イエー!!!(オールキャラ)




 明神と俺、と書かれた古ぼけた写真。
 すっかり折り癖がついてしまって、ぼろぼろで。
 どうしようもないその一枚を、明神は苦笑しながら眺める。
 何が、明神と俺、だ。
 忘れるはずなどない。
 そこに写った黒服の男が誰なのか、忘れられるはずなどない。
 その男に全身で愛されている無愛想な少年が誰なのかなど、忘れていいはずがない。
 なんでわざわざ名前なんて書いたんだか。
 忘れてしまう日が来るとでも、思っていたんだろうか。
 それとも……自分がいなくなったあとも、この男の名前を誰かに知ってほしいと、そう思ったのだろうか。
 名前を書き込んだときのことを、明神はもう覚えていない。当たり前のように幸せだった、その短い年月。写真の裏に二人の名前を書けるなんでもない日常など、当たり前すぎて、もう思い出せないのだ。それが、たったそれだけのことが、いかに幸せなことであったのか。
 この男と、ともにいた、ただそれだけのことが。
「明神さん?」
 共有リビングを通りがかった姫乃が、廊下から顔をのぞかせる。
 風呂上がりだろう。タオルで髪を拭きながら、明神の手元に目をやった。
「その写真……。」
 姫乃は知っている。その二人が誰であるのか。二人の間にいったい何があったのか。
「明神!」
 壁から飛び出してくるアズミ。
「待て!アズミ!」
 追いかけて飛び出すエージ。
「ん?写真?」
 二人はそのまま、ソファに腰掛ける明神を取り囲んで。
「なんだ?」
 帰宅するなり、リビングが騒がしい、とガクとツキタケも顔を出す。
 いつの間にか大賑わいになるリビングに。
「お前ら、集まりすぎ。」
 うっかり笑みがこぼれる。
 オッサン。俺は一人じゃないぜ?
 手がかかる住人ばかりだが、おかげで寂しがっている暇がない。
「破けちゃいそうだね。」
 姫乃が写真の折り目を気にするように、そっと指先でなぞる。
「ああ。確かにぼろぼろだな。」
 葬式のときの写真は、確か十味のジーサンがこれを引き伸ばしたんだっけ。
 ふとそんなことまで思い出す。
 一番いい顔しておるからな。
 十味の穏やかな声が脳裏をよぎった。
 確かに……いい顔してるよな。オッサン。
「ずっと気になってたんだけど、この写真、どっかで見覚えあるような……。」
 首を傾げるエージ。
「おっきいやつ、明神の部屋に置いてあるよ!」
 アズミが手を叩いて応じる。
 そういや、葬式のときのあれ、部屋に置いてあったな。
 しかし、アズミもエージもよく見てるもんだ。
 さっそく管理人室の隅から引っ張り出してくれば、全員が興味深そうに覗き込んで。
「葬式に使った写真、か。」
 ガクが呟く。
「ああ。」
 さすがにガクは神妙な顔つきで、その写真を眺めていたが。
「こういう写真って、何ていうんでしたっけ。」
 腕を組んで真剣に悩んでしまった様子の姫乃に。
 用意はいいか?
 明神が皆を見回した。
 ツキタケがうなずく。アズミが嬉しそうに飛び跳ねる。エージは苦笑しながらも身を乗り出す。そしてガクが神妙にこぶしを握りしめて。
 明神の目配せにあわせ、全員が力強く叫んだ。
『イエー!!!』
「ああ!そっか!遺影か!」
 姫乃がすっきりしたように手を打って。
『イエー!!!』
 うたかた荘は今夜も大変平和である。








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