「どうしたの?明神さん。ぼーっとして。」
姫乃が顔をそっと覗き込む。
「ん?」
しばらく覗き込まれて、ようやく自分がぼーっとしていたことに気づく。
明神は、小さく瞬きを繰り返し、そして豪快に笑った。
「……考え事?」
小首をかしげる姫乃。
この子に、嘘はつきたくない、と思う。
「んー、まぁ、考え事かな。」
「何考えてたの?」
それでも、全てを打ち明けるべきか、迷う瞬間はある。
せめて冗談めかして、明神は口を開いた。
「秘密!」
こんなとき、オッサンだったら、何て答えるのかな。
明神はふと思う。
あの人だったら、何て言うのだろう?
「私にも秘密?」
姫乃が重ねて問う。
このまま答えずにいたら、この子はそれ以上は問わないだろう。
別に、それでも良いのだけれど。
「いや。これは、ヒメノンには言っておこう。」
隠し立てはしたくない。姫乃はうたかた荘の住人なんだから。
勢いよく座りなおして、明神はにっと笑った。
「秘密といっても、うたかた荘のみんなは、たいがい知っていることなんだが。」
律儀に明神の前に正座して耳を傾ける姫乃。
「目から鱗が落ちるって言うだろう?」
「え?はい。」
「あの鱗はだな。いったい、どうして目の中に入っていたのか。」
「はい。」
「俺はそれを知りたいと願っている。ずっと前から。」
「……はい!」
姫乃の目がきらりと光った。
「私も考えてみますね!私、明神さんの力になりたいから!」
こぶしをぐっと握りしめる姫乃を、明神はまぶしそうに見つめ。
それから黙って天井を見上げ、小さく笑った。