ぬいぐるみ(アズミ&ゴウメイ)





「お猿さん!」
「来たか。小さいの。」
 ぴょん、と足に飛びつくアズミを、ゴウメイは軽々と摘んで肩に乗せる。
「お猿さん、ぬいぐるみみたい!」
「何だ、それは。」
 最初は、アズミが無防備にゴウメイにじゃれつくのを、危ないと思っていた。
 だけど、最近では、エージは全然心配していない。
 ゴウメイは一見、粗暴に見えるが、可愛いものにはなぜだかとびきり優しいのだ。
「ふわふわ!」
「しゃぼんだまみたいにか?」
 ただ、一つ、難があるとすれば。
「違うよ!もこもこなんだよ!」
「グレイの耳みたいにか。」
 アズミもゴウメイも、悪気はないにせよ。
「グレイはウサギさんだね!」
「そうだ。ウサギさんだ。」
 どうにも、話が要領を得ないことで。
「絵本に書いてあったよ!ウサギさん、にんじん好きなんだって!」
「グレイは本当はキャベツも食うぞ。」
 つい聞き耳を立ててしまうエージとしては。
「アズミも!アズミも、キャベツ食べられるよ!」
「俺も食える!」
 どこで突っ込んでいいものかと。
「お揃いだね!」
「よし!じゃあ、お揃い同士、喧嘩しようぜ。」
 じりじりしたり。
「喧嘩じゃなくて、おままごとしようよ!」
「またか。」
 うっかり笑ってしまったり。
「今日は、お猿さん、ぬいぐるみの役ね!」
「よし!分かった!ぬいぐるみだな!って、ぬいぐるみって何だ!」
 脱力してしまったり。
「ぬいぐるみはね、ふわふわ!」
「ふわふわなのか!」
 とにかくくたびれる。
 だから、エージは。
「ふわふわはいいぞ!」
「うん!ふわふわはいいよ!」
 なるべく、この二人が一緒にいるときは、遠くから、眺めることにしているのだった。
 そんなうたかた荘の午後。









ブラウザの戻るでお戻り下さい。