「むかつく。」
エージがぼそりと言う。
「く……く……クッキー。」
姫乃の声。
「意気地なし。」
今度はツキタケ。
「し……?えっとね、白滝。」
もう一度、姫乃。
「嫌い。」
次はエージ。
「い……いかの塩辛。」
また姫乃。
「ら?」
ツキタケが止まった。
「っていうか、いかの塩辛って、反則だろ。姫乃。」
エージが姫乃を振り返って突っ込む。
「いか、でいい気がする。」
ツキタケも振り返って意見した。
リビングの椅子に座る姫乃の両脇に、背中を向け合うように、エージとツキタケがふてくされていて。
「だって、私だけ二人の倍、頑張ってるんだよ!」
真ん中の姫乃がむくれる。
「そりゃ、姫乃が三人でしりとりやろうって言ったからだろ!」
エージがまたついっと目をそらす。
「ネェちゃんの頼みだから、付き合ってやってんだ。」
ツキタケもエージに背を向ける。
二人が喧嘩を始めて、早三時間。
見かねた姫乃の苦肉の策が、何でかしりとりだった。
「分かったよ!いか、でいいよ。」
「じゃあ……カバ。」
ツキタケ。
「バームクーヘン。」
姫乃の声と同時に二人が振り返った。
「お前、負けてるだろ。」
「ネェちゃん、大丈夫か?」
エージとツキタケの同時ツッコミに。
「あ!」
慌てた姫乃の顔を見て、ツキタケがけらけらと笑い出す。
「もう一回、ば、からでいいよ。」
「じゃあね、バナナ!」
エージが一瞬黙る。
振り返ったままで、ツキタケにちらりと視線を向ける。
「……仲直り。」
姫乃はエージの言葉を気にしないかのように、そのまましりとりを続けた。
「リンゴ。」
ツキタケもまた一瞬だけ黙る。
そして。
「ごめん。」
小さく謝って。
そのまま、変則しりとりはおしまいになった。