将棋盤に片肘を突いたままあくびをする明神。その背中にはへばりついてすやすやと眠るアズミ。
将棋には飽きたが、アズミが寝てしまったために身動きが取れない、というのが現状らしい。ガクも何となしに付き合って、向き合うように座っている。
「ん。」
身じろぎをして小さな声を出すアズミ。
夢でも見ているのだろうか。
ガクの視線がゆっくりとアズミを捉えた。
「なぁ。明神よ。」
「ああ?」
「陰魄のヤツらは……なんで陽魂を食らう?」
午後早い時刻のうたかた荘。
春先の気だるい空気が、リビングにも満ちている。
「食らうとそれだけ強くなるってことらしいがな。」
「生きているヤツらの食事と同じか。」
「嫌な譬えだが……ま、そんなようなもんだろ。」
己の手をぼんやりと眺めるガク。
「美味いのかね。」
「さぁな。ハセのヤツ、オッサンを食ったときは美味そうには見えなかったけど、エージ食ってたときは結構美味そうにしてた気がするな。」
「……生きているヤツよりは陽魂、年食ったヤツよりは若いヤツ、ということか。」
ガクが冷静に分析する。
「そんなもんかね。」
あんまり楽しい話題ではない。少なくとも、陽魂であるガクにとっては、すこぶる気分の悪い話に違いない。
だが。
ガクはもう一度、ゆっくりと視線をアズミに向ける。
「となれば、その小さいのが一番狙われやすい、ということだな。」
「……ああ?そうか。そうなるか。」
生きているヤツよりは陽魂。
年食ったヤツよりは若いヤツ。
うたかた荘で一番若い陽魂は、アズミ。
よいしょ、と小さく呟いて立ち上がったガクが、明神に寄りかかって眠るアズミの横にしゃがみこむ。
その気配に気づいたのか、ころりと寝返りを打ったアズミを膝に抱え上げて。
ようやく背中が自由になった明神が大きく伸びをして。
「ただいまー。」
エージとツキタケがどこからともなく帰ってくる。
「おかえり。」
共有のリビングでは明神がいて。ガクの膝の上で昼寝中のアズミ。いつもどおりの風景に。
「何やってたんだ?」
エージが尋ねたのは他意はなかった。社交辞令みたいなものだった。
だが。
「アズミが一番美味そうだ、って話をしてた。」
真顔でそう答えた明神に。
真顔で深く頷いたガクに。
「……アズミから手を離せ!!!この不潔なオトナどもめ!!!」
いきなりエージがキレて、ツキタケをえらくびっくりさせたのは。
四月も終わりに近づいたころのことであった。