玄関の戸をそっと開けると、アズミが手持ち無沙汰を絵に描いたような顔をして座っている。
「明神!」
「ただいま。」
「酔っぱらい!」
アズミに指をさされても、「人を指さしちゃいけません」と教育的指導をする余裕がないほどに、確かに明神は酔っていた。
眠い。
ともかく眠い。
そんな深酒をした記憶はない。
十味に付き合って、ほんの数杯だ。
だが、数日来の寝不足やら疲労やらのせいだろう。
酒の回りが恐ろしく早い。
「おやすみ。アズミ。」
「ここで寝ちゃだめ!」
玄関先でそのまま寝込みそうになる明神に、アズミが慌てる。
ただでさえ、寝相の悪さは折り紙付きなのだ。
玄関で寝てしまっては、道まで、ほんの数メートル。
車にひかれたら、いくら丈夫な明神でもちょっと痛いに違いない。
それに。
誰かが車にひかれるのは。
もう。
いやだ。
「明神!」
むりやり起こそうとしても、明神は薄目すら開かない。
エージはどこかへ行ってしまっている。
姫乃はもう寝てしまったし、姫乃が引っ張ったところで、明神を動かせるかどうか。
アズミは周囲を見回した。
そうだ!あのテープ!変な模様のテープ!
あれでぐるぐる巻きにしたら、きっとへいき!
だが、あたりを見回しても、明神のテープはどこにもない。
そのとき、もぞり、と明神が身じろぎをした。
「明神!」
「……みょ……じん?」
かすかな反応。
アズミの声のする方に、ごろ、と寝返りを打つ。
翌朝。
明神は自分の布団の上で目を覚ました。
床で寝たかのように、全身が痛い。
だが、そのわりには布団で寝ている。
すぐ隣には遊びつかれたような寝顔で、アズミが転がっていて。
そういえば、昨夜はアズミとあの明神が一緒に遊んでいる夢を見たような、と。
こわばった首を回しながら、明神冬悟は小さく微笑んだ。