気付いて、桔平も立ち止まって。二人は黙って睨み合う。
数秒の時が流れ。
「一人で話を付けに来た勇気、尊敬するぞ。橘。」
そう言って真田は、右手を差し出した。
桔平は真田の言葉に、一瞬ためらったが。
「俺も、お前のチャイム下校の律儀さを尊敬する。」
素直にその右手を握る。
「いつか……正義と悪としてではなく、お前と話がしてみたい。」
そう言い捨てて、真田は寄り道する気配もなく、まっすぐに下校して行った。
その後ろ姿を見つめながら、桔平は、いずれ相容れない悪と正義にはいかなる結末が待ち受けているのだろうかと、思い巡らせ。
腹を空かせて自分の帰りを待っているであろう妹のコトを、はたと思い出し。
500円も早いところ返さなきゃいかんと気付いて。
あわただしく家路に就いたのであった。
空はすっかり夕闇の色。
そして、東京は今夜も平和な夜を迎える。
<次回予告???>
「ふーん。風林火山なわけね。」
「跡部知ってるの?風林火山っての。」
「当たり前だろうが。
喜ぶこと風の如く、
怒ること林の如く、
哀しむこと火の如く、
楽しむこと山の如し、だろうが!
略して喜怒哀楽とも言う。」
「すご〜い!さすが跡部は物知りだな!」
「ふん。菊丸に褒められたところで嬉しくなどないがな。」
次回!
題未定!!続くのか不明だけども、お楽しみに?
何がなにやら分からない話で、すみませんでした。
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