大都市東京に夜が来る。
そこは闇と光がせめぎ合う、死と隣り合わせの危険な領域。
静寂の中に潜むあまたの罠。
常に戦い続けなくては、大都市東京を生き抜くことなどできはしない。
たとえ、それが名の知れた案内屋であったとしても、だ。
「ちょっと来い!冬悟!」
そして今日も事件が起こる。
うたかた荘の玄関から響く明神の声。
「……マジかよ……。」
飛び出した冬悟は、一言呟いたきり、次の言葉が出なかった。
ありえないことではない。
しかし、それは冬悟の予想をはるかに超えていた。
「……こんなとき、どうすればいい?」
ようやく搾り出した言葉に、明神が笑った。
「なぁに、心配するな。教えてやるさ。」
恐るべき事態。
予想外の展開。
だが、その状況が改善されたわけでもないのに、明神の自信に満ちた一言で、冬悟は急に、全てが何とかなるような気がしてくるのだ。
大丈夫。
恐れることなどありはしない。
そんな甘ったれた自分が、実のところ、嫌ではない。
もちろん、そんなことを言ったら、師匠であるこの男が付け上がることは目に見えているので、冬悟は決してその事実を口にしないのであるが。
「こんなでかいのは初めてか?」
馬鹿にするわけでもなく尋ねる明神に、冬悟は頷いた。
大都会の闇に浮かび上がるその姿に、冬悟は喉を鳴らして唾を飲みこむ。
「美味そう。」
「美味いだろうな。」
恐るべきはご近所の年寄り連中である。
釣り好きのご隠居が釣ってきたという、巨大なイサキが、バケツの中でびちびちと跳ねる。
「まぁ、焼いてもいいけど、今夜は刺身だな。刺身。」
「刺身!!!」
「俺が三枚におろすから、お前、小骨抜く係な。」
「分かった!!!」
一千万都市東京。
その恐ろしき闇に潜むのは。
あまたの心優しきご近所さんたちなのである。