大河ドラマを見ていたツキタケが、エージを振り返る。
「これって本当にあったこと?」
「ドラマだろ。」
日曜の夜は、気怠く過ぎてゆく。
姫乃の宿題を邪魔しないように、音量を下げて、見るともなくみんなで見ていた大河ドラマ。
「じゃあ、全部、嘘?」
「全部じゃないだろうけど。」
さすがに時代劇の全てが、真実だと思いこむほどにお子様でもないが、歴史を解説できるほどには、エージも大人ではない。
「見てたヤツ、もう生きてねぇんだから、どこまで本当かは分かんねぇだろ。」
誤魔化すようにそう言えば、ツキタケが首をかしげた。
「でもさ、この人とか、未練残して死んでそう。」
画面では、ちょうど、落ち武者が斬られてゆく場面で。
「この人、陰魄になってないかなぁ。」
「……なってても、もう案内屋に解体されてんじゃねぇ?」
「でも、ほら、いっぱい、死んでるし。」
戦場の回想場面は死屍累々。
「お前、会ったことあるか?ああいう陰魄?」
「おいらはないけど。」
「俺もねぇぞ。」
少年二人に、期待のまなざしを向けられて、明神は椅子ごと後ずさった。
「明神は?」
「お、俺か?」
有名人の陽魂や陰魄など、いそうな気もするが、そうそうお目にかかれるものでもない。
「源頼朝とか、会ってみたいよな。」
どうリアクションしていいのか、分かりかねて、明神は微妙に話の矛先をずらす。
ツキタケとエージは顔を見合わせた。
「頼朝?何でだよ。」
「やっぱり、知りたいじゃないか!本当に頼朝は『いい国作ろう』って言ってたのかどうか!」
ツキタケとエージはもう一度顔を見合わせた。
「日本で一番有名な台詞の一つだろ。『いい国作ろう鎌倉幕府』って。」
残念ながら、明神は大まじめである。
「気にならないのか?お前ら。」
今度は椅子ごと前進する明神。
少年たちは、明神に覗き込まれて後ずさる。
「えっと。」
「そ、そうだな。」
言葉を濁す少年二人の回答拒絶に、リビングの隅で英語の辞書をめくっていた姫乃が小さく吹き出した。