公園には人影はなかった。
まだ子供たちが学校や幼稚園から帰ってこない時間。
アズミは一人で、ジャングルジムの上に座っている。
「おーい。」
知らない人がアズミに手を振った。
「おじさんも、隣に行ってもいいか?」
怖い人じゃなさそうだ、と思った。
黒いサングラスをして黒いコートを着ている人は、いい人だと思う。
だって、明神はすごくいい人だ。
だから、この人もきっといい人だ。
アズミはこくりと頷いた。
「いい天気だなぁ。」
おじさんはひょいひょいとジャングルジムの上まで上がってきた。
そういえば、この人、アズミのことが見えるんだ。
ふと気づいて、嬉しくなる。
「ジャングルジムは好きか?」
おじさんが聞く。
「好き!」
「そっか。」
おじさんがアズミの頭を撫でる。
「おじさんは?」
「そうだなぁ。おじさんはジャングルジムよりも、バナナの方が好きだなぁ。」
「アズミは、ジャングルジムより、ブタさんの方が好きだよ。」
「じゃあ、仲間だ。」
アズミはますます嬉しくなる。
「ブタさんはすさんだ目をしているんだよ!」
とっておきのヒミツを教えてあげると、おじさんが目を丸くした。
「そうか!ブタさんはすさんだ目をしているのか!」
ヒミツを人に教えてあげるのは、何だかとてもくすぐったくて、気持ちがいい。
アズミは嬉しくなって、声を上げて笑った。
おじさんの大きな手が、アズミの頭を何度も撫でてくれる。
「寂しくないか?」
「うん!お友達がたくさんいるから、寂しくないよ!」
「それはいいな!」
今日はいい天気だ。
「あのね、姫乃とね、エージとね、ツキタケとね、ガクとね、それからね、それからね、明神!!」
おじさんが笑った。
「そうか。いっぱいお友達がいるんだな。」
「うん!」
お日様が気持ちいい。
アズミはぴょんとジャングルジムから飛び降りた。
「連れてってあげる!」
「ん?」
「うたかた荘!」
「うたかた荘、ね。」
おじさんもジャングルジムから飛び降りた。
「そしたら、おじさんも寂しくないよ!」
おじさんは嬉しそうに笑う。
「うたかた荘は好きか?」
「うん!ブタさんと同じくらい好き!」
「そうか。じゃあ、仲間だ。おじさんも、バナナと同じくらい、うたかた荘が好きだ。」
アズミがぴょんぴょん跳ねる。
でも、何となく分かっていた。
おじさんはうたかた荘には来ない。
「じゃあな。」
おじさんが手を振る。
アズミも手を振る。
「またね!」
おじさんは、にこにこと笑って、そしてふいっと風の間に消えてしまった。