屋根の上に座る。
別にどこにいたっていいんだけど。
夜は屋根の上がイイ、と思う。
そんなガクの膝の上に、当たり前の顔をしてアズミが座っている。
「それでね。」
今日、見たこと。
姫乃と遊んだこと。
エージとツキタケのけんかのこと。
アズミの口から紡がれる言葉は、いつだってそんな取り留めのないことばかりで。
ガクは何も言わない。ただ黙って聞いている。
「あ!そうだ!」
振り返るように、ガクを見上げるアズミ。空を見ていたガクは、その気配にゆっくりと視線を戻す。
「明神がね!ガクはヘンタイだって言ってた!」
「……明神め。」
「ね!ヘンタイって、どういう意味?」
興味津々なアズミのまなざし。
ガクはアズミを抱きあげて、よいしょ、と座りなおす。
「空をごらん。星が見えるだろう?」
「うん!」
素直に空を見上げるアズミを撫でて、ガクは陰気に笑った。
「夜になると、いつだって星はきらきらしているんだ。誰も見てくれなくても。」
空の星は。
誰も見ていなくても、いつだって静かに世界を照らしているから。
そう。
それは自分たちと同じ。
誰にも気づかれず、ただ、ここに居る。
「きれいだね!」
「ああ。きれい、だな。」
にこりと微笑むアズミ。ガクは緩慢な動きで再び空を見上げた。
誰にも気づかれなくてもイイ。
ただ、そこに在る。
「それが、天体、というものだ。」
ガクは知らない。
物陰で、エージが「天体とヘンタイは大違いだろうが!」と突っ込みたくてうずうずしている、ということを。
そして、そのエージを、ツキタケが懸命に引きとめている、ということを。
それぞれの思惑を星に託して。
うたかた荘の夜は静かに更けてゆく。