アイスクリーム(明神&エージ)





 俺は叫ぶ。
「だぁっ!!うっとうしい!!」
 あ、そうそう。最初に言っとく。
 うたかた荘では「!!!」がマックス音量だ。よく分からないが、そういうことになっている。今の俺の叫びは「!!」だから、そこそこの大音量だと思って欲しい。
 って、びっくりマークの話をしているんじゃなかった。
「何、うじうじしてんだよ!」
 管理人室の真ん中で座り込んで頬杖付いて頬膨らまして、よく分からないけど何かいじけているらしい明神の背を、俺は思いっきり蹴っ飛ばす。
「……うるせぇ。」
 あーあ。完璧いじけてやがる。いい年して何やってんだか。
 と、ため息混じりに見下ろしてやれば。
「てめぇに俺の苦悩が分かるか!エージ!!」
 がばっと立ち上がって俺を威嚇しやがった。
 そしてヤツは叫ぶ。
「ああああ!!!アイス食いてぇ!!!」
 さっきも言ったけど、うたかた荘の最大音量は「!!!」な。
 って、おい。
「何いじけてんのかと思ったら、原因はアイスかよ!!!」
「おおよ、アイスだ!!!アイスで悪いか!!!」
 マジでキレてるし。俺を見下ろしてくわっと目を見開いて。
 ああ。もう。「クールで最強」はどこ行ったんだよ。
「アイスくらい、食えばいいだろ。」
「エージ、お前な。アイスって言っても、コンビニの百円アイスとかじゃ駄目なんだ。サーティワンのフレーバーアイスの、コーンに乗ってるかわいいヤツな。ああいうのを食いてぇんだよ。」
 急に肩を落とし切々と訴える明神。
 あほか。コイツ。
「食えばいいだろ。んな、高いもんでもないし。」
「……オトコ一人で寂しく食うのか?」
 恨めしそうな目で俺を見んな!
「姫乃、誘えば?」
 俺の賢い提案に、明神が数歩後ずさった。
「そ、そんな、初々しいデートのようなマネができるか!!」
「……姫乃と明神じゃ、デートっていうより、援交だな。」
「そ、そんな、ふしだらなマネができるか!!!」
 殴られた。
 ここで俺が殴られるのは不条理だと思う。
 あ、一応、言っておくけど、その場合、姫乃が明神に援助してるって展開な。
「アイツがいたときは一緒によく食いに行ったんだけどな。」
 思い出したようにぽつりと呟く明神。アイツってのは他でもない、明神の師匠だ。
「オトコ二人でか?」
「二人いれば平気だろ?」
 そんなもんか……?
 首をひねる俺に、明神が感に堪えないって表情で呟いた。
「アイス屋の前で『一人にしないでくれ!』とすがりついた俺に、アイツは言ったんだ。『できるさ。冬悟。お前なら。』ってよ。でも……俺じゃ無理だ。一人じゃアイスは頼めねぇ。」
 いやいや、それ、相当記憶捻じ曲げてるだろ。もとはアイス食う話じゃなかっただろ。
 それ、いくらなんでもお前の師匠が可哀想だから。
 額を押さえた俺に、明神は大きくため息をつく。
「しょうがないよな。もう、アイツはいないんだ。」
 おい待て!そこでキレイに話をまとめんな!
 俺も負けじとため息をついた。
「ああ、分かった分かった。俺が一緒に行ってやるよ。」
 途端に目を輝かせる明神。
「ホントか!?」
「おう。」
 食うのはお前だけだけどな。
 そして。
 ヤツは叫ぶ。
「そうと決まれば行こうぜ、エージ!!!」
 ああ。もう。
 最強の案内屋ってヤツは本当に世話が焼ける。









ブラウザの戻るでお戻り下さい。