人間が好きだ。
だから人間は嫌いだ。
「いいね。そういうの、嫌いじゃねぇな。若者らしくて。」
公園のベンチで深夜。
陰気に座るガクの隣に、妙に陽気な陽魂が一人。
「お前さんとは、生前、一緒に飲んでみたかったなぁ。」
「ふん。」
いつから隣に座っているのか、ガクには記憶がない。
気がついたら居た。
まぁ、ガクの場合、一人でぐるぐる考え始めると、周りなど一切見えなくなるから、この男が忍び足で寄ってきたとは限らない。
おそらくどっかと腰を下ろしたのに、ガクが気づかなかったのだろう。
ガクが気づくまでも、きっとこの男はガクの独り言に、勝手に相槌を打っていたに違いない。
奇妙な男だ。
だが、この気配をガクは知っている。
ハセと明神が、ぶつかり合ったあの晩に感じた気配。
間違いない。
「家賃なら払わないぞ。」
男はにやりと笑った。
「ツケにしておいてやるよ。」
ふん、と鼻を鳴らすガクを、男が愉快そうに振り返る。
深夜の公園には人の気配はない。
静かに薄黄色の光を放つ街灯。
「ツケでも払わないぞ。」
「いい度胸だ。」
男は口を開けて豪快に笑った。
「商売やる気ないのか。」
つい、ガクの方が心配になってしまう。
「俺が張り切ったって仕方ないだろ。」
「ふん。」
まぁ、そうだろう。
どっちにしても、ガクたち陽魂が金を払えるはずもない。
「金なんか、なくてもな。いっぱい居ればいいんだよ。」
「何がだ。」
「陽魂でも、人間でも、猫でもいい。寂しい奴らがいっぱい集まればいい。」
「ふん。」
だからこの手の輩は嫌いなんだ。
こうやって、すぐ恥ずかしげもなく「正しいこと」を振りかざす。
そんな大義名分で、愛が語れるか?
そんな建前で、愛が語れるのか?
……こいつらの場合は、愛が語れるのだろうな。
現にマイスイートは、うたかた荘に居る。
「いいな。俺も、そういうの、嫌いじゃない。」
男がガクの顔をちらりと見た。
そして、ばんばんとガクの肩を叩く。
「やっぱりお前と飲んでみたかったな。何ならバナナを食うんでもいいぞ。」
「断る。」
男がにやりと笑った。
「いいね。お前のそういうとこ、嫌いじゃない。」
ガクも陰気ににやりと笑い返す。
もう夜が明ける。
「ツケは覚えておいてやる。」
「何、もう、家賃はもらったようなもんだ。」
男の姿がふわりと薄れてゆく。
そして夜明け前の、深い闇の中に、男の姿はふぅっと消えてしまった。