NO TITLE(黒明神)





 前略
 冬悟さま

 元気にやってっか?
 俺か?俺ならすごく元気に死んでるぞ?
 って何か変だけど、ま、いいか。
 いや、何だ、とにかく俺は元気だ。
 ハセの中で知り合った陽魂に妙に気のあうヤツがいてな。
 ちゃんと死んだらあっちで飲もうぜとか言ってたんだけどな。
 あっちでもちゃんと酒あるのかね。
 あんま高いヤツとかじゃなくていいからさ。
 ワンカップのヤツとかな。ああいうのがいいや。気楽で。
 あとバナナな。バナナ。

 えっとバナナの話はどうでもいいや。
 お前に言い残しときたいことがある。
 まずうたかた荘な。
 あれ、お前の名義に書き換えろよ?
 十味の爺さんに手伝ってもらえ。
 やり方は俺もよく知らねぇけど、ま、役所かどこか行ってやるんだろ。頑張れよ。
 って、ああそうか。
 もう俺が死んでから何年も経ってんだよな。
 じゃあ、心配ねぇか。

 あと何だっけ。
 そうそう銀行通帳。
 知ってるだろ。管理人室の引き出しに通帳と印鑑が入ってる。
 お前の名義のヤツな。
 俺の名義のヤツはたぶん葬式とか何かで消えちまうだろ。大して入ってねぇし。
 もちろん残ったらお前にやるよ。全部。
 って、これももうお前がちゃんと片をつけてることだよな。

 それから、あれだ。
 天井裏にエロ本隠してあるんだけど、あれも全部お前にやる。
 台所のシンクの下に六千円くらいへそくりがある。あれもやる。
 ああ!大事なこと、忘れてた!
 冷蔵庫の中のマヨネーズな。
 あれ、賞味期限が三年前に切れてるヤツだから。
 絶対、食うなよ?
 たぶん、食うとあの世が見えると思うぜ。
 それはそうと、あの世の挨拶って知ってるか?冬悟。
 「あのよぅ」って言うんだぜ?分かるか?どこが面白いか?
 ってか、もう棄てたよな?あのマヨネーズ。
 残ってるとしたら、国宝級だぞ。文化庁に持ってけ、それ。

 うーん。
 何か言わなきゃいけねぇことがあった気がしたんだけどな。
 どうでもいいことしかねぇな。
 ま、いいや。
 こんなもんだろ。
 
 いい天気だなあ。おい。
 死ぬのにちょうどいいや。
 何も言い残すことがねぇってのは、俺もたいがい幸せ者だ。
 なぁ、冬悟。

 本当にありがとう。








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