「なぁ。冬悟。」
明神が真顔でこっちを見た。
小汚いちゃぶ台と、壊れかけのテレビ。それだけしかない部屋で。
「俺は思うんだが。」
ワンカップの日本酒をこつんと音を立てて置く。そしてひじを突く。
冬悟に真剣なまなざしを向けたまま。
ほおづえをつく。
「思うっていっても、昨日今日のことじゃない。ずっと前から考えていた!」
前置きが長いのは、明神のいつもの癖。
そして。
単刀直入なのも、また。
「ずばり!どうしてだと思う?!」
部屋の隅、壁に寄りかかって、気だるげに座っていた冬悟が眉をあげた。
「それじゃ、何聞かれてるか、わからねぇだろうが!」
何もない部屋で、二人きりで。
「いや、すまん!すまん!」
いそいそと座りなおす明神。もう一度、ほおづえついて。
「目からが鱗が落ちる、って言うだろ?」
「ああ。」
他人同士。なぜかともに居て。
「あの鱗がだ!そもそも、何で目に入ってたんだ?!」
サングラスの下の明神の目は、きっと子供みたいにきらきらしているんだろうな、と思う。
思うけども。
「普通、目に鱗なんか入れないだろ?不思議だよな!」
真剣そのものの明神に。
「オッサン……もう、寝ろよ。」
冬悟は大きくため息をついて、ひざに腕を置いてほおづえをつく。
その姿勢が、明神そっくりであることなど、冬悟も、明神も、知る由はなく。
ただ夜だけが静かに更けてゆく。