的中(明神&エージ)
うろこ物語第九話。





 バットを担いで素振りに出ようとしたエージを、明神が呼び止めたのは、姫乃のいない平日の昼下がりのこと。
「強くなりたいか?」
 真顔で尋ねた。
「……強くなりたい。」
 まっすぐな目で答えるエージ。
 強くなりたい。
 負けないために。
 誰にも負けないために。
「だったら、俺に考えがある。」
「教えてくれ!」
 素直に食らい付くエージに、明神は小さい笑みを浮かべた。
「まぁ、あせるなって。」
 取り出したのは、鱗。
「……。」
 嫌な予感を感じつつ、エージはそれでもおとなしく、明神と鱗とを見比べた。
「いいか?鱗をイメージするんだ。……そして、そいつを敵の目の中にぶちこんでやれ。お前の針の穴を通すようなバットコントロールで。そうしたら、相手は視界が悪くなって動きが鈍る。動きが鈍れば後はお前の独壇場だ。」
「……。」
 嫌な予感、的中。
 エージは考えた。
 どこから突っ込むべきか。
 エージは大人だったので、とりあえず穏当なところから突っ込むことにした。
「針の穴を通すようなってのは、普通、ピッチャーだろ!」
「いや!イチローを見ろ!あの巧妙なバッティング!」
 せっかくの大人のツッコミが通用しない真顔の明神に、エージはやはり正攻法で攻めるしかないことを確信する。
「っていうか、それ、単なる目潰しだろ。卑怯じゃねぇか?」
「卑怯じゃない。由緒正しき『目から鱗が落ちる』作戦だぞ!」
 えっと。
 エージは考えた。
 一生懸命、考えた。
「なんつうかさ、それ、『目に鱗を入れる』作戦なんじゃねぇか?」
「……!」
 エージの言葉に明神は衝撃を受けたように固まって。
「エージは頭いいな!」
 はっはっはっと声に出して、明神は快活に笑った。
「いや、その。」
 どんなあほらしいことであっても、明神に褒められたとたん、魂のどこかが温かくなってしまうのが、悔しくて。
 わざわざそっけない声音で。
「目、狙うってのは、悪くないと思うぜ?確かに当たったら効くもんな。」
 せっかくそう妥協してやったのに。
 うーんと腕組みをして、エージの顔を覗き込み。
「若いくせにえらく地味な戦略だな!おい!」
 さわやかな笑顔でそう言い放つと、明神はまた機嫌よく笑った。









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