ガクは立ち去るのも唐突なら帰ってくるのも唐突である。
「明神。」
帰ってくるなり、不景気な表情で、明神の顔を食い入るように覗き込む。
「なんだ?おかえりのキスならしないぞ?」
その不景気さを笑い飛ばしてやるくらいには、明神にもうたかた荘管理人としての貫禄があって。
「大変なことになった。」
明神の冗談を完全にスルーして、ガクが呟く。
「大変?どうした?」
玄関先で再会して早々にこれである。さすがの明神も少し眉を寄せる。
がらんとした何もない玄関。
良い年した男が二人、顔をつき合わせて立ち尽くす。
「大変だ。」
「だから何が。」
「目に入れる鱗を大量に作っている工場を見つけた。」
「何?!」
「ヤツらが犯人だ。目に入っていた鱗は、ヤツらの仕業に違いない。」
「すぐ案内しろ!」
全身のやる気を見せて、今にも駆け出しそうな明神に。
ガクが深くうなずく。
「兄貴!」
少し遅れて帰ってきたツキタケは、勢いよく飛び出そうとしている明神とガクに目を丸くする。
「どこ行くんすか?」
「鱗工場、だ。」
陰気な声音で、しかしはっきりと答えるガク。
「……あの、兄貴。」
言いにくそうにツキタケが呟いた。
「あの鱗、コンタクトレンズっていうんすよ。普通。」