陽魂と生者が隔てなく楽しめる数少ない娯楽に、テレビというものがある。
ツキタケがふあとあくびをする。
日だまりの午後。
「あのね。」
アズミを抱えていた明神はいつの間にか、眠りの中。
昨夜も、ダンナ、遅くまでどこか行ってたもんな。
ツキタケは、白河夜船の明神を見て見ぬふりをしながら、もう一度ふあとあくびをする。
「何だよ。」
明神の膝の上から飛び降りたアズミは、ツキタケの背中にぺたりと張り付いた。
「姫乃が言ってたよ。」
そう言ってテレビを指す。
「これ、てれびじょん、だって。」
「てれびじょん……?」
そういえば、以前、『ザ・テレビジョン』っていう雑誌があった気がする。
今もあるのかな。
なんて思いながら。
ツキタケは背中に張り付くアズミの話の続きを待つ。
「テレビ!」
アズミが、テレビを指さして、大きく宣言する。
「おう。」
確かにそれはテレビだ。間違いない。
「じゃあ、どれが、じょん?」
首をかしげるアズミ。
えっと。
ツキタケも首をかしげた。
テレビジョンという言葉は知っているが、ジョンの意味までは知らない。
「じょん?」
「じょん……?」
二人は見つめ合って首をかしげて、困惑した。
「じょん、どこ?」
そこへ、運悪く目が覚めた管理人。
「ジョンならさっき昼寝していたぞ。」
そして明神はふわと生あくびをして、もう一度寝に入る。
それは。
うたかた荘の近所の犬の名が、たまたまジョンだったというそれだけの。
たった、それだけのことで。
「じょんは寝てるんだって!よかったね!ツキタケ!」
「お、おう!」
何がよかったのかは分からない。
だが、アズミが満足そうに何度も頷くので。
ツキタケもとりあえず頷いておくことにした。