もう外はすっかり暗い。
十二月とはいえ東京のことだから雪の気配はないが、それでも落ち葉を巻き上げる木枯らしは底冷えがする。
扉をすり抜けてうたかた荘に入ると。
「ツキタケ!」
小さな怪獣がぴょんと飛びついてきた。
「何やってんだよ。」
「サンタさん、待ってるの!」
無邪気に笑うアズミに、ツキタケは面食らって言葉を失う。
サンタさんなんて本当はいないんだぞ、などと言い出すほどツキタケは子供ではない。
だけど。
サンタさんは生きている子供のところに来るもので。
俺たちのところには、もう。
そんなツキタケの思惑など気づくはずもなく、アズミは小首をかしげた。
「ツキタケも、サンタさんにお手紙書いた?」
「……書いてねぇけど。」
薄暗い玄関でアズミが跳ねる。
「アズミはね、姫乃に書いてもらったの!」
指を指す先には、かわいらしい封筒が一つ。サンタさんへ、と姫乃の文字で宛名が書いてある。アズミに付き合って書いてやったんだろう。
「ツキタケも書いてもらえばいいよ!」
そんなことを言われても……。
ツキタケは言葉に窮する。
あのネェちゃんがグルならば、もしかしたらうたかた荘にもサンタさんは来るのかもしれない。
でもな。
あのサンタさん、貧乏っぽいしな。
「お前、何頼んだんだ?」
「新しいおくつ!」
ぴょん、と、もう一度アズミが跳ねる。
靴、か。
絵本とかなら買ってきてやったら、姫乃や明神が読んでやれるだろうけど。
靴は無理なんじゃないか。
だって、俺たちは、もう、死んじゃってるんだから。
二三度瞬きをしたきり、黙り込んでしまったツキタケを気にすることもなく。
「だってね!」
アズミがにこりと微笑んだ。
「明神のおくつ、ぼろぼろのぺっちゃんこなんだよ!」
足元を見れば。
ひどく履き古された靴が一足、行儀悪く脱ぎ捨ててあって。
そっか。
だから、新しい靴、か。
あの手紙読んだら、サンタさん、困るだろうな。
なんだか温かい笑いがこみ上げてくる。
「バッカだな、お前!いい子のトコにしか、サンタさんは来ないんだぞ。」
「アズミ、いい子だもん!」
むきになって言い返すアズミ。ツキタケはにっと笑って。
「いい子はもう寝る時間だろ。」
ちょっとだけ不満そうな目で、アズミは小さくうなずいた。
「じゃあ、寝る。」
今夜、貧乏くさいサンタが枕元にこっそりプレゼントを置きに来ることを、小さな二人はまだ知らない。