ツキタケには、ガクがなぜそうまでして「目から鱗」に興味を持つのか分からなかった。
明神が気にしているのは構わない。というか、どうでもいい。
だが、クールな兄貴までがどうして「目から鱗」なのか。
ばかばかしい。
軽く舌打ちしながらごろりと寝転ぶ。
「ツキタケ?」
呼ばれて目を開ければ、アズミが真上から顔を覗き込んでいる。
「何だよ。」
「目から鱗って何?」
「……知るか。」
「でも、今、ツキタケ、目から鱗って言ってた!」
独り言を聞かれていたというのは、存外恥ずかしいもので。
一瞬、むすっとしたツキタケであったが、ふと尋ねる。
「お前、動物好きなんだっけ。」
「好き!」
「魚は?」
「お魚も好き!」
「鱗は?」
「鱗?鱗は……ちょっと好き!」
よいしょ、と身を起こす。
「だったら、お前、サクラやれ。」
「サクラって?」
「サクラはサクラだ。目から鱗、出せ。」
兄貴だってきっと一度その現場を目撃したら満足するだろう。
エージが聞いていたら即座にバットが飛んできそうな、すこぶる無体な話だが、ツキタケはツキタケなりに考えた。
そしてアズミも考えた。
「目からお魚、出すのでも良い?」
「目からお魚……。」
ツキタケはうーむと腕を組んだ。
魚ごと出したって、目から鱗が落ちたことには違いない。
だが、それ以前に何かが違う……何ていうか……。
目から魚を出すくらいなら……それくらいなら、もっと何かすごいことができるんじゃないだろうか?
その何かってのが、えっと、その……あの……あ!そうか!!
「ツキタケ?」
小首をかしげるアズミ。がしっとその肩をツキタケが掴む。
「お前、すげぇよ!」
「何?」
「時代は目からビームだ!」
「めからびーむ?」
「おう!お前のおかげですげぇ技ひらめいたぜ!」
その後のうたかた荘には。
「ツキタケに褒めてもらった!」
と嬉しそうに明神に報告に行くアズミと、新技「目からビーム」の開発にいそしむツキタケの姿があった。